出会いは毒の香りとともに⑥
ギルドマスター「バルド」は、かつてSランクで名を馳せた元冒険者だ。
短く刈った銀髪と、鋭い目つき。重厚な鎧を着こなした、年季の入ったベテランの戦士の風格をまとっている。
「……つまり、囮にされて置き去りにされた?」
リーナは小さく頷いた。バルドの顔が険しくなる。
「俺が受け取った報告は、“ポイズンスパイダーの群れに襲われ、同行していた仲間は戦死”という内容だったが?」
「嘘です。群れなんていなかった……三匹くらいでした……」
「ふむ」
バルドが指を鳴らすと、部屋の扉が開いた。
「アレフ、ベルク、ゼラ……てめぇら、今すぐこっちに来い」
しばらくして部屋に入ってきた三人。アレフが口を開く。
「バルドさん、どうかしましたか?」
「リーナが生きて戻ってきた」
「えっ……!?」
驚愕と、僅かな焦りが混じった顔をしたアレフ達。リーナは勇気を振り絞って声を上げる。
「この人たち、私を囮にして逃げました!私が毒に倒れたのに、助けようともしなかった!」
アレフ達は森で偶然、レアアイテムを拾った。その分配を3人でするために、毒に弱いリーナをポイズンスパイダーに襲わせ死んだことにしようとしたのだった。
「嘘つけ!テキトーなことを言うな!!!」
アレフが叫び、リーナに飛びかかろうとした瞬間——
ドゴッ!!
鈍い音とともに、アレフの顔面にバルドの拳が突き刺さった。
壁まで吹き飛び、アレフが動かなくなる。
「ギルドはな、仲間を見捨てた奴を許しちゃいけねぇ。仲間殺しは重罪だ」
バルドの低い声に、他の二人も震え上がる。
こうして三人は冒険者資格を剥奪され、その場で街の衛兵に引き渡された。
カイはその光景を見つめながら、静かに拳を握った。
自分が少しでも遅れていたら、リーナは——死んでいたかもしれない。
リーナはギルド内の医務室で手当を受け、カイとはそこで一旦別れた。
「……ありがとうございました」
「いや、俺はたまたま通りかかったから助けただけだよ」
「……また会えると、嬉しいです」
弱々しい笑顔を浮かべるリーナに手を振って、カイはギルドを後にした。




