第73話 ちょっと速い庶務vsすごく速い庶務
「――勝者! 生徒会庶務、レスク・エヴァンテール!!」
――オオォォオオオオオーー…………!!!
観客が沸き立つ。
私の目の前には、凍り付いた先輩の姿。
……さすがの炎の精霊剣も凍り付いたか。
この魔法〈凍結〉は単体氷系魔法。
状態異常系だが、即死魔法ともなり得る。
対象を氷漬けにする魔法だ。
波長六つ単体炎系魔法〈滅炎〉に匹敵する魔法だ。
見つけたのはごく最近……二日前だ。〈滅炎〉を基盤に波長を弄っていた結果だ。
そして、魔法は炎の精霊剣ごと凍り付かせることに成功した。
ヨモイが精霊剣の力をもっと引き出せていたなら、もしかして……と思わずにはいられないが、実験のしようがない。
私は指を鳴らし、魔法を解除した。
時間が掛かるほど、後遺症が残ってしまうからな。死までの時間も、刻一刻と進んでいることだしな。
パキンッと氷が砕け、中からヨモイが出てきて、倒れた。
即座に炎の精霊剣が再び炎を吹き出し、ヨモイの凍え切った体を温める。
放っておいても大丈夫そうだ。
気を失う程度の時間しか凍らせなかったしな。
精霊剣が炎を噴き出したのは……先ほどの精霊剣解放がまだ有効なのか、それとも……
――主を護ろうとする精霊剣の防衛機能か?
「う……うぅ」
「医務室へ運べ! 担架を!」
担架が運ばれてくると同時に、ヨモイが立ち上がった。
「エヴァンテール……。やられたよ……僕もまだ未熟だった」
「ヨモイ・アードレル。お前は強かったよ」
「何を……」
「――私がお前より強かっただけだ。上には上がある。ただ、それだけの話さ……」
そう、いろんな世界で【最強】の称号を欲しいがままにしてきた私でも、敗北の経験は幾度もある。
最終的に、最強となったが……それは結果でしかない。
最強と無敵は違う。
最強だからと言って、無双できはしない。敵がいないからと言って、最強とも限らない。
「そうか……そう、だな……。ありがとう」
ヨモイは晴れ晴れとした顔で運ばれて行った。
恨まれる可能性を考慮していたが……まさかの結果だ。嬉しい誤算だ。
▼
二戦目も勝利を収め、今のところは順調。
そして三戦目は……ローズか。
ローズとは、同じ生徒会庶務同士、話さないことはないが……友達と呼べる関係ではない。
庶務に選ばれた以上、そこそこの実力者ではあるのだろうが……初めて会ったのは、盗賊の塒の中だったしな。
向こうは私と初めて会ったのは、それこそ生徒会入会後だしな。
「ぉおっとぉ!! 本日、最初の生徒会同士の戦いです! 互いに、一年生の精鋭の二人!! 勝利はどちらの手に渡るのか!? これは目が離せません!!」
「よろしくね、レスク?」
「ああ、よろしくな。ローズ」
王女は近くで見ていたから、手札は知れているが……ローズは、自主練をしているところすら見たことがない。
クサラス洞窟での課外授業で少し見た程度だが……ボス部屋でさえも、手を抜いているようにさえ見えた。
そのときは剣を使っていたが……そうとは限らないかもしれない。
いや、そもそも、あの程度の盗賊に捕まるようなやつだ。
大して実力は高くないと考えるのが妥当か?
ローズを注意深く見る。
大したマジックアイテムは持っていないようだ。
辺境の、北端の村出身の少女だ。
課外授業中も、盗賊の塒で捕まっていたときも、大したマジックアイテムは持っていなかったしな。
「両者、構えてください!!」
私とローズは剣を抜き、構える。
ローズの武器は……新品の剣?
ローズは腰に二本の剣を差し、使い古されていない方……新品の方を抜いた。
古い方の剣からは何も感じないが……秘匿されているのかもしれない。例えば、鞘がそれ用のマジックアイテムかもしれない。
「レスク。君を侮ることはできないから、切り札を切ってでも勝つ! 本気で君に勝って、勝ち進ませてもらうよ!」
「ああ。来い!」
「――開始!!」
合図とともに、ローズの姿が霞む。
そして次の瞬間、私の目の前に、剣を天高く振り上げたローズの姿があった。
「うああぁぁあああああ!!」
咆哮と共に、剣が振り下ろされた。
もちろん、初めから見えていた。私のオリジナル魔法〈閃撃〉の下位互換だろう。
いや、わずかな魔法の気配とともに感じるこれは…………気か!
独学か? それとも……レイのマイン家のような、家に伝えられるものか?
どちらにしろ、気を扱えている時点で賞賛ものだ。
ローズの鋭い斬り下ろしを、片手に持った剣で受け止める。
ヨモイ先輩よりも力の込め方が上手い。それとも、シンプルに気の効果によるものか?
ローズが後退し、剣を構え直した。
そして、再度突撃してきた。
「それは独学か? それとも、受け継がれているものか?」
「それが何かはわかんないけど……独学よ! それがどうしたって言うの!?」
「……そうだな」
ローズは決して鍔迫り合いには持ち込まず、一撃仕掛けては離脱、そして再度突撃……というのを繰り返していた。
「ローズ・アンゼリオ、速い! 速すぎる!! ……しかし、対するレスク・エヴァンテールも、彼女の猛攻を表情を一切変えずに受け流している!!」
司会も、一応目で追えているのか。
ま、司会も生徒だしな。実況が上手く、動体視力の優れた人材が選抜されているのだろう。
「はぁ……はぁ……。なぜ……ッ」
「なぜも何も……見切っているからだが?」
「んな! なん……」
「確かに速いが、ちょっと速いだけだ」
ハウスのエヴァンス支部長、アレオ・ピァンスの〈妖精演舞〉よりも遅い。
もちろん、私の〈閃撃〉よりもな。
「よく見ていろ、ローズ。いや、見えるかな? まあ、頑張ってくれ」
私は、体に魔力と気を張り巡らせた。
最近は気を巡らせることで、小回りがより調整できるようになった魔法。
発動したのは……――オリジナル魔法〈閃撃〉――