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毒霧に沈む湿地と、蠢く巨影 ③

湿地の奥へと進む中、二人は一度足を止め、休憩を取ることにした。リーナが風魔法を唱えると、周囲を包んでいた濃密な毒の霧が一時的に吹き飛ばされ、ぽっかりとした空間が現れる。そこは毒に満ちた湿地の中では貴重な、一時の安息地だった。



「ふぅ……ようやく一息つけた……」



カイが腰を下ろして水筒を口に運ぶ。その表情にも、さすがに疲労の色が浮かんでいた。



休憩に入るまでの道中、二人は様々な魔物に遭遇していた。ぬかるんだ足場を進む最中、地面から突き出た茎が突然開き、毒の花粉を撒き散らす食虫植物のような魔物に襲われたこともあった。リーナの火球魔法で焼き払ったが、花粉の広がり方が凶悪で、油断すれば呼吸器をやられていたかもしれない。



また、ぬかるみに紛れて足元を這い回る毒ムカデも厄介だった。甲殻が硬く、斬ってもすぐに動き出す粘り強さがあり、カイの毒塗り短剣とリーナの雷撃を合わせてようやく仕留めた。



そして頭上の枝から突然降ってきた蛇型の魔物。獲物に絡みつき、毒牙を突き立てるそれに、リーナは反射的に風の刃で対応し、首を斬り落として事なきを得た。



いずれの敵も一筋縄ではいかなかったが、二人は一人前の冒険者として、落ち着いた対応で切り抜けてきた。



そんな中、リーナがふと手元のメモを見ながら言った。



「……カイさん、ちょっと気づいたんですけど」



「ん?」



「ポイズンスライム、多くないですか? さっきのまでで、もう十体以上見てます」



カイは眉をひそめて、自身のメモ帳をめくった。確かに、魔物の出現記録には“ポイズンスライム”の文字がずらりと並んでいる。


「……あー、そういえば。俺も今まで見たことなかったな。魔物図鑑でしか」



「ですよね? そもそもスライムの変異種って、そんなに数が多いはずじゃないんです。なのに、ここではまるで普通のスライムみたいに……」



リーナの口調には、困惑と警戒が入り混じっていた。カイも腕を組み、険しい表情を浮かべる。



「こりゃちょっと、おかしいな。ポイズンスライム中心に調査を絞ってみるか」



「はい。でも……このまま奥に進むのは危険かもしれません。装備も、対策も足りない気がします」



リーナの言葉に、カイも頷く。



「確かにな。一度村に戻って、準備を整えよう。念入りにな」



二人は再び立ち上がり、霧に包まれた湿地を背に歩き出した。調査の本番は、これからだった。




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