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第79話  〈蔦〉

 マガルコフ風紀委員長の剣の鍔から伸びた七本の蔦。


 まずは、弱点でありそうな火が効果があるのかどうか。


「――〈火球ファイアー・ボール〉」


 ……蔦が薙ぎ、炎が消される。

 見た感じ、蔦にダメージはない。


「――〈火槍ファイアー・ランス〉」


 ――ダメージなし。


「――〈炸裂炎プロミネンス〉」


 ――少し焦げたか。だが、即座に再生した。


 ふむ……。思った以上に耐久性、再生性が高い。

 再生させないためには……切り口を常に焼き続けるしかない、か……。

 だが〈炸裂炎プロミネンス〉に持続性はない。


 やはりここは〈灼炎ブレイズ〉が妥当か。


「――〈薔薇蔦ローズ・ウィップ〉」


 そのとき、マガルコフ風紀委員長の足元から鋭い棘の生えた蔦が……薔薇のような蔦が生えてきた。

 所々に薔薇の花が咲いているが、色がない。白……ではなく、無色透明。


「――〈血薔薇ブラッディ・ローズ〉」


 蔦が私を囲うように伸び、その棘を伸ばした。


「出ました、風紀委員長お得意の薔薇魔法ローズ・マジック!! この蔦に囲まれては、逃げ道はありません! エヴァンテール、絶対絶命!!」


 この棘の量、鋭さ、硬度……質量。

 ――問題ない。


 棘の生えた蔦が私を貫こうと巻き付く。

 すぐ目の前に棘の先が見えている。


 だがやはり、〈防護膜プロテクション〉を突破するだけの質量はない。


 …………薔薇の花が、赤く染まっている?


「――『爆ぜろ、赤薔薇』!」


 ――まずい。


 そう思った瞬間にはもう、〈転移テレポーテーション〉で薔薇の檻から脱出していた。

 僅かに空いていた隙間から外が見えていてよかった。

 

 舐めプもそこそこにしないとな。


「〈転移テレポーテーション〉を使えるんだったな。失念していたよ……」


 薔薇が触手のようににゅるにゅると動きながら、マガルコフ風紀委員長の下へ戻って行く。

 

 厄介な。

 チャングゼン先輩の〈影の手(シャドウ・ハンド)〉よりも数は少ないとはいえ、一本辺りの強度が違う。

 チャングゼン先輩の〈影の手(シャドウ・ハンド)〉と勝負したとき、勝つのはどっちだろうな。


「――『紡ぎて大木となれ』」


 そのとき、マガルコフ風紀委員長の剣から伸びる七本の蔦が絡まり合い、一本の巨大な蔦……否、木となった。

 まさしく、連理・・木。


 生半可な魔法じゃ破壊できないだろう。


「こうなったら、生半可な攻撃じゃ壊せやしない。下手な武器よりも硬く、重いぞ。……そうだな。これを壊すことができたら、お前の勝ちだ」

「なら……――斬る。――〈ワン〉」

「…………無駄だと言わなかったか?」


 巨木の半分まで斬れたが、即座に再生された。

 絡み合っているため、一本を斬ってもそれを落とすことはできない。そのまま切断面を合わせられ、再生される。


 それにしても硬すぎる。

 ……ふぅむ。

 あれを斬るのもまた、一興か。


「お前については調査済みだ。最大火力を誇るのは――どうやって習得したのかは不明だが――マイン家に代々伝わる秘奥義〈ワン〉。そして常に防御魔法を展開しており、生半可な攻撃は通じない。……だが、これはそれらを、更に上回る……」


 ……確かに、それは正解だが、“最大火力”という点においては間違いだ。

 まあ、超級魔法〈禁忌大爆発ニュークリア・ブラスト〉なんか使う必要なんかそうそうあるものじゃないしな。

 使っても、波長六つの魔法ぐらいだろう。


「それを斬ったらいいんですね?」

「あぁ――」

「――何を馬鹿な! 蔦の剣を斬れるわけがなかろう!!」


 ……誰だ?


 そう思って声がした方の観客席を見ると、一人の女生徒が身を乗り出して、真っ赤な顔をしてこちらを見ていた。

 確か、マガルコフ風紀委員長のファンクラブの名誉会長的な……リーダー格の人だったな。

 カノジョだっけ?


「彼女さんですか?」

「そうだ。……腰を折ってすまないな。無視してくれ。……さあ、再開しよう」


 ……本当にカノジョか?

 

 そう疑問に思ったが、どうやら本当のようだ。

 互いに笑顔で手を振っている。試合中だろうが。 

 まあ、カノジョとの触れ合いの最中に攻撃するほど、私は愚かではない。

 好きにいちゃつくといいさ。


「んんっ! ……さて、再開しよう」

「もう……いいんですね?」


 途端、闘技場全体に濃い霧が立ち込めた。

 

 言葉に波長を込めて発動させた波長二つの魔法〈ミスト〉。

 発動者自身も関係なく、範囲内にいる者すべての視界を、霧が覆い尽くす。

 魔法によって生み出された霧は、魔法の眼すら僅かに阻害し、火系魔法の威力も弱体化する。


 ――だが、私には上からの眼がある。

 霧は高さの低い円柱状をしている。上からだと、まだ見えやすい。


 マガルコフ風紀委員長の位置は把握済みだ。


 私は剣に目一杯、気と魔力を込めた。ローズからの着想だ。

 剣の許容量を超えていることはわかっている。剣が直に粉々に砕け散る運命も。

 アルティナを出したいが、あれは目立ちすぎる。


「――〈ワン〉」





「これは…………。俺の負けだな、レスク」

「勝者……生徒会庶務、レスク・エヴァンテール!! 何が起きたのかは不明ですが、マガルコフ風紀委員長の蔦の剣が折られています!」


 会場が静寂に包まれる。


 イカサマ程度で破れるような蔦の剣ではない。それは、私よりも観客の方がよくわかっている。

 それに何より、会場の……観客席のすぐ下の壁に伸びた、一字の文字。それは斬られてできたものだ。

 気を過剰に込めたから、少し汚い『一』になってしまった。


 誰だって見れば理解できる。


 一度私が見せた〈ワン〉が更に強化され、それが蔦の剣を斬ったのだろう、と。




 しかし、誰も納得していないのはわかっている。

 霧で何も見えなかったからな。


 そもそも、先程見せた〈ワン〉が、レイのもの程度の威力しかなかった。

 様子見だったからな。


 だが、それでも斬ることはできた。

 だから、いつもの――威力百パーセントの〈ワン〉を出すのを躊躇った。


 そこで〈ミスト〉を発動させた。

 その理由は、変に反応されてマガルコフ風紀委員長もろとも斬ってしまう可能性をゼロに近づけるためだ。

 蘇生の魔法は未発見だ。即死されては……生き返らせることはできない。


 それと何より、〈分身体ドッペルゲンガー〉を発動されるところを見られるわけにはいかない!

 サボりがバレる!!


 (注意:〈分身体ドッペルゲンガー〉の波長は五つのためセーフ)


 〈分身体ドッペルゲンガー〉で上手くマガルコフ風紀委員長を誘導し、蔦の剣のみを斬ることに成功した、というわけだ。





 

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