毒を以て毒を制す②
「毒の魔物が相手なら……毒耐性装備があれば、有利に戦えるかもしれない」
会議室を出たカイは、まっすぐギルドの廊下を歩きながら、呟いた。頭の中ではすでに、対策の構想が走り出していた。毒耐性を持つ布――それは既に自分が作ったことのあるものだ。
湿地の調査をした際に使用し、実際に瘴気の中で効果を発揮した。その技術を、今こそ“皆を守るため”に使うときだ。
「カイさん、どこへ行くのですか?」
リーナが静かに後を追ってきた。
「バルドさんに提案する。あの毒耐性布でローブを大量に作れれば……ワイバーンの毒から冒険者たちを守れるはずだ。」
「それは、素晴らしい発想です。ですが、生地の材料は足りるのでしょうか?」
「いや、全然足りない…けど、ここは冒険者ギルドだ」
「バルドさん、毒耐性布をローブにして全員に配れば、ワイバーンに対する生存率が格段に上がると思うんです。作り方は俺が全部わかってる。けど、素材が圧倒的に足りない。冒険者たちに協力して、素材を集めてもらえませんか?」
バルドは腕を組み、短く唸る。
「その毒耐性の付与、確かリーナのローブにも使っているやつだな? それが実用レベルで出来るのか?」
「できます。少しでも薄く、動きやすく仕立てる工夫もある。毒に対する効果は実証済みです」
数秒の沈黙の後、バルドは頷いた。
「よし。お前は布の作成に専念しろ。素材の件は俺から冒険者たちに依頼を出す。それと……防具職人にも声をかけておく。お前が渡した布を即座に加工できるようにな」
「ありがとうございます!」
カイはそのまま、急ぎ自宅兼研究室へと向かった。だが、毒耐性の付与は時間を大量に消費する作業だ。間に合うかどうか――焦りが胸を締め付ける。
そして作業を始めて数時間。限界に近づいたそのとき――
「カイさん、お手伝いに来ました」
扉を開けて入ってきたのはリーナ。そしてその後ろには、錬金術ギルドのマスター・ヴォルター、さらに五人の熟練錬金術師が立っていた。
「錬金術の力で、街を守れるなら……喜んで力をお貸そう。」
「ヴォルターさん……ありがとう!」
その夜から、錬金術師たちとの共同作業が始まった。錬成、付与――すべてを分担し、不眠不休で作業が続いた。ワイバーン襲来まで残された三日間、文字通りの総力戦である。
そして期限ぎりぎり、完成した毒耐性布は束ねられ、防具職人たちの元へと届けられた。
「こっから先は、俺たちに任せろ」
分厚い腕をした防具職人たちにバトンが受け渡された。
その後カイは毒耐性ポーションと解毒薬をすべての冒険者に配布した。
――自分にできる最大限のことを、この街を守るために




