第81話 水の精霊剣の技能
「――〈水斬〉」
二度目の魔法?
効果は継続されているはずだが……。
会長は剣を掲げ、振り下ろした。
完全に剣の間合いの外のはずだ。
……はずだった。
だが、剣が下ろされるにつれて刀身が伸び、剣が振り下ろされたときにはすでに、私の立っていた場所は、完全に間合いの内側に入ってしまっていた。
――ズンッ
「あら。なぜわかったのかしら?」
「何もないわけがないと思いまして……。昔から、勘に従ってきたので…………」
九十六の人生の中の戦闘時間は合計しても、軽く千年単位は…………いや、サバ読んだ。
大体六千年で……一日に大体一時間戦ってたとして…………まあ、最低でも百年は超えてるな。
百年間ぶっ続けで戦闘って考えたら馬鹿みたいに……戦闘狂のように思われるだろう。
しかし、六十分の一と考えてみると……普通だろう?
一分に一秒。一時間に一分。一日に二十四分。一年で五日間。
まあ、戦闘ができない赤子の頃や、休日という日もあったからな。
いやそもそも、平均的に戦うことなんてあってたまるかって話だ。
「勘、ねぇ。……ねえ。どんな生活をしていたらそんな感覚が身に着くの?」
「それ、重要ですか?」
「それもそうね。――〈霧〉……――〈霧隠れ〉」
途端、闘技場全体に濃密な霧が立ち込めた。
マガルコフ戦で私が展開したものよりも濃密だ。暗闇と同じぐらい、何も見えない。水蒸気のせいで空気も、若干重い。
これも精霊剣の影響か。
精霊剣はそれが属する属性を所持者が使用すると、それを補佐するらしい。
つまり、ヨモイ先輩が炎系魔法を使っていたら、その効果も跳ね上がっていたのだろう。
……アルティナは魔法に関して、何の補佐もなかったはずだ。
身体能力は補佐が入ったはずだが。
ワーグナーやガイオスの話じゃ、アルティナは魔法もそこそこ、人並み程度には使えたらしいが……。
『〈霧隠れ〉を使った私の居場所は、たとえ君でも察知は不可能よ』
なるほど、確かに……。
上空からの眼も駆使して探すが、それらしい反応は見当たらない。
いや正確には、反応自体はある。
だが、それらしい反応が何個も点在している。
霧も濃い魔力を含んでおり、探知系魔法は阻害される。
『一応言っておくけど、私のアドベンチャラーランクはBよ』
おお、私の最初期ランクと一緒じゃないか。
とは言え、縛りを課している今の私も大体それぐらいか。
それにしても、〈霧隠れ〉か。
名前からして〈霧〉から連鎖してできる魔法。〈霧〉は土台だ。
それにしても、どれか一つが本物なのだろうと考えるが……私の勘がそうではない、と告げている。
攻撃を仕掛けて来ないのも謎だ。
…………!
――キンッ!
背後から斬られた。
勘が働いて防げたが……こんなに接近されるまで気が付かなかった?
いや、気配が急に現れて、攻撃を仕掛けてきた後に急に消えたように感じた。
それに、剣全体は見えたが、それを握る手は見えなかった。
ふむ……。
「……なるほど、そういうことですか」
『……何がわかったのかしら? 降参の仕方でも学んだ?』
私は左手の中指と親指の腹を合わせた。
――パチンッ
『な――』
途端、霧が晴れ、空中に会長が現れた。
「――きゃっ!」
会長は地面に落ちた。
しかし、霧が晴れたと同時に会長が空中に現れたことで、今までの疑問が解となって繋がった。
「〈霧隠れ〉は、自身を〈霧〉とする魔法ですね。……いや、自身を魔力化したと言うより、自分を〈霧〉に溶け込ませ、その中で物体を自在に操る……といったところですか?」
「…………答え合わせはなしよ」
会長の波長を見て、真偽はわかった。
――正解だ。
まず〈霧〉を展開。
所持者が発動させるのがベストだろう。そうすることで、より濃くなる。
その後、波長は見えなかったが、精霊剣が輝いたのが見えた。
おそらく、会長の魔法ではなく、精霊剣特有の特技・技能だろう。いいな、羨ましい。
そして、精霊剣を霧の中で自在に操作。
突然現れて消えたことから、霧にすることもできるのだろう。
会長の精霊剣は見た感じ、かなり高位の部類っぽいしな。
何かしら特有で特殊な技能を持っていてもおかしくない。
それと、私が発生させたのは〈霧〉の反魔法だ。
これで〈霧隠れ〉が解除できたら万々歳だった。
晴れていなかったら〈霧〉が〈霧隠れ〉に併合されたか、阻害されたかのどちらかだったからな。
結果は、王手まで転移した。
結局、〈霧〉の上にいろいろ乗ってできた魔法だったというわけだ。
「それなら、これはどうかしら……?」
会長は剣を地面に刺した。
そこからコポコポ……と水が溢れ出した。
足元に水たまりでも作って…………?
途端、ドバッと勢いよく水が溢れ出し、私の足元まで、水が地面を薄く覆った。
だが、あくまで範囲はこの闘技場内のようだ。範囲指定可能、か……。
「なんですか? 靴を濡らして、中を濡らす嫌がらせですか?」
「まさか。こうするのよ! ――〈影の手・水バージョン〉!!」
水……バージョン?
――ドバッ!!
途端、地面の水から、水でできた触手のような腕が幾何本も伸びてきた。