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毒霧に沈む湿地と、蠢く巨影 ②

ぬかるんだ地面を、ぐちゅり、ぐちゅりと音を立てながら踏みしめ、カイとリーナは毒耐性ポーションを服用し、霧の立ち込める湿地の奥へと進んでいた。



「……ポーションで毒は耐えられるけど、臭いはどうにもならないな……」



カイが鼻をつまみながらぼやくと、隣を歩くリーナが神経質そうに周囲を見渡した。



「これ……視界が狭いぶん、魔物に出くわしたら危険ですね。警戒しましょう。」



「わかってるって。むしろ毒にワクワクしてる自分を自制するので精一杯だ」



カイが妙に明るく言いながら、早速地面に落ちてる草やキノコに気を取られていると、



「──っ!前、なにかいます!」



リーナの声にハッとしながら顔を上げると、霧の向こうに、ずるり、とした影が浮かび上がった。次の瞬間、ぬらりとしたスライムが、彼らの目の前にぬっと姿を現す。



「うわっ、びっくりした……なんだスライムか」



カイは拍子抜けしたようにため息をついた。腰の剣に手をかけながら、悠々と一歩前に出ようとする。



「いや、ただのスライムじゃありません!ポイズンスライムです!触ったらアウトです!」



リーナが緊張した声で叫ぶと同時に、スライムの体表から緑がかった液体がぶしゅっと飛び散った。飛沫が近くの草にかかり、じゅっと煙を立てて焼け爛れる。



「……マジかよ。触ったら手が焼けるとか、聞いてねえぞ」



カイはあわてて剣を引き、スライムから後退する。目の前の魔物はただの雑魚ではない。油断すれば一瞬で毒に侵される、地味な見た目ながら確実に強敵だ。



「リーナ、雷で頼む!」



「わかりましたっ!」



リーナが杖を構え、詠唱を始める。



「《ライトニング》!」



次の瞬間、バチン!と鋭い雷光がスライムに直撃し、ぴちぴちと電気のはぜる音とともにその姿を霧の中に消した。



「……ふぅ。よし、倒したな。っていうか──」



カイは雷の残り香が漂う中、スライムが溶けたあとのぬめりに慎重に近づき、しゃがみ込んだ。



「……この粘液、かなり純度が高い。強力な毒成分だ……!これは貴重だぞ!」



「ちょ、ちょっと!?なに採取しようとしてるんですか!」



「だってもったいないじゃん、ここまで濃い毒粘液なんて滅多に──わっ、あぶねっ!」



粘液に触れないようピンセットと瓶を取り出し、夢中で採取を始めるカイ。まるで宝石でも掘り当てたかのように目を輝かせ、ニヤニヤと口元が緩んでいた。



「はぁ……」リーナが深いため息をつく。



その後もカイは霧の中を進みながら、見つけた毒草やキノコ、不気味な苔などを次々と採取していった。楽しげに鼻歌を歌いながら、ポーチや瓶にどんどん詰め込んでいく。



「……カイさん、これ調査ですよね?完全に趣味の採取ツアーになってませんか!?」



「ああもちろん!これは立派な、えーと、環境調査活動です!」



満面の笑みで言い訳するカイに、リーナは頭を悩ませた。



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