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第86話  優勝者

 私は〈風拳ウィンド・ブロウ〉を発動させる。

 両手の握り拳に風が纏わりつく。


「――〈水剣アクア・ソード〉」


 会長は精霊剣に水を纏わせる。

 だが準備を終え、策を整えた私の前には、何の意味も持たない。


「それじゃ……行きます!」


 私は拳を構え、〈閃撃〉を発動させた。

 その足で会長に近づき、拳を振り抜いた。


 拳は会長の腹に当たる部分に沈み……私は拳に纏った風を解放した。


「はがっ!」

「……痛みはある、と。しかしすぐに治るんですね」


 会長の水の体の腹に開いた穴は、即座に塞がった。

 私は風を失った拳に、再度〈風拳ウィンド・ブロウ〉を付与した。


「くっ……離れなさいッ!」


 素直に、私はバックステップで距離を取った。

 距離を取る際、私は〈風拳ウィンド・ブロウ〉を会長に向かって放った。

 拳を離れて宙を進む〈風拳ウィンド・ブロウ〉は〈風球ウィンド・ボール〉と――波長以外は――同じだ。


 そして〈風拳ウィンド・ブロウ〉が会長に近づいた瞬間、私は風を爆発させた。


「キャッ!」


 会長は水を撒き散らしながら飛んで行った。

 飛び散った水が会長の下へ戻ることはなさそうだ。これが会長のダメージとみていいだろう。

 なるべく少ない手数で済ませなければ……。


 会長は空中で、背中に生えた翅を伸ばし……ゆっくりと着地した。

 飛べるんだな。飾りだと思っていた。

 それとも、落下速度の軽減とか滑空とか、そこら辺程度の能力か?


 だが、どれだとしても想定済みだ。だって、翅が六枚も生えているんだし。

 飛べる可能性……少なくとも、空中で方向転換ができる可能性ぐらい、考えておくものだろう?


 そう、読んでいた。

 だから、会長が着地した地面には、先ほど〈地雷マイン〉を仕掛けておいた。

 一定以上の衝撃が加わると、爆発する仕組みだ。爆発の威力は少し抑えてある。


 ──だが、地雷は踏み抜いても、離さなければ爆発しないのだ


 ってなわけで、ほいっと爆発させます。

 私の意志で爆発させることもできる。当然だ。私の魔法だもの。れすく。


 ま、実質これは、ただの目眩ましだ。

 すべては、この一撃で決めるためのな。


 私は魔力を練り、会長のすぐ眼前まで近寄った。


「会長、ありがとうございました」


 精霊剣について、新しい知識が増えた。本当に感謝だ。


 私は波長五つの魔法〈台風の目(ストームズ・アイ)〉を発動させる。

 これは、自分を中心に豪風を起こす魔法だ。攻撃魔法ではない。

 相手を自分から遠ざける魔法だ。使い勝手は悪くない。……昨日の夜に見つけた波長だけどな。

 防御魔法寄りだ。


 これは風の魔法。風、すなわち、ベクトル。

 形の定まっていない水すらも動かすことができる。


 ――それは水化した会長も、例外ではない。


 会長は、音すらも……すべてを豪風に飲み込まれ、静かに場外の壁に激突した。

 激突するときには、会長の水化は解けていた。激突する前、水妖精ウンディーネたちが会長から離れたように見えた。

 精霊剣の防衛反応だろうか。


 あのままだと、会長の体は爆散していただろう。そうなればきっと……。

 吹き飛ばした手前、ちゃんと会長が壁に激突する前に止めるつもりだったさ。……本当だぞ?


「――勝者、レスク・エヴァンテール生徒会庶務!! 学園に……いや、リスガイ王国に、新たな歴史の一ページが刻まれました!!」





 私の優勝後は誰も暴動を起こさなかった。


 上空の私や、警備に当たっていた他の生徒会メンバーのおかげだな。終わる頃には、会場の約四割の生徒が身動きができない状態だった。

 どれだけ貴族の伝統とやらは大事だったんだ?

 学園の伝統であって、貴族の伝統ではないだろうに。伝統馬鹿どもがよ。


 ……ワーグナーがそうでないことを願おう。

 年若い貴族特有な気はするけどな。


 なんて呆れていたが、今はどうでもいい。

 そして夕方いま、私は学園長に呼び出されていた。


「レスク・エヴァンテール。君は……自分がいかに稀有な存在か、わかっているのかね?」


 開け口一番に問われた内容がこれだ。


 しかし、私がどれほど稀有か、か……?

 まあ、九十八回目の人生を辿っている私は珍しく、貴重だろうな。

 それがバレている……はずがない。


 アルティナか?

 いや、それだと、私が稀有だという言葉に当てはまらない。


 おそらく、それとは別。うん、わからん。


「わかりません」

「……そうか。まあ、これはどこかで習う内容でもない。だが、知っている者からすれば……君は異常じゃよ」


 話が見えない。

 私が異常? まさか、一瞬だけ自分の波長を解放したアレか?

 あれを異常と呼ぶには違う気がするのだが……。


「魔法には、習得が困難なものが存在しておる。そして、それらは種類に応じて分類されておるのじゃ」

「習得が困難、ですか……」

「そう、合う合わないという問題……つまる所、才能の領域じゃな。……『複雑属性』『空間魔法』『時間魔法』…………じゃ」


 『時間魔法』…………だと?


 それは、私が今までの人生で手にすることが一向に敵わなかった属性。

 何度、誰に教えを乞うても、どれだけ長い時間を費やそうとも、決して手に入れることの敵わなかった魔法。

 反魔法すら扱うことは許されず、効果を弱めるぐらいしかできなかった。


 私の……――唯一ハッキリとしている弱点と言っていい。


「『複雑属性』とは、四大属性の派閥属性じゃ。氷や雷、植物が典型例じゃな。大抵、一人一属性。ファンゼル・ゲゼシス……彼が良い例じゃな」


 なるほど、確かに使った。


 マガルコフ風紀委員長の植物属性とやらは、後付け……剣に付与されていた。


「氷は……水から熱を奪う……いや、熱を奪う魔法じゃな。君も使っておったな」

「ええ、たしかに。習得には少し手を焼きました」


 焼きはせず、冷やした。

 ……ジョークだ。


「そして、雷属性。これはファンゼルくんが得意としておる。彼は生まれ持っておったらしいがの」

「ああ、かなり使い勝手のいい魔法ですよね」


 ファンゼル・ゲゼシス副生徒会長。別名、蒼雷そうらい

 彼の雷魔法は青色だ。色と効果はまるで関係ないが、見た目が最高にカッコイイ。




 …………で、本題は?


 




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