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毒霧に沈む湿地と、蠢く巨影④

一度村に戻ったカイとリーナは、これまでの戦闘を踏まえ、ポイズンスライムへの対策を本格的に練ることにした。特に問題となるのは、スライムの体液──強力な毒液が斬った際に飛び散り、肌に付着した場合の危険性だった。



「触れただけで火傷みたいにただれるんだ。だったら、物理的に肌を守ればいい」



毒の性質を熟知しているカイは、手元の資料や自身の経験をもとに、必要な装備の仕様をまとめていく。毒耐性ポーションを塗布し、乾燥させることで毒を通しにくくする薬剤処理を施した布地。さらにそれを使い、顔以外の肌が一切露出しないような密閉性の高い服装を村の仕立て屋に依頼する。



「見た目はちょっと不審者っぽいけど、効果は抜群なはずだ」



その間、カイはリーナとともに村の周辺で薬草の採取にも励んだ。解毒薬、持続型の毒耐性ポーション、回復ポーション──湿地の再調査に向け、準備を一切妥協しなかった。



数日後、装備が完成し、二人は再び湿地へと足を踏み入れた。顔の防護を除いた全身を特殊生地で包み込んだカイの姿は、まさに毒の中を戦うために生まれたような、万全の装備姿だった。


「これなら多少飛び散っても問題ない。思いっきりいけるな」



「……見た目はともかく、頼もしさは倍増ですね」



新たな装備を身にまとったカイは、現れるポイズンスライムを次々と剣で切り伏せていった。以前は毒の飛沫を恐れて慎重にならざるを得なかったが、今では躊躇なく踏み込める。毒の霧が濃くなればなるほど、スライムの数も増していったが、カイの動きに迷いはなかった。



一方で、リーナは耐性装備こそ整えていたが、毒霧による影響で徐々に息が上がり始める。



「……っ、平気です。まだ……動けます」



「無理すんなよ。引き返すか?」



「大丈夫……ここまで来たんです。あと少しだけ……」



その言葉を聞いたカイが頷いたその時、前方の霧の奥に、ひときわ大きな“影”が揺れ動くのが見えた。



「リーナ、霧を払ってくれ!」



「はいっ!」


風魔法が霧を吹き飛ばすと、そこに現れたのは、少なくとも五メートルは優に超える、巨体のスライム。禍々しい緑黒の粘体が脈動しながらうねっている。



「……あれは、ヒュージポイズンスライム……!」



その脈動する禍々しい塊に、二人は言葉を失った。


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