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第84話  三体の水妖精

 さて、これで晴れて自由の身だ。


 しかし、会長を大分追い込むことに成功したと思うが……まさか、戦意喪失にまで追い込んだか?


「会長……大丈夫ですか……?」

「ええ……大丈夫よ。……まさか、これほどなんてね……」


 会長は剣を構え直した。

 私が捕縛術から強引に脱走したせいで、右手が弾けていたが……なんともないのか。傷は見当たらない。


 だが、これで確定した。

 捕縛術のトリガーは、右手、もしくは手を握る行為にある。


「もう、手加減はしないわ。ここで君を……倒す! ――精霊剣、解放!!」


 ヨモイ先輩のときと違って、反応は静かだ。

 辺りに霧が立ち込める。

 そして霧は、徐々に四か所に集まりだした。


 一つの霧の塊は、会長を覆った。

 会長の体が鎧の形をした水に包まれる。ヨモイ先輩より完成度は高い。


 そして残りの三つは、人の形を取る。

 それらは徐々に透明度を失い、色が付き始める。


 ……ふむ。

 水の妖精か。会長の剣に彫られていた妖精の姿と、大小関係まで同じだ。


 波長を感じるが……生き物ではないな。核はまだ剣の中なのだろう。

 しかしそれでも、一体一体が会長級の波長を持っている。――強い。


「行くわよ、水妖精ウンディーネちゃんたち!! ――〈血海けっかい〉!!」


 一番小さい水精霊ウンディーネが、両手の平をこちらに向けた。


 ……私の足元に水でできた魔法陣が展開される。

 魔法陣……この世界にもあったんだな。もしかして、精霊特有か?

 魔法陣からは波長を感じる。波長を具現化させたのが魔法陣……か?


 魔法陣から大量の水が溢れ出し、私を包み込んだ。

 息ができない。普通の水だしな、当たり前か。……いざとなれば空気の管を通す。

 身動きは難しい。だが、流れはない……泳ぐことはできそうだ。


 水の塊は私を包んだまま、体積を増やしながら上昇していく。

 心なしか、密度も増しているように感じる。大した差ではないが……動きが鈍る。


 最終的に、私を中心に捕らえた水は、半径十メートルの球体にまで成長した。

 魔法陣から作られた水だが、魔力は込められていない。純粋な水だ。すごいな。


 そして、中ぐらいの水精霊ウンディーネが会長に、両手の平を向けた。

 すると、会長の体がその身を包む鎧の形をした水と……一体化した。


 やはり、水と一体化……いや、自身を水化させる能力だったか。

 ただ、精霊剣は変わらない。衣服は中で丸められている。洗濯にちょうどいいな。


 水の体だが、表面は波立っていないし、地面も濡れていない。

 さっきの固定化能力か? いや、精霊剣ともなればそれぐらい容易いかもしれない。

 膝などの関節は部分の水は波立っているし。


 …………完全に鎧化しているな。


「一瞬で終わらせるわよ」

「ごぼぼごぼ……(どうぞ)」


 会長が水の塊に手を触れた。


 ――瞬間、会長が猛スピードで水の中を進み、私の横を通り過ぎた。


 スピードだけなら〈閃撃〉にも迫るだろう。

 気は……感じる。やはり無意識か。


 魔法に重きを置くと、やはり気というのは習得しにくくなるらしい。

 不器用な連中だ。

 肉体的な動きがあってこそ、気は感じやすくなるものだからな。魔法を撃つだけなら、気はいらない。




 会長は方向転換し、再度私に向かってくる。


 なるほど、〈血海〉……血の海。文字通り、この水の塊を血で染めるというわけか。

 確かに驚異的で脅威的だ。あらゆる条件が組み合わさり、生み出された技……まさしく、必殺技に相応しい。


 だが、これをまともに受け続けても、私には〈回復ヒール〉がある。

 持続的に発動させることはできないが、断片的に発動させることはできる。

 まあ今回のように絶え間なく攻撃を受ける場合、再発動までの時間を限界まで短くすることで、ある意味で持続的に働くかもしれないがな。




 しかし、水化している会長は……さすがに肉眼では捉えられないな。

 魔力や微かな気、それと精霊剣でなんとなくの居場所はわかる。あと丸まった服か。


 さてどうしようか。

 会長は先ほどから私を攻撃するでもなく、ギリギリまで近寄って通り過ぎるだけだ。

 先ほど煽った仕返しだろうか? 意外と子供っぽいんだな。


 しかし、いい加減息が苦しいな。

 もう終わらせようか。

 もう……


 ――見切った。


 会長が目の前を通り過ぎた瞬間、私は精霊剣を右手で掴んだ。


「――ッ!?」

「ごぼごぼぼぼぼ(つかまえました)」


 私は全身に気を、最大にまで張り巡らせた。

 最大にまで張り巡らせると、そのあとの反動がキツイんだが……そうも言っていられない。


 会長へ最大限の敬意を示すために、私は少しだけ本気を出そう。

 そうだな……波長の制限を解放しよう。




 私は精霊剣を……会長ごと、水の塊から放り投げた。


「ごぼ……」


 私は波長六つの電気系魔法〈雷神の法衣マント・オブ・グレート・サンダー〉を最大出力で発動させた。

 本来は電気を纏う防御系魔法なのだが、こういう使い方もできる。


 水の電気分解。

 幸い、ここで生成された水は純粋な……ただの水だ。

 化学方程式が適応されやすい。


「それじゃ、会長……」


 私は〈閃撃〉を発動させ、水化した会長に近づき、目の前で正拳突きを――拳の先が会長に当たるかどうかのラインで止めるように――放った。


 振り抜いた拳から……腕から衝撃が発生し、風となって会長に襲い掛かる。


 水になっていても関係ない。

 物質として存在している以上、この衝撃からは逃れられない。


 ――ばしゃっ


 ん? ……ばしゃ?


「私は水となっているのよ? 見たらわかるでしょう?」


 まさか、水そのものが会長なのか?

 水のようになった会長ではなく、水になったのか。


 いや…………そんなぶっ壊れが……いや、精霊剣の技能だったな。

 会長の能力ではない。


 いや、現実を見るべきか。








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