錬金術で一攫千金②
ギルドから追い出されるようにして新拠点へと移動したカイは、早速空き部屋に置いていた錬金術道具一式を運び込み、“毒耐性トレーニング場”の設営に取りかかっていた。場所は町の外れにある古びた平屋。元はギルド職員の家だったらしく、埃まみれの床と軋む扉の音がやけに哀愁を誘うが、本人は「実験室だと思えば最高だな……!」とむしろご満悦である。
「じゃあ、今日から本格的に“毒耐性強化プログラム”始めますか!」
不安げに眉をひそめるリーナの視線も気にせず、カイは湿地で手に入れた毒を次々と並べていく。まずはポイズンスライムの粘液。次に、赤紫色の花弁を持つ食虫植物の毒腺から抽出した液体。そして、とぐろを巻いた蛇魔物の牙から採った濃縮毒。いずれも通常なら命に関わる猛毒だが、カイは嬉々としてスポイトで毒を一滴ずつ自分の口に垂らしていった。
「ぐっ……ぅぅっ……! やっぱ苦いな、これ……でも……悪くないッ!」
途端に顔をしかめて苦しみ始めるカイ。その姿を見ながら、リーナは呆れたようにため息をついた。
「カイさん、本当に続けるんですか、それ……。いや、止めませんけど、カイさんほどの毒耐性があってまだ無茶するんですか?」
「毒耐性は……上げれば上げるほど強くなれんだ……!」
「ほんとに大丈夫ですか……? ていうか、顔、笑ってません?」
リーナが若干引いた顔で水差しを差し出す中、カイは額から汗を吹き出しながらも、喜びに目を輝かせていた。徐々に体が毒に慣れ始め、数時間後にはついに、この表示が頭に浮かぶ。
《スキル「毒耐性Lv.5」→「Lv.6」に上昇しました》
「よしっ……まずはひとつ上がった……! でも、ここからが本番だ……!」
そう言ってカイが取り出したのは、金属のフラスコに密封された、どろりとした緑黒の液体――ヒュージポイズンスライムから採取した毒である。
「それ、見るからにやばいですよ。やめておいたほうが……」
「大丈夫だ、リーナ。これを克服すれば、俺はさらに高みへ行けるッ!」
自信満々にフタを開けた瞬間、ツンと鼻をつく異臭が部屋を満たし、リーナは思わず鼻を押さえる。
「いや、全然大丈夫そうに見えませんけど……!これ飲んだら死んじゃいますよ!?」
「死なないって! たぶんね!! よし、行くぞ……おおおおおおお!!」
――そして数秒後。
「がああああああああああああああっ!?!?!? 胃がッ! 胃が燃えるッ!! おええええええええええ!!」
床をのたうち回りながら絶叫するカイ。その姿はもはや勇者というより自爆志願兵だった。リーナは真っ青な顔で解毒薬を手にし、なんとか口に押し込む。が、数分後にはまたフラスコを開けるカイの姿が。
「ま、まだ……まだいける……! 次こそ、慣れる……ッ!」
「ちょっと待ってください!?おかしいですよその精神!!」
心配で泣きそうな顔のリーナをよそに、カイは吐いては飲み、のたうち回ってはまた挑戦し――それを何度も繰り返した。そして、半日が経過した頃。
「――ふぅ……勝った……勝ったぞ……!」
フラスコを空にし、静かに立ち上がったカイの脳裏に、再びスキルの表示が浮かぶ。
《スキル「毒耐性Lv.6」→「Lv.7」に上昇しました》
「すごい……ほんとに克服した……」
呆然とするリーナの隣で、カイは達成感に満ちた顔で天井を見上げていた。彼女はその姿を見て、思わずぽつりと呟く。
「……この人、本当に毒に愛されてるんじゃ……?」
こうしてカイの毒耐性訓練は、一歩も二歩も“人間の限界”を超えながら、順調に(?)進んでいったのだった。




