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第91話  海辺のリゾート

 ゴトガタ……ガタンッ


 私は馬車に揺られている。

 聞こえてくる音の割に、振動はまったくと言っていいほど、ない。

 さすがは国王の用意した馬車だ。


 行き先は都市ウェルダル。

 王国最西端の都市で、海に面しているという、珍しい都市だ。

 都市が海に面しているのは珍しい、という意味だ。普通、海に面するのは漁村だ。


 もちろん、危険を顧みないで海沿いにあるわけではない。

 まず、海岸と都市は切り立った高い崖によって隔たれており、津波は届かない。


 だからこそ、海に最も近い王国唯一の都市として存在することができている。

 つまり、リゾート地として栄えたのは必然。




 これから海開き(ひと稼ぎ)……ってときに限り、今回の謎の魔獣の襲撃。

 この一件を解決せねば、海水浴ができない王国民のフラストレーションは増大する一方だ。

 貴族から平民まで、幅広い階級の人が利用するため、余計にな。


 今回、この依頼が私に回って来たのは、貴族たちの感謝――支持を得るためだろう。海開き間近だし、感謝リターンも大きいだろう。

 国王も考えたな。

 まさか、今回の魔獣も国王の使い魔…………殺していいってことだったし、そんなわけないか。

 水生の魔獣なんて、用途はいくらでもある。こんなところで捨てれるようなものじゃないはずだ。


「レスク、もう少しそのワクワクを隠して」

「ん……? 顔に出ていたか?」


 私の前に座るマイス王女が、そう忠告する。


 私が馬車に乗ったとき、すでに乗っていた。

 王女曰く、国王の思惑だったらしい。馬車には私宛に「娘を頼む」と書かれた紙が置かれていた。


 純粋に、王女むすめを海で遊ばせてやってくれ、と取れる。

 だが状況的に、私のサポーターとしての役割も兼ねているのかもしれない。


 しかし、国王の本命は前者だろう。文面から捉えてもな。

 私は護衛か。まあ、私以上の護衛はいない、と断言できるが。

 しかし、危険すぎる。確かに、戦闘経験を積むのは重要。だが……。いや、これ以上は考えても無駄か……。


「そう言う王女こそ、口の端がぴくぴくしているぞ」

「ふふっ……海は初めて……」


 王女は珍しく喜びを隠しきれないようだ。

 やはりどこの世界でも、海水浴というのは大きな娯楽なのだろう。

 さてさて、とっとと依頼を片付けて夏休みを満喫しよう。


 ……私だって、娯楽を欲するぞ?

 そこまで高度な生命体じゃない。





 馬車はウェルダルの内部に進入し、中心に建つ、最も大きい建物の門の前に到着した。目的地だ。


「ここは?」


 私はてっきり、どこかの宿で一泊するつもりだったのだが……。

 まあ、王女がいるわけだし、どこかのいい宿でも見つけて泊まろうとしていたのだが……。

 AAランクアドベンチャラーとして活動していた私の蓄えは一財産だ。

 この都市で一番いい宿の一番いい部屋を一つ二つ取るぐらい、なんてことない。


「王家の別荘。父上が私たちにって」

「私もか?」


 そう言うと、王女は静かに頷いた。


「……あら、レスク君……と、マイスさん?」

「……会長? なぜここに?」


 私たちの背後から、アリス会長が声を掛けてきた。


「なぜって……ここはウーゼンティシス領の領都よ? 私がいるのは当然でしょう?」

「ってことはウーゼンティシス候もいらっしゃるので?」


 あの怖い爺さん……きっと強いだろうなぁ。

 波長は見なかったから、正確な強さはわからない。


 ……あんなに貴族や聖騎士が大量にいる中で、人の奥底を覗き見る、なんて無礼な真似がバレたら……きっと……いや、絶対に首が飛ぶ。

 そうなったら逃げるが。


「侯爵……ああ、お爺様のことね。お爺様はぎっくり腰で絶対安静。お父様は戦闘センスがないし……」


 あの爺さんが……ぎっくり腰……?

 ……あ、でも意外と想像できるな。


「お爺様がいれば即戦力だったんだけどねぇ……」

「そこで会長が派遣された、と」

「ええ、そうね。母上やお婆様でもよかったのだけれど……将来、ウーゼンティシス家を継ぐ予定で、君たちと知った顔ということで、私が来たの」


 そういや、貴族の当主が代わるのは遅いんだよな。

 アリス会長がウーゼンティシス家当主になるのは……次の次。

 問題発言も承知だが、女でも当主になれるんだな。やはり、血に刻まれた能力の発現か。


 しかし、会長はまだ二番手。経験を積める時間は長い。


「……と、言うわけで。私もここでお世話になります」

「うん、父上から話は聞いてる」

「……知ってたの?」

「いや、ウーゼンティシス家から一人来るってことだけ、聞いてた。……入って」

「「お邪魔します」」


 ……流れについていけない。

 とりあえず、私は流れに身を任せ、屋敷の門を潜った。




 門を潜った先にある屋敷の大きな観音開きの扉を開けると、そこにはメイドが数人と執事が一人、立っていた。

 いつから準備していたんだろう。


「おかえりなさいませ、マイス様。いらっしゃいませ、アリス・ウーゼンティシス様、レスク・エヴァンテール様」


 執事たちは深く頭を下げ、私たちを歓迎してくれた。

 ……別荘にもメイドや執事がいるわけじゃないよな? 王城から事前に来ていて、準備をしていただけだよな?


 ……執事やメイドといった従者は、場合によっては、奴隷と扱いは変わらないからなぁ。

 賃金は高いケースが多いとは聞くけど、忙しすぎる。


「まずはお部屋に案内させて頂きます」





 まさかの個室とはな。さすがは王族の別荘。

 ちゃんと、二人とは階も違う。


 万が一があっても、私の渡したネックレスさえあれば、怪我だけはしないだろうけどな。

 まあ、アリス会長もいるし、何か起こることはまずないと思うけどな。


 ……そういう油断が最悪の事態を招くことは、身をもって知っているから、一応警戒はすべきか。


 屋敷内に不穏な気配がしたら気付けるぐらいには警戒しておこう。

 

 





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