第67話 結成! ファンクラブ(公式)!!
さて、と。
どう話を切り出すか……。
クサラス洞窟での課外授業を終えた翌日の放課後。
私は特別棟にあるファンクラブ(非公式)ルームに足を運んでいた。
私がその教室に訪れることは事前に通達済みだ。
だからこそ、私にも準備が必要だった。どう話を切り出し、展開するか……。
ガラガラガラ、と横開きの扉を開ける。
中では、ファンたちが大人しく机に座っていた。総数十五……おい、なぜシンシルスと王女がここにいる!
特にシンシルス! この女だらけの空間で浮いてるぞ!
――いやそれよりも!!
問題は王女がここにいることだ。
私をトップに据えて、この集団を公式会員制にしようかと思っていたのだが……(王女が本気にする前に)。
王女が一生徒のファンクラブに入会など、下手すれば極刑ものだ。
これは……何としても阻止しなければ! 自分で蒔いた種だし……。
まあ、まずは確認だ。
ファンクラブに入りに来たとは限らないからな。
「あ、あーー……なぜ、マイス王女はこちらに?」
「ファンクラブに入りに来た」
「…………なんで?」
「レスクの下に入れば、これ以上面倒事が増えなくて済む」
その分、私に面倒事が降りかかるのだが……などとは、口が裂けても言えなかった。
言ってしまったときこそ、最悪の面倒が降りかかる気がした。
私の理性が、そう言っていた。
ここは一応王都だ。
何かあったら、すぐに王様の配下が武器を持って飛んできそうだからな……。
「何もファンクラブじゃなくても……」
「他に方法があるの?」
「ないこともないが……」
ないこともない。
私と食事をしたりと、仲の良いところ……友達以上(恋人未満!!)の関係を作り出し、見せつければいい。
あとは、血も涙もない鉄血生徒会庶務としての一面を作り出し、見せびらかせば大抵の生徒は王女から手を引くだろう。
あとは、王家の人間であることを前面に出せば、格の違いというか、お家柄の違いから貴族連中は手を……いや、余計に悪化するやつも出てきそうだな。
「これが一番手っ取り早い」
御尤も。
「……一国の王女が一生徒のファンクラブに入るのは世間的にまずいというか……なあ?」
「……問題ない」
「…………いやぁ」
「――問題ない」
食い気味だ。
しかし、私としても容認し難い。万が一の可能性はなるべく失くしたい。
「すまないが、王女のファンクラブ入会は認められない。政治的問題はなるべく避けたい。……すまない」
「……そう」
よし、諦めてくれたか。
肩の荷が下りた気がする。
「――なら私の彼氏になって」
「「――はぁ!?」」
寝ていたシンシルス以外、素っ頓狂な声を上げた。
六千年以上生きてきた私だが……驚かないわけではない。
こんな交際の申し込まれ方は初めてだ。
理由はともかく、私に告白をしてきた者は多数。
しかし、ちゃんと手順を踏んだ上で告白をしてきた。メンヘラ毒女でさえ。
しかし……「なら」の接続語で始めるのは……。
たしかに、私と恋仲になれば…………いやいやいやいや!
「そっちのが大問題だと……まあいい。わかった」
「私の彼氏になってくれるってこと?」
「……いや、ファンクラブに入る方」
私のファンクラブに入るだけなら……恋仲になるよりマシ……。
まさか、“ドア・イン・ザ・フェイス”か? だとしたら、してやられたな。
「…………話を戻そう。おい、シンシルス。起きろ」
私は寝ているシンシルスの周りに魔力を集中させ、静電気を発生させた。
シンシルスの髪が逆立ち……ピリッと、電気が頬に走った。
「――ふぁッ!?」
「……そうだ、お前もなぜここに?」
「いや、なんやかんやあって連れて来られたんだけど……」
よかった。
王女同様にファンクラブに入りたいなんて言われたら…………何も問題ないな。
シンシルスは男爵家の嫡男だが、男だ。
男が男のファンクラブに入ったとしても、何の問題もない。めちゃくちゃ目立つだけだ、あいつが。
「そうか。なら……シンシルスを除く十六名。ファンクラブ結成だ」
「「――はい!!」」
王女は早速出遅れている。まあ、王女らしいっちゃあ王女らしいがな。
「お前たち――王女除く――に確認しておく。お前たちはこれから私の配下だ。良いな?」
「「――はいっ!!」」
「なんで私、省かれたの?」
「一国の王女を配下にできるか! しかも王都内で……」
こんなに焦るのは久しぶりだ。
前回焦ったのはいつだったか……。
こう、天寿を何度も全うしては、同じようなシチュエーションは何度も経験してしまうものだ。
焦るという感覚を忘れてしまっていた。
つまり、今のこの状況は未経験で対抗策がない……どちらにしろ立てようがない。
誰がこんな事態を推測できるか。できるやつがいたら、ここに連れて来てほしい。
「……わかった」
アナタ、一国の王女ってことを理解していらっしゃるのですか? と言ってやりたい。
一国の王を敵にしていい事は、何一つとしてない。
それに、私には行く当てがない。
生まれ故郷であるティシザス帝国には行きたくないしな。政治的問題に巻き込まれたくないし。
皇家の血を引くとバレたら面倒だ。まあ、年齢と見た目のギャップで、遠縁扱いになる可能性も、なくはないが……。多分、ないだろうなぁ……。
ちなみに、仮に行くとしたら……東南だな。
「それでは、記念にこれを贈ろう」
課外授業の前日に、都内の魔法具屋に特注しておいた品だ。
私はブレスレットからネックレスを十五個取り出し、それぞれのファンへ配った。
「それには私の魔法が込められている。それを身に着けていれば、大抵の災いは去るだろう」
「「…………ッ!!」」
あ、倒れた。まあいい、やることは終わったし。
「さて、シンシルス、王女」
「……いい加減、マイスでいい」
スルーした。
リスガイ王国国王、王妃の性格がまったく掴めない以上、下手な手出しは厳禁。
「んん! お前たちにも贈ろう」
私はネックレスを二つ取り出した。
王女に渡したものに込められた魔法は、ファンたちに渡したのとは別だ。
シンシルスのはファンたちと同じやつ――予備――だ。
ファンたちとシンシルスに渡したネックレスには、簡易的な〈防護膜〉が込められている。
敵の攻撃を一撃受ければ破壊されるが、破壊されると同時に〈転移〉が発動する。
王女に渡したネックレスは、パプリエル鉱石が複数個連なってできている。
防衛機能として〈防護膜〉がある。
普段は――面倒事を避けるため――発動しないようにしてあるが、攻撃を受ける際。それと、本人の意志で発動する仕組みだ。
〈転移〉も同様に。
そして最終防衛装置として、パプリエル鉱石が役立つ。
いざとなればそれらが核となり、〈自動人形生成〉が発動する。
ゴーレムがすべて破壊された場合、すべての核が合体し、更に強力なゴーレムが生成される。
最初にゴーレムが生成された時点で私に情報が来るシステムも搭載済みだ。
「さて、こいつらが起きたら今日は解散しよう」
私たちはファンたちが起きるのを待った。
夢を見ているようだったのでな。起こすのも悪いかと思ったのだ。