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第77話  非公式IFルート

「それじゃレスクくん? 物語の『助けが来なかった場合(I Fルート)』を演じてね?」


 途端、幾百もの〈影の手(シャドウ・ハンド)〉が迫る。

 油断なく、数十の手はチャングゼン先輩を護るように待機している。


 ……詰めれる場所がない。

 

 ――パチ 

 ――ドゴンッ!!


 寸前で〈障壁バリア〉を張った。

 後退はしない。前進はできない。……なら、進まなければいい。


「ふむ……。〈障壁バリア〉が消し飛んだか。…………さすがですね、先輩」

「今のでダメージを負わないなんて、さすがだねぇ」


 しかし……この状況はあまりよろしくない。

 道はない。まあ、道は作れるが……それは今は置いといて。


「圧倒的な質量、物量で押し切る……脳筋策ですね。しかし、実に効果的だ」

「その通りぃ……。もう、どうすることもできないんじゃない?」


 魔術で攻めてくるという予想は当たっていたが、この物量は脅威だ。


 ――私と先輩の実力差がこれほど開いていなければな。


 これを突破する術は……ある。


「それじゃ、次ねぇ」


 再び、幾百もの〈影の手(シャドウ・ハンド)〉が降り注ぐ。

 また〈障壁バリア〉を生成し、〈障壁バリア〉と引き換えに防ぐ。


 だが、今回は第二射が控えていた。

 再生成する暇は与えない……つもりらしいが、残念。


 すでにもう片方の手で指を鳴らす構えをしていた。


「無駄ですよ、先輩。そして、もう終わりにしましょう。物語は公式が公表しない限り、IFルートは存在しえません。聖王の配下(せんぱい)神聖なる悪魔(レスク)に負けるんです」

「……どうやって? 援軍は来ない。進む道も退く道もない。守りも攻撃も通用しない。…………どうやって?」

「こうやって……です。――〈灼炎ブレイズ〉」


 私は漆黒の月に手を向け、波長四つの炎系魔法〈灼炎ブレイズ〉を放った。

 波長一つの魔法の副次効果として生み出される月ぐらい、簡単に消しさることができる。


 しかし、〈影の手(シャドウ・ハンド)〉は消しきれない。

 つまり、それに守られている月は消せない。


 だから、〈灼炎ブレイズ〉を放つ前――「です」と口にしたタイミング――に、波長一つの魔法〈ライト〉を発動させておいた。

 炎は光も有する。

 光を強める効果のある〈ライト〉によって、〈灼炎ブレイズ〉は光り輝く炎となった。


 おかげで〈影の手(シャドウ・ハンド)〉は薄く……弱くなった。


「――させないよぉっ!! ――〈ダークネス〉」


 先輩が〈ライト〉と対になる魔法〈ダークネス〉を放つが、そうはさせない。

 たかが波長一つの魔法。音一つで、簡単に打ち消せる。

 炎を消そうとせず、炎の光を弱めようとする判断は最高だがな。相手が悪かったな。


「な……私の魔法が」


 私の〈灼炎ブレイズ〉が炸裂し、月が……〈月光ムーン・ライト〉が消える。

 そして〈影の手(シャドウ・ハンド)〉も大半が消えた。

 残ったのは先輩の足元から伸びるものだけだ。


「先輩、楽しかったです。ありがとうございました」


 私は礼をし、その言葉で〈閃撃〉を発動させ、先輩を抱きかかえて場外に優しく下ろした。


 ……抵抗を感じなかった。


「ノルデル・チャングゼン生徒会書記の場外落下を確認!! 生徒会庶務レスク・エヴァンテールの勝利です! 強い、強すぎる!!」





 あれからいくつか試合を重ね……最終的に、準決勝まで進んだ。残りは明日に持ち越しとなった。

 それもそうだ。

 会場の修復・点検があるだろうし、それ以前に時間がない。


 しかし、私にはまだ仕事がある。


 ――生徒会としての仕事が。


「今日はみんな疲れている中、集まってくれてありがとう」


 この生徒会室には、全生徒会メンバーが集まっている。

 武闘祭で傷を負ったメンバーもすでに、回復魔法によって癒えている。

 だが、疲労の色は強い。回復魔法は、蓄積した疲労までは取り除けないからな。


 現時点で疲労の色が見えないのは私とアリス生徒会長のみだ。


 トーナメントの結果だが、勝ち残った四人は私、ファンゼル副生徒会長、アリス生徒会長、マガルコフ風紀委員長だ。

 見事に、全員生徒会メンバー……。

 アーン会計と王女はあと一歩及ばずといったところで、それぞれ生徒会長と副生徒会長に負けた。


 正直、王女は生徒会長相手にかなり善戦した。

 しかしやはり……相手が生徒会長の役職に着くだけあって、負けてしまった。

 しかもあの戦いを見た感じ、会長はまだ奥の手をいくつか隠している。


 


 改めて、生徒会とはこの学校の精鋭エリートなんだな、と自覚した。


 もちろん、一部、生徒会メンバーを超える実力者もいた。

 だが、やはりアリス生徒会長やゲゼシス両副生徒会長(あと私)の前には膝を着く羽目となった。


「問題は明日の決勝戦よ。例年通り、私たち生徒会から四人が選出されたわ。そこで問題の警備なのだけど……」


 警備?

 確かに決勝、準決勝は白熱するものだ。しかし、学園長が貴族連中を煽ったうえで貴族連中は最後まで残らなかったからな。

 逆に盛り下がるんじゃないのか?


「一応、私たち三人は貴族。躍起になって、暴動を起こす可能性があるわ。……それ以前に、毎年、賭け事は絶えないわ。そこで、明日の警備体制を再確認するわよ」

「明日は僕が指揮を執ります」


 テオ副生徒会長が手を挙げ、立ち上がった。

 事前にある程度聞いてはいたが……うん、再確認は大事だ。


「入場口を僕とチャングゼン書記で。観客席をセバス、クォーツ両風紀委員が巡回。ミーネ、シャリ会計はそれぞれ両風紀委員の補助を。アンゼリオ庶務とリスガイ庶務は二人一組で観客席を上から」

「……問題はなさそうね。何かあれば学園長や他の先生方を頼りなさい。何かあったらすぐに、何かしら信号を上げること!」

「「了解!!」」

「それじゃあ、今日は解散! 各々しっかり休んで、明日に備えてね!」


 ふむ……。念の為、姿を変え、〈隠密ハイド〉で姿を隠した〈分身体ドッペルゲンガー〉を上空に待機させておこう。

 どれくらい上だといいだろう?

 鳥が飛ぶよりも上ぐらいか? ふむ……。適当でいいか。とりあえず、めちゃくちゃ高いところまで飛ばしておこう。







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