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第88話  SIXTH・BIRTHDAY

 学園長と話し過ぎて、時間が押している。

 このまま普通に(・・・)特別棟のファンクラブルームに向かえば、約束の時間から十分ほど遅れるだろう。


 だが、私には〈転移テレポーテーション〉がある。


 私は指を鳴らし、特別棟前に転移した。





 私が転移した先には、王女が立っていた。

 ……無表情で。目の前にあったら怖いぞ、誰でも。


 王女は基本無表情だが、接する時間が増えるにつれ、だんだんその鉄仮面の下の表情が何なのか、わかるようになってきていた。

 鉄仮面は言い過ぎか……。他にいい言い方が思いつかない。

 ま、一見無表情に見えるが、よく見ると感情が見える。波長に頼らずとも、わかるようになった。


「レスク、付いて来て」

「ああ、頼む」


 私は王女の案内に従って、ファンクラブルームに向かった。





「「レスク様、誕生日おめでとうございます!!」」


 ――パンッという、乾いた爆発音を鳴らすマジックアイテム……クラッカーの立てる音が複数、教室中に響く。


 教室は色とりどりに装飾されている。

 中央に寄せられ、並べられた机の上には様々なお菓子類。中央には、目を引くほど美しいケーキ。


 これだけの物を買いそろえ、装飾した彼女らは美的センスの塊と評価していいだろう。


 ……『感謝』だ。

 私のために物を買い、装飾した。どうすれば私を喜ばせることができるのかと試行錯誤を繰り返したに違いない。


 おそらく、このケーキやお菓子類の大半は手作りだろう。

 ケーキを手作りって……すごいな。お菓子の中でも、とりわけ大きく、手間がかかるからな……。


 クリームは綺麗に、壁と見紛うほどの精密さで塗られている。

 果物の形、配列もすべて均等。上から見たら華のように見えるだろう。


 それに、栄養面にも気を使われているのがわかる。

 野菜を使ったであろうクッキーなんかも多く配置されている。

 野菜を使ったお菓子は甘すぎないから、いくらでも食べれる。


「「レスク様、私たちレスクファンクラブ一同からの誕生日プレゼントです! どうぞお受け取りください!!」」


 シンシルスはファンではない、念のため。彼は私の友だ。

 王女は一応、ファンだ。ファンか彼氏かという選択肢を押し付けられたので、ファンクラブに入れたというのも、懐かしい思い出だ。


「シンシルス、お前……ファンクラブに入ったわけじゃないよな? 入れた覚えもないけど」

「……僕もわかんない」

「ああ、私たちがシンシルスさんに協力を仰いだのです」


 ファンの一人が、そう口にする。

 まさか、財布扱いか?


「協力……?」

「ええ、シンシルスさんは素晴らしい美的センスをお持ちだったので……」


 シンシルスが……素晴らしい美的センス?

 とても想像できないが……貴族の嫡男だし、勉強していてもおかしくないか……。とても想像できないがな。


 私の疑いの視線を感じ取ったのか、シンシルスが何か言ってきているが、うるさいので無視する。





 マイス王女、シンシルス、ファンたち主催の誕生パーティーを堪能し、私は寮へ戻って余韻に浸っていた。


 本当に美味しかった。

 まさか、ケーキの大部分を作ったのが王女だったとは……。

 部屋の飾りつけのほとんどはシンシルスの手によるものだったそうだし。

 お菓子類はファンたちが作ったものらしい。野菜クッキーは特に最高だった。


 ……ん?

 アルティナか。


 私はブレスレットから神剣アルティナを取り出し、机の上に置いた。

 すると、そこから人型が飛び出してきた。


『レスク、誕生日おめでとう』

「ありがとう、アルティナ。最近は全然出してやれなくてすまないな」

『いや、神剣を使うような事態が起こる方が問題だから。それに、君の周りは見ていて面白いから、退屈はしないね』


 なんだ、やはり見られていたのか。

 こちらの事情に明るいと思ったから変だと思ったんだ。




 アルティナがブレスレットの中にいても、会話はできるからな。

 暇なときにいつでも話し相手がいるってのは、いいもんだ。


 ……ワーグナーから連絡だ。


『レスク、今日が誕生日だと聞いたよ』

「ああ、えっと……いろいろあって、今日にしちゃいました。報告が遅れ、申し訳ありません」


 どこから情報が……もしや、学園長か?


『いや、いいさ。誕生日をいつにするかわからなかったから、プレゼントはもう買ってあるからな。後日、贈ろう』


 ワーグナー……素晴らしい男だ。

 拾っただけの私に対し、ここまで面倒を見てくれるなんて……。


 アルティナと私を重ねているのはわかる。

 髪の色、瞳の色は違うが、顔のつくりは似ていると、ガイオスから言われた。


 だが髪の色というのは、顔を認識するうえで大きく影響を与える。

 そのせいで、私とアルティナの顔は客観的に見ても、似ているとは思えない。

 髪を抜いて、目を閉じれば……似ていると言えなくもない。


 金髪黒眼の美青年。それがアルティナだ。


 だが、それだけで私を……見ず知らずの子供を育てようと思うだろうか?

 今思い返せば、私はあのとき盗賊を何人も殺している。

 そう……――人殺しだ。


「……っ、ありがとうございます」


 私は素直に感謝を……今までのお礼を込めて、重く、感謝を口にした。

 

『では、今日で十……』

「十……六ですね。十六ってことになりますね」

『ああ、実年齢不明だもんな! はっはっは!』


 私たちはそう言って笑い合い、ひとしきり笑ったあとで会話を終了した。


 私の隣で、アルティナも微笑みを浮かべていた。


 アルティナは十五歳で……学園に入学する前に死んでしまったらしいからな。

 だが、今の彼の見た目は二十歳そこらだ。


『依頼の最中、突如魔法が暴発してね。体が成長しちゃって。君の言う〈成長マチュアル〉だろうね。こんな魔法があっていいのか、と憎んだよ』

「隠された魔法みたいなものだろう。貴族の血に刻まれていた魔法かもな」

『うーーん……エヴィデンスの血にそんな魔法はなかったはずなんだけど……』


 もしかしたら、空間魔法や時間魔法よりも特殊かもな。

 学園長は知らないのだろうか? それとも、知っていて隠していたのか?


 ちなみに〈成長マチュアル〉は時間魔法に組み込まれない。

 細胞の成長を促進させる魔法で、しかも少なくない時間を必要とする。よく言っても、時間魔法の最下位互換のようなものだ。




 98/100――レスク・エヴァンテール

 六歳の誕生日を迎える。




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