錬金術で一攫千金③
「カイさん、すみません。買い物に付き合っていただけますか?」
街に戻って来てから数日後。ギルドから支給された報奨金を受け取り、ホクホク顔のリーナが珍しく自分から声をかけてきた。目的は装備の新調。ヒュージポイズンスライム戦で、彼女のローブも杖もすっかりボロボロになっていたのだ。
「いいけど……ちゃんと選べよ? 金は一度使ったら戻らないぞー」
「もちろんです。無駄遣いはしませんよ、たぶん」
口ではそう言いながら、リーナはすでに目をキラキラさせていた。冒険者の店が立ち並ぶ商業区に入るや否や、彼女のテンションは急上昇。真っ先に向かったのは魔術装備専門店だった。
「わぁ……このローブ、炎魔法の補助付き……すごいです……!」
「ほう、見た目も悪くないな。ちょっと高いけど――」
「買います!!」
その場で購入を決めたリーナは、次に新しい杖を吟味し始めた。これまた高性能な魔力増幅機能付きの逸品で、彼女は大切そうにその杖を抱きしめていた。
「えへへ……すみません、なんだか夢みたいで……」
「まあ、たまにはいいんじゃね? がんばったしな」
途中、屋台で肉まんや果物串を買い食いしながら、二人はすっかり遠足気分。リーナが笑顔で歩く姿に、カイもつられて少しだけ頬をゆるめた。
――そしてその後。
「ふっふっふ……俺のターンだな」
カイも財布を握りしめ、錬金術素材屋や道具店を巡り始めた。毒草の乾燥品、希少な鉱石、試験管セットに特殊フラスコ、そして自動攪拌機能付きの高級調合皿まで――あらゆるものを「これは必要だ」「研究に使える」「面白そう」でカゴに放り込んでいく。
「カイさん、それ、本当に全部必要ですか?」
「絶対に必要! というか欲しい! 浪漫だ!!」
「……さっき私に言ったこと覚えてます??」
結果――。
「……あれ? 金、もうない……?」
街のベンチに座ったカイは空になった財布を見つめながら呆然とつぶやいた。足元には山積みの錬金器具、袋に詰まった素材がゴロゴロと転がっている。
「また、パンとスープの生活か……。くっ……!」
「だから言ったんですよ……。というか、売るとか考えたことないんですか?」
「売る?」
「はい。カイさんが作っているポーションとか、売ってみたらどうですか?」
リーナに言われて顔を上げたカイの視線の先には、ちょうど通りの先に掲げられた錬金術ギルドの看板が見えた。街でも数少ない、正式にポーションなどの取引を行う施設である。
「なるほど……準備して行ってみよう……!」
キラリと目を輝かせたカイは、大量の荷物を抱えて立ち上がった。
「金がないなら稼げばいいんだよ!」
その背中をリーナは呆れたように見送る。
「行動力だけは……ほんとにすごいですね」
そう言いながら、リーナはため息をつき、カイの後を追って歩き出した。




