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第83話  『動くな』

 さて、どうしようか。

 まずは……挑発でもしてみるか?


「……そんなものですか、会長? このままだと、私が【学園最強】となってしまいますよ?」

「まだ勝負はついていないわ! まだまだこれからよ!」


 流された。……かのように思うだろう。

 会長の波長は激しく揺れている。挑発に激昂している証拠だ。


 表面上は取り繕っているようだけどな。内面まで取り繕えはしなかったか。


 足を軽く動かすと、水に当たってぴちゃぴちゃと音が鳴る。

 魔法の準備は万端。いつでも使える。 

 この足場は失わせたくないな。便利だし、何より、都合がいい。


「……貴方の体、大分濡れてるわね」


 確かに、大分濡れている。

 特に足元。

 縛りに従い、〈防護膜プロテクション〉を張り直さず、〈水爆スプラッシュ〉を受けたせいだ。

 ちょっとスリルを求めた結果だ。


「ええ。僅かに魔力を帯びているのもわかっていますよ。どうなさるおつもりですか、会長?」

「こうするのよ!」


 会長は剣を左手に持ち替え、剣の腹を右肩に乗せ、右手を大きく開いてこちらに向けた。

 そして右手を勢いよく握り締め……


「水よ……『動くな』!!」


 ……足が動かない?

 私の体に纏わりついた水の動きを止めた……いや、そんな力とはわけが違う。

 まさか、この感じ……水を空間に固定したのか。


 こんなことも可能なのか。

 しかし、精霊剣は反応しなかった。波長も見えなかった。となると……。


「これでもう動けないわね? 卑怯だなんて思わないでね。それじゃあ……行くわよ!」


 剣は左手に握ったまま、会長は突進してきた。

 私が完全に動けないとでも思ったのか?


 私は右手に持った剣を勢いよく振るった。


 上半身に掛かった水は少ない。

 右腕は使える。左肩は水が掛かっていて、まったく動かせないが、腰はある程度動かせる。

 可動域はかなり狭いが、どうにでもなる。


 そして、なかなかどうして……面白い。

 にしても、この捕縛術は……? 波長は見えなかった。


 ――呪い………………?


 呪い、と言うにはクエスチョンがいくつも付く。

 断言はできない。…………加護、か?


 ディヴィアルがレイにつけた、回復不能の呪い。

 あれには波長があったが、これには波長が見えない。


 魔法にあって魔法に非ざるもの。と、今は言うしかあるまい。

 精霊剣の技能も波長は見えなかった。だが、今回は精霊剣は光っていない。

 つまり、術者は会長。


 しかし、現状、これは魔法で対処できるものではない。

 つまり、いくら魔力で抵抗しようとしても無意味。


 ただ、水を介して発動しているわけで……水を消せばすべて解決……か?。


「運がよかったわね。でも、もうそこから逃げることはできないわよ?」

「そうでしょうか? いくらでも脱出する方法はありそうですけど……」

「そう、強がっちゃって……。その水にはありったけの魔力を込めておいたから、そう簡単に蒸発させることはできないわよ?」


 かといって強い魔法を使えば、自滅は必至……と。

 確かに加減が難しい範囲だ。


 と、会長は考えているんだろうなぁ……。


 水と相半するのは確かに、火の魔法が一般的だが……。

 別に水の魔法に、火以外の魔法で迎え撃ってもいいだろう?

 魔法は、結局は魔力と言うエネルギーが形を得たものなんだからさ。つまりはエネルギーのぶつかり合い。

 

「それじゃ、行くわよ……」


 会長が再び剣を構えて突進してくる。

 会長は右利きだが……左でも使えるんだな。……が、問題はそこではない。


 右手。

 なぜ握りしめたままなんだ?


 右手を握り締めること。それがこの謎の捕縛術の発動条件か?





 何度、金属同士のぶつかる、甲高い音を響かせただろう。


「粘るわね、レスクくん……っ! ……はぁ……」

「体力も、かなり消費したようですね。無理してないですか? おりますか?」


 いや、無理はしているのだろう。

 多量の魔力を消費し、維持しているのだから。

 動きの端端に気も混じっているしな。やはり、無意識。


「ええ、さすがに、少ししんどいわね……。でも、最後の最後まで戦い抜いて見せる! それが生徒会長としての意地よ!」

「そうですか」


 私は会長の捕縛術のおかげで、ここから一歩も動けていない。

 しかし、いい加減、右肩の関節が若干痛くなってきた……。関節を無理に動かし過ぎたか。


 〈状態異常回復キュアー〉を使えば、この水は吹き飛ぶんだよな。

 この水が最終的な結果として、私の動きを大きく阻害していることは事実。つまり、状態異常に入る。

 私が状態異常だと認識すれば、それは私にとって状態異常だ。治せる。

 だが、それでは味気ない。


 ……もういいかな。

 ここらで、彼我の実力差を示してもいいだろう。


「それじゃ、そろそろ抜けさせてもらいますね、会長」

「へえ、どうやって?」

「――こうやって、です!」


 私は自身の波長を元に戻した(・・・・・)

 もちろん、一瞬だけだ。一瞬だけ元に戻して、すぐに戻した。

 完全には解放できなかったが、十分だろう。


「な……ぁ……」


 会長は口を開け、震えている。

 剣を地面に刺し、なんとか腰は抜かさずに済んだようだが……強すぎたか?

 細かい調整って難しいんだよ……。時間もかかるし。




 私の内側から溢れ出した濃密な魔力が、私の服に付いた、大量の魔力を含んだ水を一モル余さずに弾き飛ばした。

 会場の何人か、私の魔力にてられて気を失……ファンたちじゃないか。

 やれやれ。修行をレベルアップさせようか。


「さて、会長。大丈夫ですか?」


 私は、痛くなっていた肩を回し、凝りをほぐす。


「なん……なの? あなたは何者なの……?」

「私が何者か……? レスク・エヴァンテール。それ以上でもそれ以下でもありません。そして……」


 ――あなたを倒し、小さな一歩を刻む者




 ………少し大げさだったか?





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