表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

73/132

第73話  ちょっと速い庶務vsすごく速い庶務

「――勝者! 生徒会庶務、レスク・エヴァンテール!!」


 ――オオォォオオオオオーー…………!!!


 観客が沸き立つ。

 私の目の前には、凍り付いた先輩の姿。

 

 ……さすがの炎の精霊剣も凍り付いたか。


 この魔法〈凍結コールド・スリープ〉は単体氷系魔法。

 状態異常系だが、即死魔法ともなり得る。


 対象を氷漬けにする魔法だ。

 波長六つ単体炎系魔法〈滅炎バーン・ロスト〉に匹敵する魔法だ。

 見つけたのはごく最近……二日前だ。〈滅炎バーン・ロスト〉を基盤に波長を弄っていた結果だ。




 そして、魔法は炎の精霊剣ごと凍り付かせることに成功した。

 ヨモイが精霊剣の力をもっと引き出せていたなら、もしかして……と思わずにはいられないが、実験のしようがない。


 私は指を鳴らし、魔法を解除した。

 時間が掛かるほど、後遺症が残ってしまうからな。死までの時間(タイムリミット)も、刻一刻と進んでいることだしな。


 パキンッと氷が砕け、中からヨモイが出てきて、倒れた。


 即座に炎の精霊剣が再び炎を吹き出し、ヨモイの凍え切った体を温める。

 放っておいても大丈夫そうだ。

 気を失う程度の時間しか凍らせなかったしな。


 精霊剣が炎を噴き出したのは……先ほどの精霊剣解放がまだ有効なのか、それとも……


 ――主を護ろうとする精霊剣の防衛機能いしか?


「う……うぅ」

「医務室へ運べ! 担架を!」


 担架が運ばれてくると同時に、ヨモイが立ち上がった。


「エヴァンテール……。やられたよ……僕もまだ未熟だった」

「ヨモイ・アードレル。お前は強かったよ」

「何を……」

「――私がお前より強かっただけだ。上には上がある。ただ、それだけの話さ……」


 そう、いろんな世界で【最強】の称号を欲しいがままにしてきた私でも、敗北の経験は幾度もある。

 最終的に、最強となったが……それは結果でしかない。


 最強と無敵は違う。

 最強だからと言って、無双できはしない。敵がいないからと言って、最強とも限らない。


「そうか……そう、だな……。ありがとう」


 ヨモイは晴れ晴れとした顔で運ばれて行った。

 恨まれる可能性を考慮していたが……まさかの結果だ。嬉しい誤算だ。





 二戦目も勝利を収め、今のところは順調。


 そして三戦目は……ローズか。

 ローズとは、同じ生徒会庶務同士、話さないことはないが……友達と呼べる関係ものではない。


 庶務に選ばれた以上、そこそこの実力者ではあるのだろうが……初めて会ったのは、盗賊の塒の中だったしな。

 向こうは私と初めて会ったのは、それこそ生徒会入会後だしな。


「ぉおっとぉ!! 本日、最初の生徒会同士の戦いです! 互いに、一年生の精鋭(せいとかいしょむ)の二人!! 勝利はどちらの手に渡るのか!? これは目が離せません!!」

「よろしくね、レスク?」

「ああ、よろしくな。ローズ」


 王女は近くで見ていたから、手札は知れているが……ローズは、自主練をしているところすら見たことがない。

 クサラス洞窟での課外授業で少し見た程度だが……ボス部屋でさえも、手を抜いているようにさえ見えた。

 そのときは剣を使っていたが……そうとは限らないかもしれない。


 いや、そもそも、あの程度の盗賊に捕まるようなやつだ。

 大して実力は高くないと考えるのが妥当か?




 ローズを注意深く見る。

 大したマジックアイテムは持っていないようだ。


 辺境の、北端の村出身の少女だ。

 課外授業中も、盗賊の塒で捕まっていたときも、大したマジックアイテムは持っていなかったしな。


「両者、構えてください!!」


 私とローズは剣を抜き、構える。

 ローズの武器は……新品の剣?


 ローズは腰に二本の剣を差し、使い古されていない方……新品の方を抜いた。

 古い方の剣からは何も感じないが……秘匿されているのかもしれない。例えば、鞘がそれ用のマジックアイテムかもしれない。


「レスク。君を侮ることはできないから、切り札を切ってでも勝つ! 本気で君に勝って、勝ち進ませてもらうよ!」

「ああ。来い!」

「――開始!!」


 合図とともに、ローズの姿が霞む。

 そして次の瞬間、私の目の前に、剣を天高く振り上げたローズの姿があった。


「うああぁぁあああああ!!」


 咆哮と共に、剣が振り下ろされた。

 もちろん、初めから見えていた。私のオリジナル魔法〈閃撃せんげき〉の下位互換だろう。

 

 いや、わずかな魔法の気配とともに感じるこれは…………気か!

 独学か? それとも……レイのマイン家のような、家に伝えられるものか?


 どちらにしろ、これを扱えている時点で賞賛ものだ。


 


 ローズの鋭い斬り下ろしを、片手に持った剣で受け止める。

 ヨモイ先輩よりも力の込め方が上手い。それとも、シンプルに気の効果によるものか?


 ローズが後退し、剣を構え直した。

 そして、再度突撃してきた。


「それは独学か? それとも、受け継がれているものか?」

「それが何かはわかんないけど……独学よ! それがどうしたって言うの!?」

「……そうだな」


 ローズは決して鍔迫り合いには持ち込まず、一撃仕掛けては離脱、そして再度突撃……というのを繰り返していた。


「ローズ・アンゼリオ、速い! 速すぎる!! ……しかし、対するレスク・エヴァンテールも、彼女の猛攻を表情を一切変えずに受け流している!!」


 司会も、一応目で追えているのか。

 ま、司会も生徒だしな。実況が上手く、動体視力の優れた人材が選抜されているのだろう。


「はぁ……はぁ……。なぜ……ッ」

「なぜも何も……見切っているからだが?」

「んな! なん……」

「確かに速いが、ちょっと速いだけだ」


 ハウスのエヴァンス支部長、アレオ・ピァンスの〈妖精演舞フェアリー・ダンス〉よりも遅い。

 もちろん、私の〈閃撃〉よりもな。


「よく見ていろ、ローズ。いや、見えるかな? まあ、頑張ってくれ」


 私は、体に魔力と気を張り巡らせた。

 最近は気を巡らせることで、小回りがより調整できるようになった魔法。


 発動したのは……――オリジナル魔法〈閃撃〉――



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ