表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/132

第72話  先輩への敬意

「なるほど……。マジックアイテムか!」


 なるほど、そういう結論か。


 確かに、この世界の常識では学生が無傷で〈火球ファイアー・ボール〉……それも、精霊剣の〈火球ファイアー・ボール〉を耐えることは不可能なのだろう。


 そんな不可解な出来事が起こった場合……何かしらの外的要因を思い浮かべるだろう。


 ――“そうでなくては困る”からな。


 常識外の事をしでかす人間は、人間ではない。

 だが、私はどう見ても人間だ。


 つまりこいつは一応、私を人間と認定してくれているようだ。嬉しいことにな。

 

 そこで、マジックアイテムの可能性に辿り着いたというわけか。

 理屈は理解できる。……が、不正解。


「……その指輪がそうか?」


 確かにこれはマジックアイテムだ。

 効果は違う。

 つまり、ハズレだ。


 そもそも不正解だしな?


「残念、ハズレだ。これは……」


 私は指の先から糸を垂らした。


「――騙されるか!! ――〈火槍ファイアー・ランス〉!!」


 ヨモイは〈火槍ファイアー・ランス〉を三つ生成し、放った。


 ついでだ。

 私は十本の糸を操り、細長い盾を形作った。


 糸でできた盾が〈火槍ファイアー・ランス〉を受け止める。

 魔力でできた糸のため、燃えることはない。


 ……勝ったのは、私の糸の盾だ。

 まったくノーダメージ、というわけにはいかなかったがな。時間もなかったし、頑丈に作れなかった……というのもあるがな。

 そもそも、糸と火だ。

 

「どうした、精霊剣もそんなものか? 大した事ないな」

「キッ! いいだろう……お望み通り、焼き殺してやるよぉッ!!」


 殺すのはルール違反だ。


 ヨモイは精霊剣を水平に構え、刀身に手を添えた。


「――精霊剣、解放!」


 その瞬間、ヨモイの持つ精霊剣から凄まじい熱風が吹き荒れた。

 解放、だなんて言ってはいるが、結局は〈精霊召喚サモン・エレメンタル〉だな。

 私の〈防護膜プロテクション〉を突破することはできないから、全然熱くないがな。


 ヨモイの体が徐々に、炎の鎧に包まれる。


「この精霊剣は普通の精霊剣とは違う。本物の、炎の上位精霊が封印されているのさぁっ! そして僕はその精霊を呼び出し! 同調させることができるのさ……」


 ふむ……。

 中身を呼び出し……同調、ねぇ。


 ……完全に呼び出せていないようだ。力の一部を引き出し、自らに上乗せする程度か。

 それが精霊剣の技能か?

 精霊の顕現に制限を掛け、代わりにその力を自身に上乗せする。


「炎の上位精霊と同調した僕の前に、三年の生徒会メンバーと言えども無傷ではいられない! 覚悟しろ!!」


 今度、どこか……あの洞窟で試してみるか。

 アルティナと同調できるのかどうか。できたら、それこそ人外領域を飛び越えそうな気がするがな。

 

 よし、時間ができたらすぐにでもやってみるとしよう!

 今晩にでも!




 私が物思いに耽っている間に、ヨモイと精霊の同調が終わったようだ。


 しかし、あの身に纏う炎は精霊のものではない。

 精霊も、ヨモイに取り込まれてはいるが、完璧に同調できていないようだ。やはり一部を引き出す程度か。

 その結果が、あの不完全な炎の鎧か。


 炎の鎧には波長がある。つまり、あれは魔法だ。

 おそらく、余った精霊のエネルギーが魔法として出ているのだろう。


 本人は、それを“完全なる同調の証”として見ているようだがな。

 実際は、ただの半端だ。

 まあ、本人の容量の問題もあるし、完全な同調は思った以上に難しいのかもしれない。

 私も気を付けるとしよう。


「砕け散れ! ――〈精霊砲エレメンタル・カノン〉」


 向けられた剣先から炎の塊が放たれる。

 少しばかり、普通の炎と色合いが違う。鮮やかだ。


 だが、所詮は魔法。


 ――ドゴン!


 〈精霊砲エレメンタル・カノン〉が〈防護膜プロテクション〉に当たり、弾け散る。


 ふむ……。

 音、破壊力共に悪くない。

 煙も立たずに、炎も即座に消え去る。


「まだまだぁッ!」


 二発、三発……と、〈精霊砲エレメンタル・カノン〉が放たれる。

 一発だけでいいのだが……。


 ――パチンッ


 指を鳴らし、〈精霊砲エレメンタル・カノン〉の反魔法を放つ。

 所詮、波長は三つしかない中級魔法だ。

 核となっている波長は、精霊の影響なのか、消すのが難しそうだったが、術者の練度が低いおかげで簡単に消すことができた。

 不完全な同調でこれ、か……。完全に同調したとき、どうなるんだろうな……。


 ――パチンッ


「これで少しは頭が冷えたか?」


 今度は炎の鎧を消してやった。頭だけでなく、体も冷えるかな。

 あとは魔力が垂れ流しになるだけだ。

 精霊やヨモイの意志次第ではすぐに元通りになるが……無意識下での発動のようだしな。不可能だろう。


「なんなんだ…………なんなんだ、お前は!!」

「――レスク・エヴァンテール。それ以上でもそれ以下でもない」

「人間…………なのか……?」

「れっきとした人間だ。ただ、お前たちとは生まれ持ったものが違うだけのな」


 九十六の人生の記憶は……生まれ持ったものだ。

 魔法を波長として見ることができるのもな。


 今までの経験値を数割程度、継続しただけだ。


「……化け物……」


 ……完全に戦意喪失か。

 これ以上の戦闘続行は不可能……いや、まだ諦めていないようだ。ヨモイの瞳の中の炎が、先ほどよりも熱く再燃する。


「……ならッ! 化け物を倒し、僕が英雄になる!」

「失礼な。私は断じて化け物ではない! それと、もう結構。……負けてくれ」


 精霊剣に関する情報はかなり集まった。

 しかし、使い手がこれでは、これ以上の能力の解明には迫れないだろう。

 生徒会メンバーの誰かが精霊剣を持っていることを願おう。


「最後に、その信念に敬意を表し……楽に終わらせましょう(・・・・)


 この男は言動こそ評価しにくかったが、最後まで精霊に責任を転嫁せず、闘志も持ち続けた。

 それも、彼我の実力差を認識した上で。

 ……賞賛に値する。

 

 ――“目上の人には敬語を使いましょう”


 そして、敢えて技名を口にする。

 炎の精霊剣すら凍り付かせる、その魔法の波長は――六つ。

 これが今の状況でできる、彼に向ける最大の敬意だ。


「――〈エレ――」


 ヨモイ先輩・・が魔法を発動するより、私の魔法が先輩に届く方が速い。

 鈴を鳴らして〈精霊砲エレメンタル・カノン〉の反魔法を放ち、魔法を放つ。


「――〈凍結コールド・スリープ〉」


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ