失踪
短いかもしれません。第3章です。
随分長いこと寝てしまった。
暗闇の中、私はそう感じた。自分の中の睡魔は、もう当分寝たくないと言っているので8時間は寝たのだろう。
医者はちゃんとお茶をこの部屋に置いていっただろうか。
すると突然、自分知っている音楽が薄暗い病室に鳴り響く。その正体が枕元に置いていた携帯からだとわかると少し落ち着きを取り戻す。なぜならこの音楽は、美幸からの着信だという合図だからだ。
すぐさま音のする方へ手を伸ばし、わずか1コールで出る。
「もしもし?美幸?元気?今何時かわかる?」
「今は夜の九時だよ。窓の外の月明かりで大体の時間はわからない?」
この声は、美幸じゃない。声はそこまで低くはないがこれは男の声だ。まさか、美幸が、不倫!?そうか、もう障害を持った男とは手もかかるし大変だから愛せないと。そして男の方からわざわざ俺に別れを告げると。なるほどね。俺の人生はもう終わりだ....目が見えなくなり、愛する人に見捨てられ、もうダメだ。もう死のう。ハハ....どうしてこんなことになったんだ。
「どうしてこんなことになったんだ。何が起きているんだ。そう考えているだろう」
電話の中の低い声はそう俺に言った。
!?、こいつどこからか俺を見ているのか?
辺りを見回しても人の気配はない。居ても見えないけど。誰なんだこいつは。美幸と関係ない人間なのか?そして、ゆっくりな声でその男が続ける。
「もう電話する必要もないね。直接話そうよ。ここから歩いて30秒だ」
30秒...?もうこの病院内にいるのか?
「なぜ美幸の電話からかけている」
「今は関係ない。そんなことより、君を失明させたのは僕なんだよ?知ってた?」
何?こいつが?
「お前は誰なんだ!いい加減喋れ!俺の事を知っているようならフェアに行かないとな」
「安心してよ。失明は一時的。通りすがりに、あんたの目に強い光を与えたんだ。絶叫しながら倒れるから周りの人にバレるかと思ったよ」
「全く話を聞いていないな。というか、俺の失明は一時的なのか?いつ頃治るんだ!」
「もうすぐ 着くよ」
扉のすきま風から気配を感じる。
「おい!美幸はどこにいるんだ!美幸!いるなら返事をしてくれ!!!」
階段を登る音が響いて聞こえる。コツコツと。スニーカーではなく革靴のような音。針を落としただけで部屋に響き渡るほどのその静寂さを破るように一人の男が歩み寄ってくるのがわかる。
「眼帯を外してみるといい」
今、確実に私の病室の前に立っている。そして、眼帯を外す?まさかとは思うが....もう治っているのか?
頭の後ろに巻かれた包帯を指で探り、結ばれた部分を解こうとする。
もしこの男が、俺に危害を加えたらどうしようという恐怖と、美幸の安否に対する不安が入り交じり、なかなか解くことができない。
その時、ガラリと音がする。開いた。確実に。
私はもう死んでもいいという覚悟を決め、包帯を思いっきり外した。
部屋は薄暗いはずなのに、久しぶりに日光を浴びたような新鮮な感覚に陥る。
だが、もうそこには、どこにも男なんていなかった。携帯はいつの間にか相手に一方的に切られ、お茶や俺の荷物さえも無かった。
あるのは、部屋にポツンと置かれた1台の電源のついたパソコンだけ。
そこには、とあるアプリが開かれていた