恐怖に火を灯す④
岩甲トカゲの巣窟である洞窟へと辿り着いた2人は、すぐに魔物と遭遇した。巨大な体と硬い鱗、そして絶対的な防御力。
「前は、毒を何度も打ち込んだけど効かなかった……。今度こそ、倒す!」
カイが叫ぶと同時に、岩甲トカゲに向かって駆け出した。
「うおおおお! こっちだ、トカゲ野郎!」
岩甲トカゲが唸り声を上げて頭を振る。直後、地響きとともに突進してくる巨体。カイは紙一重で跳ね退け、スモークボムを放って撹乱を図る。
その隙に、リーナは魔法詠唱を始めた。
「……《ファイアーボール》!」
炎の球体が放たれる――が、狙いは外れ、岩壁に直撃して爆ぜるだけ。
「くっ、もう一回……!」
焦りからか、次の一発も、三発目も、岩甲トカゲの足元をかすめるばかり。
(落ち着いて、落ち着いて……)
しかし、焦りはリーナだけではなかった。カイも逃げ続けながら、じわじわと体力を削られていた。
「ちっ、クソ……!」
カイの足が岩に引っかかり、身体がバランスを崩す。
「うわっ……!」
ドサリと転倒したその瞬間、岩甲トカゲが大きく身体を起こし、頭上から鋭い爪を振りかざす。
「……カイさん!!」
リーナの叫びと共に、炎が爆ぜた。
巨大な火球――今までよりもずっと大きく、熱量のこもった《ファイアーボール》が岩甲トカゲの顔面に直撃する。
「ギギィィィ……!!」
トカゲが仰け反り、苦痛にのたうった。
「まだ……まだよ!」
リーナの魔力がさらに膨れ上がる。燃え上がるような魔力が迸り、二発、三発と続けざまに火球が放たれた。
バゴォォン!
最後の一撃が岩甲トカゲの口内に突き刺さり、内側から爆発する。
「ギ、ギャアアアア!!」
雄叫びを上げた岩甲トカゲが、ついに大地に崩れ落ちた。
煙が晴れると、そこには肩で息をしているリーナと、地面に尻もちをついたままのカイの姿があった。
「……やった、倒した……!」
リーナが震える声で呟く。
カイはゆっくりと立ち上がり、彼女に駆け寄った。
「すごいよリーナ……! 今のファイアーボール、マジで助かった……! 本気でやばかったぞ!」
「わ、私……うまくできましたか……?」
「できたどころじゃない。もう立派な冒険者だよ!」
彼女の頬に、誇らしげな笑みが浮かんでいた。




