溶かして、爆ぜて。
カイたちは自作した溶解毒の効果を試すために、毒が効かない魔物の依頼を探していた。
「おっ!これは良さそうだな!」
手にした依頼書には《蒼殼ザリドンの討伐》と書かれていた。ザリドンは大きな青い甲殻をもつザリガニのような魔物で通常のナイフでは切り傷がつけられない。
依頼書を受付嬢に渡し、カイとリーナは森へ向かった。
森の中を探索していると、一匹のゴブリンが木陰から現れ、威嚇するように「ギギィ」と声を上げた。
「まずは、いつもの実験体でお試しといきますか」
カイは溶解毒が入っている瓶を振り、どろりとした深緑色の液体をゴブリンの顔面にぶっかけた。
「ギャアァァッ!?」
ゴブリンが絶叫しながら地面を転げ回る。顔面の皮膚がジュウジュウと泡を立てて崩れていく。
「……皮膚の分解速度は良好。殺傷力は高いな。いや、これもうちょっと濃度上げれば骨までいけるな。ふむふむ……」
嬉しそうにメモを取るカイの姿を見て、リーナはドン引きしていた。
「想像以上に……溶解毒って、グロテスクですね。あと、カイさん、ちょっと顔……怖いです。」
「怖い言うな。錬金術の研究だから真剣なの!」
「それにしてもカイさん、ちょっと楽しそうすぎません……?」
リーナの半眼と苦笑いにも動じず、カイは小瓶をしまった。
「ま、あくまで前哨戦だ。本番はこれからだしな」
そう言って、二人は依頼対象の《蒼殻ザリドン》が出没する沢沿いのエリアへと足を進めた。
やがて、水辺の岩場にて、大きな青い甲殻をきらめかせるザリドンが姿を現した。人と同じくらいの背丈をもつザリガニ型の魔物。その殻は冒険者たちの攻撃をものともせず、何人も返り討ちにしてきたという。
「さて……さっきの毒が、どこまで通じるか試してみようか」
カイは距離を詰めると、溶解毒を入れた投擲瓶をザリドンの正面装甲に向かって全力で投げた。瓶が割れ、深緑色の液が広がると、ザリドンの青い甲殻が音を立てて泡立ち始めた。
「キギギギギッ!!」
断末魔のようなうなりを上げ、のたうつザリドン。カイはすかさず剣を抜き、溶けて露出した腹部に鋭く一閃を叩き込んだ。
ズバッ!
「……よし、討伐完了」
「……あっさりすぎません? というか、毒ってほんと便利ですね」
リーナはぽかんと見守りながら、改めて毒の威力に戦慄する。
その帰り道、川辺の岩場でひと息ついたカイの隣で、リーナがぽつりと呟いた。
「ねぇカイさん。前に言ってた爆薬、試してみませんか?」
「え? いや、まだ試作段階で……。危ないって」
「今日は私何もしてませんし、私もドーンってやってみたいです……!」
「いや何そのテンション!? まさかリーナまで実験脳に……?」
苦笑しつつもカイは根負けし、小瓶に入った爆発液を取り出す。そして近くの岩に塗りつけると、数歩下がってリーナに言った。
「じゃあ……ここにファイアーボール撃ってくれ。……離れてな」
「了解。撃ちまーす!」
リーナの放った火球が爆薬に触れた瞬間――
ドゴォン!!
爆音とともに、岩が粉々に吹き飛んだ。爆風で水面が跳ね、鳥が飛び立つ。
カイとリーナはしばらく耳鳴りに呆然とし、その場に立ち尽くしていた。
「な、なんだこれ……!威力バグってるじゃねえか……!」
「こ、これは……必殺技ですね……!」
「いや、マジで最後の手段にしよう。これ、誤爆したら死ぬぞ」
「はい……さすがにちょっとやりすぎですね…」
苦笑し合う二人だったが、その爆音に引き寄せられたか、森の奥から魔物の気配がぞろぞろと――
ガサガサガサ……!
爆音に引き寄せられた魔物たちが、次々と姿を現した。
「やっべ、群れてきた! 逃げるぞ、リーナ!」
そうして二人は、大慌てで森を駆け抜け、ギルドへと逃げ帰るのだった。




