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第92話  ウェルダル海偵察

 ウェルダル海岸。


 都市ウェルダルとは切り立った巨大な崖によって隔たれてはいるが、さらさらの砂浜で覆われている。

 波は穏やかで、絶好の海水浴日和だ。

 気温もほのかに暖かく、海で泳ぐのに適している。


 ――だが、人っ子一人いない。


 原因はわかっている。


 ここに降りてくる階段の入り口に、看板が立っていた。

 そこには、「関係者以外立ち入り禁止」とだけ書いてあった。そして、兵士たちが警備員みはりとして立っていた。




 美しかったであろう砂浜には……ところどころ、船の残骸が散らばっている。

 あとで掃除しないとな。……この街の兵士たちに任せておけばいいか。


 先ほど、流れ着いた遺体の様子を記録した文書を読ませてもらった。

 遺体は、体の大部分が欠損していたそうだ。

 衣服やアクセサリーなどで、かろうじて身元の判明ができたのは不幸中の幸いだ。


 そんな砂浜に、私、王女、アリス会長の三人が立っている。

 学園とは関係ない活動だから、私服だ。私服……戦闘服?


 戦闘服は実用第一、と言うが……ちゃんとお洒落にも気を遣うものだ。

 しかし、会長。お洒落すぎないか? 白色の服に、薄緑色のパンツ。まあ、マジックアイテムなのは見て取れるが……。

 せめて防具ぐらいは……。鎖帷子でも着けているのだろうか?


 ちなみに、王女の服装は私と似たようなものだ。

 実用性と見た目の両方も兼ね備えている。

 腕や足、胸には防具。


「レスク君、どうする?」


 アリス会長が尋ねてくる。

 それも仕方ない。


 まず、件の魔獣の陰が見えない。

 そもそも、どんな魔獣なのかもわかっていない。


 ――ただただ、巨大。


 それが、その魔獣の唯一の特徴だ。

 とは言え、現状いまの海は穏やか。


 しかし、襲われたのはどれも、海に入ってからだ。となると、まず私たちがすべきなのは……


「そうですね……。……ところで、会長は海の上を移動できますか?」

「ええ、できるわよ」

「王女は……できないな?」


 王女は静かに頷いた。

 頷かないで、首を横に振ってほしかったが……できないものは仕方がない。


「……あ、そもそも王女も参加するのか?」

「もちろん。父上に許可は貰ってる」


 そこも首を横に振ってほしかった。

 しかし、国王は許可を出したのか……本気か? 初の実戦にしては危険すぎると思うんだが。


 まあいいや。王女の参加不参加は私の手の上だ。いざとなれば強引に止める。

 国王の「娘を頼む」は、そういうことも含まれているだろう。

 少なくとも、私はそう捉える。


「……とりあえず、海の上を移動してみましょうか。王女は私の側に来てくれ。会長、準備はいいですか?」

「ええ、もちろんよ!」


 会長は水の精霊剣を抜いた。

 そして、足元に水を生成した。


 私は王女に〈浮遊フロート〉の魔法を付与した。


「それじゃあ、行きましょうか」


 私は〈空中歩行エア・ウォーク〉を発動させ、空中へ一歩を踏み出した。

 会長はそのまま海の上を歩いた。……危ないな。


「大丈夫よ、足元への警戒の方が強いから」


 ならいいが……。


 しかし、今回の魔獣。

 巨大という話だったが……。


「会長。今回の魔獣の正体に、心当たりはありませんか?」

「あるわよ、いくつかね……」

「なら、直接姿を拝むしかない、と……」


 候補がいくつかって……。

 やはり海は手付かずなのか、この世界も……。

 海は科学が進んだ世界の方が解明は進んでいるが……それでも、良くて三割強だった。


 しかし、いくつか候補があるということは、巨大魔獣は一体限りではないということ。

 まさか……目撃された魔獣は一体だけではない?


 ――最悪の可能性。


 うん、あくまで、最悪の可能性として考慮しておくべきだろう。

 しかし、仮にそうなったとき、一体一体の強さがわからない以上、下手に手だしできなくなる。


 何十、何百……もしかしたら、何千年と生きているかもしれない魔獣だ。

 ただ体が大きいだけの存在であるわけがない。

 知恵もあるだろう。





 岸が見えなくなり、今日は不発かと、引き戻そうと思った矢先。


 ザザ……


 と、凪いでいた海に突如、波が立ち始めた。


「……会長」

「……何も、特に強い気配は感じないわ」


 ――――!!


「――かいちょッ!!」


 私は〈閃撃〉を発動させ、会長を抱きかかえ、王女と共に海面から大きく、素早く距離を取った。


 その瞬間、海面が大きく盛り上がり……巨大な影が見えた。


 ――ザバァァ…………ンンッ!!!


 海を割って現れたのは…………巨大な蒼い龍だった。

 鱗は蒼だが、ところどころ黒い。

 瞳は真っ赤に染まり、その口には鋭く尖った牙が所狭しと並んでいた。


 首から上しか見えないが……それだけでも、十分大きい。

 私たちは精々、怪物の眼ぐらいの大きさでしかない。


 ざっと推測するにこいつは…………体長五十メートルほどか?

 もしかしたら、もっとあるかもしれない。


「…………会長、この怪物に心当たりは?」

「……ないわ。でも……まったく気配が感知できなかった……っ! でも、この気配……」

「レスク、これは本当に……魔獣……?」


 王女と会長が鋭い指摘をする。

 一般人にはまずわからないだろうが、二人はよく気づいたものだ。


「これは……」


 私は王女の質問に答えるべく、口を開いた。


 この怪物から感じる波長は……二つ。

 一つは、普通の波長。生物特有のものだ。

 かなり強いことがわかる。


 ――だが、目を凝らさなければわからない。


 波長として認識することができている私だからこそできる芸当だ。

 私自身、かなり希少レアなのはわかっている。


 気配として感知できるだけ、二人は優秀だ。


 ――しかし、問題はもう一つの波長だ。


 これは明らかに、後天的に組み込まれた波長だ。


 その波長は、とても波長とは呼べないほどブレブレ。

 それが、怪物の波長に干渉し、怪物の強大な波長が増幅されている。苦痛なのか、本来の怪物の波長は大きく歪んでいる。

 会長が気配を見逃してしまったのも無理はないほどにな。


「……いわゆる……――呪い、です」







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