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第80話  アリス生徒会長

「――お待たせしました! ついにこの時がやって来ました!! ――決・勝・戦!!」


 私の対戦相手は、やはり、アリス・ウーゼンティシス生徒会長だった。


 学園最強(・・)の生徒。

 そしてそれが、生徒会長である、唯一の証。


 最強……か。

 今までの、記憶にある人生で、【最強】の称号を手にしなかった人生はない。


 ここらで小さな【最強】を手にするのも、後の真の【最強】への一歩か……。

 

 もちろん、私がここで勝利しても、生徒会長の座を奪うことはできない。

 三年生最強の生徒だけが着くことの許される座だ。

 私がここで勝っても、そのもう片方の条件を満たすことはない。【学園最強】の称号は得られるだろうがな。


「……学園でも指折りの精鋭である風紀委員長、書記らを破り、決勝戦へ駒を進めた超新星……庶務、レスク・エヴァンテール!!」


 やはり大半の貴族からの歓声は起こらないか。

 ファンたちや一部――王女などの生徒会メンバーやシンシルスなど――からの歓声しかない。


 貴族の末席を汚す私の存在は、彼らの野望とプライドの駒とはなり得ない。

 つまりは障害だ。


 対し、アリス生徒会長はれっきとした貴族のご令嬢。

 彼らの駒となり得る存在。

 仮に(・・)アリス会長が勝てば、彼らは学園長に言葉の鉾を向けるだろう。……アリス会長の背後からな。


「そして――! 我らが最・精・鋭!! 学園最強の座を二年間維持した、歴代でも指折りの生徒会長。その名は――アリス・ウーゼンティシス!!」

「「――ぅおおおおぉぉぉぉおおおおおおおおおおおッッ!!」」


 わぁお……すんごい歓声。

 観客の大半がこちらを応援している。


 しかし、アリス会長は去年から学園で一番強かったのか。

 相手にとって不足はないが……どうかな。自身に課した縛りは有効だ。もしかしたら……負けるか?


 ――いいや、勝つ!


「よろしくね、レスクくん」

「ええ、こちらこそよろしくお願いします、アリス生徒会長」


 ――本当にこの目の前の女性は……本当に、生徒会長アリス・ウーゼンティシスなのか?


 いつもの、優しく包み込むような気配とは打って変わって、鬼気迫る気迫を感じる。

 マガルコフ風紀委員長の、金剛石を思わせる気配とも、チャングゼン先輩の粘りつく闇のような気配とも違う。


 背後に何か見えそうなほど、練り固められた、強いベクトルを持つ気配。


 ……油断ならない。

 マガルコフ風紀委員長やチャングゼン先輩とは明らかに一線を引いている……とまではいかないが、あの二人よりも明らかに強い。

 自身に縛りを課しているこの状態で、遊んでいる余裕はないかもしれない。




 それと、この気配の奥底に、わずかに気の気配がする。

 ローズと同程度には気を操れるだろう。

 問題は、それが意識下なのか無意識下なのか、だ。

 だが、たったそれだけで、脅威の度合いは大きく違ってくる。


 ローズは不可思議な技能の一部としか認識していなかった。

 果たして、生徒会長は……。


「両者、構えてください!!」


 私は剣を抜いた。

 これまで通り、〈武器創造クリエイト・ウェポン〉で創造した剣だ。

 そこらのなまくらよりはマシな代物だ。


 アルティナを抜けば、間違いなく剣を向けられた者は死ぬ。


 対し、アリス会長が抜いたのは……精霊剣だ。

 属性は……見た感じは水だな。


 碧色の刀身に、瑠璃色で波のような……それでいて、妖精のような模様が彫られている。

 それでいて実用性を損なわないように彫られている。

 芸術品としても、武器としても一級品だ。

 

「それでは、武闘祭決勝戦――開始ッ!!」


 途端、水を打ったように会場に静けさが戻る。

 誰もが慟哭し、見守る。


 ――…………わけではなかった。


「会場の三分の一が体の自由を奪われているのね……」

「そのようですね。さしずめ、暴動を企てた、といったところですか……。貴族の矜持とやらのためですかね」

「そうでしょうねぇ……さっきもいろいろ囲まれたわぁ。私にはどうしようもできないって言うのに……」


 会長は右手を頬に当て、困ったような顔をする。ま、本当に困ってはいるんだろうがな。

 絵になる。姉に欲しいと思う連中も多いと聞く。


 ――どうでもいいことか。


「それじゃあ、始めましょうか。……生徒会長の座において、負けるつもりはないわ」

「お言葉ですが、私も負けるつもりは到底ありません」


 負けたくない。

 理由はそれだけだ。


 理由や地位、立場なんて私の知ったことじゃない。

 まあ、それ相応の理由があれば敗北も考えるが……今回は無視する。


 アリス“現”生徒会長だって、去年から学園最強だったそうじゃないか。

 それはつまり、“前”生徒会長よりも強かったということだ。

 前例が存在するんだ。ここで私が勝っても、なんら問題はない。


 ただ、会長が二年間だったのに対し、私が一年多く、【学園最強】を保持するだけだ。

 たった一年の違いなど、あってないようなものだ。


「――〈水斬ブレード・ウォーター〉」


 会長の剣に水が纏わりつき、刀身の二倍以上の長さの水の剣となる。

 名称からして、ピァンス支部長の〈風斬ブレード・ウィンド〉と同系列だろう。


 しかし、今のには違和感を感じた。

 …………何かが違う。


 何が……魔法自体は普通。

 今まで……ヨモイ先輩やピァンス支部長との違い……。


 ……。

 …………。なるほど、わかった。


 今のは精霊剣のものではない。 

 会長が発動させた魔法か。


 ……意外と大したことない違和感だったな。


「――〈水斬ブレード・ウォーター〉!!」


 ……私は何を?

 大したことない(・・・・・・・)違和感・・・


 私の第六感が導いた違和感が、大したことないものじゃないはずがない。







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