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第78話  マガルコフ風紀委員長

 そして、翌日――決勝の日。


「さあさあ! 昨日の武闘祭では多くの猛者が熱い血をたぎらせ、散りました! そして勝ち残った四人の猛者はなんと全員……学園の精鋭『生徒会』!!」


 ――ウオォォオオオオオオオオッッ!!


 観客席が興奮の熱で波打つ。

 本当に騒いでいる連中は貴族なのかと疑いたくなるが……やはり、貴族である前に子供であるというということなのだろう。

 かわいいものだ。だが、年相応にはしゃぐのは悪いことではない。


 ここ――選手控え室に来るまで大変だった。

 貴族連中に囲まれて、前に進むも後ろに退くも自由にいかなかった。


 もちろん、他の三人は応援エールを、私は罵倒を浴びてきた。

 一応は貴族だが……難しい立場だからな。実績より先に家名が来たからなぁ。


 これからは誰もが納得する実績を積まないとな……。

 アドベンチャラーランクは最高峰のAAランクまで昇りつめたが……私を抱え込みたい国王が情報統制しているせいで、実績と呼べない。呼ばせてくれない。

 つまり、アドベンチャラーと無関係の場所で実績を……。


 …………そんなに焦らなくてもいいか。




 しかし……思ったよりも事態は深刻そうだ。

 司会の言葉を無視スルーして〈千里眼クレアボヤンス〉を発動させ、上空から見渡してみるが……一見、落ち着いているであろう連中も、興奮のせいか、魔力が漏れ出ている。


 いつ、何がきっかけで暴動が起きてもおかしくない。

 きっかけさえあれば、暴動が起こる。


 ウーゼンティシス、ゲゼシス、マガルコフはどれも貴族家だ。

 そこで貴族連中は仲間にしようとしているが……それは無理な話だ。生徒会は学校側の組織。


 ――そして何より、本人たちにその意志がない。


 とは言え、暴動を起こされてはまずい。

 観客席を見回りしているあいつらに怪我させるわけにはいかないな。

 少しでも危険を感じたら〈麻痺パラライズ〉を。〈超重力ハイ・グラヴィティ〉は本体わたしで使おう。


 上手くいけば、「試合中にもかかわらず、観客席の暴動を鎮めた」という功績が残る。


「――準決勝第一試合目は! 学園の秩序の守護者、ティーン・マガルコフ風紀委員長! そして! 期待のダークホース、レスク・エヴァンテール生徒会庶務!」


 …………待て待て待て。

 トーナメント表と違うぞ。私が最初に戦うのは、ファンゼル副生徒会長だったはずだ。


 …………そう言えば物思いに耽っている間、司会はずっと何かを喋ってたな……。

 私が自分の世界に入っていたのは、そう長い時間ではない。つまり…………そういうことだ。

 …………ルール説明を聞き逃した。


 まあ、昨日とそう違いはあるまい。




 私はマガルコフ風紀委員長と向かい合う。

 それにしても……やはり、マガルコフ風紀委員長の放つオーラは桁違いだ。

 チャングゼン先輩が粘りつく闇のようなオーラなら、マガルコフ風紀委員長は金剛石を思わせる。


 どの世界でも、金剛石のようなオーラを持つ者は決まって強者だ。

 魔法ではなく、肉体的に強い場合が多かった。


 肉体的に鍛え抜かれた、鋼の意志を持つ強者にこそ許されたオーラだ。

 精神系魔法は通じにくい傾向が強い。


 まず、オーラがそもそもイマジナリーの領域なんだがな。

 基本的にオーラとは、具体的なイメージを持った気配のことを指す。


「レスク、ルールを聞いてなかったな?」


 マガルコフ風紀委員長はただでさえ細い眼を更に細めた。

 ただでさえ細目の委員長が眼を細めると……なんだか威圧感が増すな。


「…………はい」

「――教える気はない」


 ……くそやろう。


「――それでは両者、構えてください!!」


 委員長は剣を抜き、私は創造していた剣を抜いた。


 委員長の剣は……やはり、逸品だ。 

 精霊剣でも霊剣でもなさそうだが、魔力を帯びている。それも、相当特殊な、な。


 細身の刀身には、蔦の模様が彫られている。


 私の剣でも太刀打ちはできるだろうが……風紀委員長の実力は謎だ。

 アリス生徒会長に匹敵する実力者、と聞いているが……そのアリス生徒会長の実力も知らないしな。

 物差しにならない。


「それでは準決勝第一試合……開始!!」

「――ッ!」


 瞬間、眼前まで迫っていた風紀委員長が剣を突き出してきた。


 ……速いな。

 それでいて、突きの練度も高い。


 きっと、お決まりの手なのだろう。


 私は剣を縦に構えて、風紀委員長の突きを逸らした。

 そして、膝蹴りを突き出した。


 だが、間一髪で躱されてしまった。

 突きの流された方向に身を流させ、移動速度を上げることで、私の膝蹴りを躱したのか。

 瞬時の判断にしては上出来だ。

 焦りは見えず、むしろ、当然という感じすらあった。

 すべて織り込み済みか。


 型が決まっている。

 しかし、型の定義が広すぎる。だが、私はこれを知っている。

 これは…………


「――連理れんり流ですか……」

「……正解だ」


 連理流。

 才能のある者しか門戸を叩けず、仮に門を潜れても、途中で脱落する人が大半だ。


 ……ってガイオスから聞いた。


 私は流派を知らない我流だし、この我流で苦労することはほとんどないだろう。

 ということで、流派には興味がない。

 まあ、新しい型――動きを覚えられる可能性がわずかでもある以上、まったく無視するわけにはいかない。


 ちなみに情報源であるガイオスは、連理流を修めていない。

 優れている流派の一つとして教えてもらっただけだ。


「――『伸びろ、蔦』!!」


 マガルコフ風紀委員長の言葉に反応し、剣に彫られた蔦の模様が薄緑色に輝いた。


 ――ドッ


 剣の鍔から何本もの蔦が伸び、迫ってきた。

 やはり魔法が付与されていたか。


「出ました! 問題を起こす生徒だけでなく、他の生徒会メンバーですら苦戦する、風紀委員長の〈蔦〉!!」


 ふむ……質量、数ともに申し分ない。

 あとは火の魔法で太刀打ちできるかどうかを調べて……撃破しよう。



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