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第96話  海賊

 ――海龍エルゲレン、討伐完了。


「やった……の? 案外呆気なかったわね……」

「「まだです!」」


 海龍エルゲレンは確かに、虫の息だった。

 放っておいてもすぐに死ぬはずだった。


 だが突如、エルゲレンの体から、言いようのない気配が噴出した。


 間違いなく、第三者の干渉によるものだ。

 エルゲレンの体から黒い虫のような煙が噴出し、みるみるうちにエルゲレンの体の傷が癒える。

 だが、禿げたり傷ついた鱗はすべて、黒い鱗に置き換わってしまっている。

 それに合わせ、エルゲレンの気配の禍々しさも強くなった。


「……なるほど。……会長、王女……海賊がウェルダル近海に現れたという情報は?」

「……海賊って……本当に存在するの?」

「……ないわ。海の先との貿易はないのよ? 船で海に出るのは、漁がほとんどで、交易はほとんどないわ。狙うだけ損よ」


 そうだよなぁ……。

 海の先は天気が荒れやすいため、とても行けたものではないらしく、海の向こうに大陸があるのかはわかっていない。

 人工物である漂着物がないため、大陸はないという説が有力。

 貿易をしているのは、どれも街道を使った内陸のものだ。


「レスク、海賊がいるの?」

「そうであり、そうではない。……まあ、見てもらった方が速い」


 ……と行きたいが……


「グオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 ……そうは問屋エルゲレンが卸さないってか。

 しかしこの感じだと、こいつに呪いを掛けたであろう悪魔が近くにいるのは間違いない。


 海龍エルゲレン、海神シーミンターネスの使い魔。

 つまり、ここら一帯の海の主であり、守り手。殺してしまうのは……よろしくなさそうだ。


 まあ、ものはついでだ。


「安心しろ、エルゲレン。お前を救ってやる」


 私は〈閃撃〉を発動させ、海中に飛び込んだ。

 〈防護膜プロテクション〉のおかげで、水に濡れることはないが、空気が心配だな。


 ……いや、そんなに時間はかけない。


 私は海中で即座に方向転換し、エルゲレンの腹部の下に辿り着いた。


 ……エルゲレンは首長竜だったのか。

 てっきり、蛇みたいに細長い体だろうと思っていたんだが……。


 だが、何の問題もない。


 私は拳に気を込められるだけ込め……振り抜いた。


 ――ドンッ!!


 途端、エルゲレンの体は私の前から消えていた。

 代わりに私の目の前にあったのは、大量の泡沫。

 そして、押し寄せてくる大量の水。


 呑みこまれる前に脱出した。

 まだ〈閃撃〉は持続中だ。


 開いた穴を塞ぐように、大量の水が押し寄せる。

 その穴に栓をするように、エルゲレンが降ってくる。その衝撃で、大量の海水が空高く打ち上げられた。


 気を失っているようだが、念の為に〈麻痺パラライズ〉を掛けておこう。

 衝撃を重視してよかった。内部を伝った衝撃が体中を震わせ、エルゲレンは気絶した。

 正直、気絶するとは思わなかった。よかった。




 ふむ……天気は先ほどよりも悪化しているな。

 やはり、あれらのせいか。エルゲレンはきっかけに過ぎなかったというわけだ。


「会長、王女……アレが見えますか?」


 私が指差した先には……何もいない。

 振り続ける雨と、光を遮る、どこまでも続く黒雲に加え、エルゲレンの放出した魔力のせいで、そこに何がいたとしても……見つけることはできない。


「何も見えないわ? でも……何かいるのね?」

「王女は?」

「何となく、不思議な感じがする……」

「……感じれるってことは……さすがだな」


 これは気や魔力と違って、才能の領域ではない。生まれたときからすべてが決まっている。

 私も最近ようやく手にした。


 ――血。もしくは、魂の領域。


「では、見えるようにしましょう」


 私は上空に、幾百もの〈炸裂炎プロミネンス〉を展開し、上空に広がる黒雲を散らした。一時的なものだがな。

 爆発の順番は一か所を起点に、そこから波紋が広がるように、連鎖的に爆発させていく。


 雲ってのは、言ってしまえば水蒸気と水の塊。

 その中の水蒸気が更に冷えて水に状態変化することで水の量が増え、一所に集まって雨となり、地上に降り注ぐ。

 更に冷えることで水は凍り……雪になる。


 今は雨となって降っている、水の状態のわけだ。

 そこを炎で熱し……水蒸気に戻し、爆発で引き起こされた風――分子の移動で、水分子を散り散りにする。

 これで上空には、少しばかり湿度は高くなったが、晴れ空が広がることとなった。


 視界の先……そこには、一隻の帆船があった。

 ボロボロのマスト、穴だらけの船体。そして……言いようもない、不快な気配。


「幽霊船……」

「まさか……この気配は全部、幽霊だと言うの……? これが……お化け?」

「…………嫌な気配」


 幽霊船ゴースト・シップ……か。

 その名の通り、乗組員はどれも、人間ではない。そう……いわゆる、お化けだ。


 海賊船に相応しく、どれも凶悪な顔に歪んでいる。

 最早、人にできるような表情ではない。長い年月、彷徨い続けて歪んでいったのだろう。

 

 来ない獲物を今か今かと待ちながら……。


「まずは、確認」


 私はブレスレットから土を取り出し、ライアル鉱石を核に、速攻で短剣を二つ、作り出した。


 幽霊船の甲板には、溢れるほどの幽霊たちがひしめき合っている。

 好都合だ。


 片方の短剣には、込められるだけ魔力を、もう片方には気を込めた。


 そしてそれを…………それぞれ違う目標を定め――投擲!!


 非実体の存在に、実体の急所はない。

 非実体にも干渉する攻撃で急所を攻撃。または、一定以上のダメージを超えた場合。そして、弱点属性の攻撃。

 この三パターンのみが、幽霊を倒す方法だ。


 非実体の存在である幽霊。

 この世界では、どうすれば倒すことができる?

 今のうちに試しておくべきだろう。




 そう思っての実験だったのだが……短剣は両方とも、幽霊を突き抜け、甲板に突き刺さり……大穴を開けた。


「気も魔力も意味がない、と……」

「魔法が通じないなんて……」

「いえ、魔法は今から試します」


 私は声に合わせて〈火槍ファイアー・ランス〉を生成、発射した。

 炎の槍が船を突き抜け、船の背後の海に着弾し、大量の水蒸気を噴き上げた。


 槍の軌跡上にいた幽霊たちはどれも無傷。


「魔法も通じませんね」

『『…………』』


 幽霊たちは呻き声を上げ、一斉に手のひらを私たちに向けた。

 何を…………


 ――これはッ!









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