第71話 学園武闘祭開催
迎えた学園武闘祭当日。
しかし、事前に聞いていたルールとまったく違うのはなぜだ?
私が事前に聞いていたのは……
・試合は学年ごと
・強制参加
だったはずだ。
それがどうなって……
・全学年合同
・自由参加
に変わったのだ?
もちろん、私にとって害はない……むしろ益だ。
だから私は何も言わないが……
――貴族連中が黙っていなかった。
会場で参加不参加を示せと言われたとき、一拍置いて貴族連中が立ち上がり、怒声を学園長に浴びせた。
曰く、「伝統はどうした」だそうだ。
まったく……どうしてどこの世界の貴族も命よりも“伝統”を重要視するのかね?
まあ、貴族が権力を握れるようにした伝統だからな。そんな伝統を守りたいのも、そんな伝統が出来上がるのも、当然の理というものか……。
猛反発する貴族たち。だが……
――学園長も黙っていない。
ひとしきり怒声――ヒートアップし、罵声となっていた――を聞いたのちに、上空に特大の〈灼炎〉を発生させた。
波長は四つだが、生徒たちにとっては強力な魔法だ。おまけに普通サイズよりも何周りも大きい。魔力を込め過ぎだ。
そして、言った。
――結果で以て、ルールを正せ……と。
正せ……か。
そう言ってやれば、立ち上がった貴族たちは黙る。
貴族のプライドを逆手に取ったな。伊達に長い時間生きていない。私よりは若いがな。
学園長が専用の席に移動する直前、一瞬だけ鋭い……戦士の視線を私の方に向けた。
学園長からの戦闘コマンド「戦え」だ。
最初から、負けるつもりは毛頭ないがな。……なぜ私なんだ。
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ふむ……。
なぜ初戦から私が三年生と向かい合っているのだ?
結果として、武闘祭には、全校生徒の約六割が参加した。
一年は少ないがな。……ファンたちは見事に全員出場だ。
私に力を示すと言っていたしな。心がけは評価するが……年上の生徒たちも出場している。十分に注意してもらいたい。
「光栄ある初戦は……三年、ヨモイ・アードレル!! 対するは一年、生徒会庶務、レスク・エヴァンテール!!」
闘技場のあちこちに設置されたスピーカーから司会の声が響く。
「一戦目から一年生期待の星、レスク・エヴァンテールの登場です!! 果たして彼の実力や如何に!?」
ヨモイの説明はなしか。
一般の三年生と言うわけか。……であれば、敵ではないだろう。
「ルールはシンプル! 敗北は場外への落下、または戦闘続行不可! 命を奪うような危険行為は厳禁です!! ……それでは、武器を構えてください!」
うむ、シンプルすぎる。
相手の命を奪うような行為は厳禁……気を付けないとな。やりすぎてはいけない。
ヨモイは腰に差した剣を抜いた。
豪華な、炎を模した装飾……かなりの一品だ。加えて、あの気配。
となるとアレは……
「これは炎の精霊剣だ。お前程度の……貴族の末席を汚すお前には縁のない代物だろうがな!」
……安い挑発だ。
アルティナを出してやろうか? アルティナは神剣だ。霊剣、精霊剣の系列の最上位互換。
しかし私も大人だ。
私は黙って、腰に差した〈武器創造〉で造り出した剣を抜いた。
「ふ~~ん。所詮、そんなやっすい剣しか持てないんだろう? かぁわいそうになぁ」
大した眼を持っていないようだな。
所詮はただの三年生か。
「なら、そのお高いだけの剣でかかってこい」
「きッ!!」
ヨモイの持つ剣が炎を吹き荒らし、周囲に熱波を放つ。
確か、エヴァンスのハウス支部長アレオ・ピァンスの持っていた剣も精霊剣だったな。風の。
ヨモイは熱を体に纏いながら走ってきて、近づき様に剣を振り下ろした。
しかし、温いな。
私は両手で振り下ろされた剣を片手で持った剣で受け止めた。
力の入れ方が成っていない。剣と体が分離してしまっている。
普段使わないような武器を持つと、たまにこうなってしまう者もいる。
「どうした、そんなものか? その精霊剣とやらは……ん?」
私の挑発に応えるように、ヨモイの剣の纏う熱量が増加した。
剣も、心なしか重くなった気がする。
これも精霊剣の能力か?
今度機会があれば、試してみるのもいいかもしれないな。
「――〈火球〉」
私の右前、左前、右後ろ、左後ろ――全方向に〈火球〉が生成される。
「終わりだ!!」
ヨモイがバックステップで下がり、入れ違いに無数の〈火球〉がやって来た。
――ボンッ!!
私が立っていた場所に、闘技場の屋根より高い火柱が上がった。
観客たちがどよめき立つ。
この規模の爆発だ。死……までは行かずとも、重傷だろう……と思っているんだろうな。
無理もないか。
土煙が晴れ……そこからどのような姿の私が現れるのか、と観客たちは身を乗り出す。
グロイものを見れるという期待を裏切ったようで、若干申し訳なさが……ないな、微塵も。
――残念ながら、私は無傷だ。
煙が晴れ、そこから出てくるのは無傷の私。
再度、観客たちがどよめき立つ。
爆発が起こった以上、問題なく〈火球〉は発動した。
つまり、無傷なのはおかしい。……そう、思っているのだろう。
いいな、思考が単純で。
読みやすくて助かる。
「んなッ!? なぜ……。なぜ無傷で……ッ! 精霊剣の一撃を……なぜっ!?」
「取り乱すな、貴族。答えは一つだろう? ……“私の前には意味を成さなかった”……ただそれだけの話だ」
精霊剣の性能について、もう少し見ておきたい。
もっと頑張ってもらおう。
確かに、若干威力は高くなっていたようだが……それでも私の〈防護膜〉は破壊できそうな気配はなかった。
これが、私が四発の精霊剣による〈火球〉を無傷で乗り切った種だ。
もっと遊べそうだ。いざとなれば、反魔法を当てればいい。
「なん……だとぉっ! そんなわけがッ……。……ふっ……そういうことか」
途端、怒り狂っていたヨモイの顔から驚愕の表情が消え、安堵に変わった。
一体、何を納得したというのだ?