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第66話  私と私と私

「お前は……ッ」

「――〈超重力ハイ・グラヴィティ〉」


 ――ズドンッ!!


 襲撃者たちは見えない力に圧され、地面にへばりついた。


「なぜ……なぜ貴様が……しかも、二人!? どうなってやがる!!」

「「お前がトップか。……見覚えがあるな。たしか、山賊……」」


 ローズを捕らえていた盗賊の頭だ。

 脱走したのか? ……いや、瞳の色が微妙に違う……。別人か。


「…………ッ!! まさか……兄貴を牢獄送りにしたのも貴様か!!」


 兄貴……? 兄弟かよ。

 兄弟で犯罪者って……親が泣くぞ。

 まさか、一家で犯罪者集団だったりしないよな?

 ……私が代わりに泣こうか?


「頭! お兄さんを捕らえたのはAAランクアドベンチャラーのはずです!」

「おおそうか! 気が立っていたぜ」


 この重力の中でよく喋るな。


「――しかし! こいつは今ここで倒す! 霊剣よ! 力を我らに!!」


 頭が懐から短剣を取り出し、それを地面に突き刺した。

 

 ――バリンッ!!


 途端、〈超重力ハイ・グラヴィティ〉の魔法が砕かれた。


 ふむ……。魔法を砕いたか。

 ……私のように、逆向きの波長を当てるのではなく、波長そのものを破壊するマジックアイテムか。

 きっと、かなりレアもののはずだ。

 こんな木端犯罪者が持っていていいものではないと思うのだが……。


 おまけに、同じものを装備している者が他に数名。

 全員でないことを喜ぶべきか……。このようなものを持っていることに裏を感じるべきか……。

 

 あとで失敬したいし、まずは霊剣の特徴を隅々まで調べねばな。

 学園にやって来た連中が持っていたのは精霊剣と、既知のものだった。だが、私は霊剣を知らない。

 ――欲しい!!


 たちは〈火球ファイアー・ボール〉を同時に放つ。


「――はあっ!」


 〈火球ファイアー・ボール〉の先にいた二人が短剣を振るう。

 結果、〈火球ファイアー・ボール〉はそれぞれ真っ二つに斬られ、四つになり着弾……爆発した。

 

 魔法を斬ったか。

 波長そのものを切ったわけではない……魔法を物理的実体として捉える剣か?

 見えない重力は、実体として捉えられない。……だから先ほどのような結果――魔法そのものを破壊することになった……と見ていいか?


 なら、眼に見える状態異常系魔法を放ってみるか。尚且つ広範囲にしてみよう。


 私は腰の鈴を鳴らし、〈超重力ハイ・グラヴィティ〉同様、五つの波長をもつ〈大雪原スノー・フィールド〉を発動させた。

 もう一人は黙って見ている。二重に掛けたら一瞬で凍傷……そして凍死だ。


 私を起点として扇状に大吹雪が発生し、その先にある空間を、即座に白銀で覆い尽くす。


 霊剣を持ったやつらに対しては、僅かに効果が薄いようだ……。

 所持者に魔法耐性を付与する効果もあるのか……。対魔法のマジックアイテムというわけか。


「霊剣よ! 我に力を!!」


 一人の男が叫ぶと、〈大雪原スノー・フィールド〉が消え去る。

 ……その男の持っていた霊剣が姿を変え、普通の短剣に戻った。


 まさか……ッ!


 先ほど〈超重力ハイ・グラヴィティ〉を解除した男の持っていた短剣を見る。

 霊剣のまま……いや違う。腰には、たった今〈大雪原スノー・フィールド〉を解除した男が持っているものと同じ短剣が差さっている。


 チッ! 一度きりの使い切りか。

 しかし、そう文句も言っていられまい。なければ造ればいい。

 二つ三つ失敬すればいいだろう。


 ……もしや、一度切りという条件を引き換えに、ここまで高性能な代物になっているのか?


「「もういい」」


 もう片方の私が〈蛇の眼(スネーク・アイ)〉を発動させて敵を全員拘束する。

 こいつらからすれば、〈超重力ハイ・グラヴィティ〉と〈大雪原スノー・フィールド〉は未知で強力な魔法だ。

 完全に、顔に「?」を浮かべていたことから、それは明白。


 破られたとは言え、今となっては一度きりの切り札だったのだろう。

 未知だったから、切り札を使ってまで破ったのか。……失敗だったか?


 私は本体から預かった指輪の力を発動し、糸で全員を拘束する。

 粘着質で伸縮性に優れた糸にしておいたから、脱出されることはないだろう。

 魔法でもない。




 さてさて、霊剣とやらを頂だ…………霊剣が、ない?

 それに、こいつらも全員気を失って……いや、これは……死んでいるのか。


 いつの間に……いや、魔法が発動した気配はなかった。

 私が魔法の波長を、こんな近距離で……しかも、私×2の状態で見逃したとは思えない。

 どんな小さな波長でも、だ。


 何が……何か手がかりはないか?





 全員の身包みを剥いだが、手がかりらしい手がかりは何も見つからなかった。


 強いて言うなら、霊剣に何か仕掛けられていたのだろうと思われる。

 霊剣はすべて普通の短剣に戻っていたし、何より、微弱な波長の欠片を感じた。

 

「「そろそろ時間か」」


 たちは襲撃者たちの遺体と共に――もちろん、外からはわからないように隠した――ハウスまで転移した。

 ハウスに投げやるつもりだ。





 襲撃者たちは……なるほど、死んだか。


 私たちは最下層のボスを倒し、公式ファンクラブとなったファンたちとローズ、王女と地上まで転移した。

 戦利品がないのは痛いな。魔法を破壊する霊剣を手に入れられると踏んでいたから余計にな。


「一番はお前たちか。生徒会チーム、レスクファン……あとは生き残り(シンシルス)か」


 脱落した連中はレイが回収してある。

 襲撃されることは予め知っていたから、洞窟内の安全な部屋で保護されているはずだ。


 ――いや、チーム名『レスクファン』ってなんだよ!

 まあ、想像通りだったが……ここはツッコムべきところだろう?

 やれやれ……。まあいい。


「えーー……っと……十点、と。帰るまで好きに休んでいるといい。レスク、脱落者たちを回収するのを手伝ってくれ」

「あい、了解」


 ……私は本当に生徒なのだろうか?

 まさか、教授として登録されていないよな?




 霊剣だった短剣を一本失敬したが、隅々まで調べても、何も仕掛けはないただの短剣だ。


 判明している霊剣の能力としては……。

 普段は魔法を実体として捉える。不可視の魔法には効果はないと思われる。視認できないと意味がないのだろう。

 切り札として――霊剣の能力は失われるが――魔法そのものを破壊する。


 これが増産できたら、ファンたちの意欲向上につなげられるし、彼女らの身の安全も守れる。

 だが、今はそれが叶わない。別のもので代用しよう。




 こうして何の成果(せんりひん)もないまま、私はクサラス洞窟を後にした。

 分身体ドッペルゲンガーたちは先に王都前に帰らせている。あとで回収すれば万事問題ない。




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