表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/132

第69話  ヘッドハンディング

「レスク・エヴァンテール。君については、粗方把握できた。未だ謎は多いがな」


 その“謎”が明かされることはないと思うがな。


 私の見た目と実年齢がおおよそ十歳差と、まったく合わないからな。

 それに、出身地は山脈を挟んだ隣国――他国だ。


 |ティシザス帝国第二皇子わたしが捨てられたと知るのは極少数。

 私を捨てた者は何か(十中八九、魔獣だろうけど)に襲われて死んだっぽいしな……。

 あとは、私を捨てた張本人である第一皇子と、裏で糸を引いていた貴族ぐらいだろうな。

 しかし、やつらも私が死んだと思っているはずだ。

 ……そもそも、赤子が山に捨てられて、死なないはずがない。


「さて、では本題だ」


 ようやくか。

 まあ、ある程度は予想がつく。


 きっと、王女の、私のファンクラブ入会事件についてだろう。

 素性を調べ上げたのも、ファンクラブの信憑さを裏付けるためなのだろう。


「君には、私たちの娘マイスの護衛を頼みたい」


 ……なんて?


「マイスから、ネックレスの話は聞いた。……感謝する」


 国王と王妃は同時に頭を下げた。

 一国のトップが頭を下げた。……なるほど、二人の器の大きさが目に見える。


 ファンクラブ入会事件に関しては、お咎めなしか? まあ、ないに越したことはないのだがな。


「あのネックレスを少し見せてもらった。作った職人にも話を聞いた。魔法自体は君のものなのだろう?」

「ええ、そうですね」


 たしか……〈転移テレポーテーション〉に〈防護膜プロテクション〉、二段階式の〈自動人形創造クリエイト・ゴーレム〉だったか。

 着用者の任意でも発動するようにもしてある。


 純粋に、あの魔法具屋の店主の腕が良かっただけの話とも取れるがな。

 一応、パプリエル鉱石に二段階式〈自動人形創造クリエイト・ゴーレム〉を組み込み、ネックレス状に加工したのは私だ。


 ……だが、ネックレスの宝石部に〈転移テレポーテーション〉と〈防護膜プロテクション〉を組み込んだのは店主だ。

 魔法は私のだが、補助したのは店主だ。

 そして、それらを崩さずにネックレスに加工したのも店主。


「正直、国宝級の一品だ。……だからこそ、君に頼みたい」


 ネックレスだけじゃ物足りないと?

 

「……マイスは生まれ持った才能のせいで、人と関わるのが苦手なのです」


 ここでようやく王妃が口を開いた。


 口元を取り出した扇で隠している。

 この扇もマジックアイテムか。隠蔽されている辺り、何かしら特殊効果がありそうだ。

 

「――だがすでに、マイスは君に対して心を開きかけている。マイスにとって、君には特別な何かがあるのだろう……」

「距離を詰めてきたのはマイス王女からです。私は何も……」


 ……というより、むしろ関わらずにいたかった。

 同じ生徒会同士、関わらないわけにはいかないんだが……できるだけ面倒事には関わりたくなかった。


 ……というのが本音だ。


 関わって来たのは、どちらかと言えば王女の方だ。


「まあ、君がマイスと仲が良いのは事実だ。だからこそ、一人の友人として、マイスに何もないように……安全に過ごせるように、見守ってほしい」


 国王と王妃は再び頭を下げた。


「最年少でAAランクに至ったレスク・エヴァンテール……君しか頼めない」


 あ、そう言えば……なるほど、そういうことか。


「……私の噂があやふやだったのは…………まさか、陛下が情報操作を?」

「……ああ、その通りだ。最年少AAランクともなれば、抱え込みたいと思う貴族は多い。そして、私もすべての貴族を統率できているわけではない。恥ずかしい限りだがな」


 封建制だからな、この国は。

 逆に、すべての貴族を統率できていたら凄いと思う。そうなると政治体制が郡県制になりかねない。


「ライアルは少し離れた場所にあるが、王直轄領でな。情報統制はお手の物だ」


 ふっ……。

 なかなか良いことをしてくれるじゃないか。

 無法地帯でよかったな、あそこが。でないと、近場の貴族の手にあった。

 

「高ランクアドベンチャラーは大抵、貴族に抱えられるものだ。これはいわゆる、ヘッドハンティングだな」


 ガイオスがそうか。

 貴族ワーグナーの側近になっているしな。


「だから、君を王家で囲いたい。もちろん今は、陰ながら、という形になる。しかし、口実さえあれば君を正式に貴族として認め、私たちの剣となってほしいと思っている」


 なるほど、今は王家の懐刀としたいと……。

 王家なんだし、AAランクアドベンチャラーの二人や三人、抱え込んでいてもおかしくないと思うのだが……。

 多いに越したことはない、ということか? まあ、王家だしな。


「口実……ですか」

「そうだ。君はすでに“エヴァンテール”の姓を得ている。私が情報規制をしているおかげで功績は出回っていないが……君が学園に入学した時点で、すでに解除済みだ」

「功績はアドベンチャラーとして、ですか? それとも、一生徒……一般人として?」

「どちらでも構わない。レスク・エヴァンテールという人間が功績を立てることが重要だからな。ハウスにも、その名で登録しているだろう?」

「はい」

「……できるか?」

「はい、もちろん。……容易く」


 私は深々と頭を下げた。

 功績を立てるのは容易いだろう。この国には犯罪者がいる。治安維持でもやっていれば、それは功績だろう。


「では、私が十分な功績を立てたらそのときは……」

「うむ。任せておけ」


 王室と深く関わりたくないと思っていたのに、めちゃくちゃ深く関わってしまった……。

 しかし、悪い気はしていない。


 まあ、私を捨てたのも一国の王だったからな。


「もちろん、この話は君の親代わり……ワーグナー伯の同意の上だ」


 そうだろうな。


「そして、これからもマイスのことをよろしく頼むよ」

「あの子はとても強い子です。だからこそ、強大な力に振り回されず、普通の子供として過ごせるよう、導いてあげてください……」

「……命に代え、マイス王女殿下の命を護り、AAランクに到達した一人の者とし、力の本当の使い方を師事させて頂きます」

「うむ、期待している。……話は以上だ。時間を取らせてすまなかった。行ってよい」

「は! 失礼いたします」


 私は部屋を退室し、即座に〈転移テレポーテーション〉でグラウンドに戻った。


 まだ胃は痛くないが……将来が思いやられる。

 政治問題のど真ん中に放り込まれるんだろうなぁ……。

 仕方ない。皇位継承争いよりマシだと思おう。


 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ