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第65話  ショートカット

「これが……“階段”?」

「…………そうだ」

「降りる方法はあるの?」

「もちろんだ。魔法を掛けるぞ」


 ローズの非難を軽く受け流し、王女の当然の質問に肯定で答える。


 私は早速、自分に〈空中歩行エア・ウォーク〉を掛け、二人に〈浮遊フロート〉の魔法を掛け、私の周りに浮かべる。


「なんかこれって……」

「…………荷物みたい」

「よーーし、行くぞ」


 二人の文句を無視し、私は穴に飛び込んだ。


「ちょっ……――」

「待っ――」





 まさか、私が飛び込むとは思わなかったのだろう。

 二人は落ちている間、ずっと悲鳴を上げていた。


 穴は予想よりも深かったし、落下時間も長かった。


 さすがにうるさかったので、〈沈黙サイレント〉で音を遮断した。

 あれを聞き続けていたら……鼓膜が破れて耳小骨が砕けてうずまき管に罅が入って……コルチ器が砕け散っていただろうな。

 そうなったらなったで〈回復ヒール〉で治していたが。


「ひどい目にあった……」


 王女が傍らで、両手を地面に着いて青ざめた顔をしている。


「少し休むか?」

「いや、必要ない」


 先ほどの青ざめた顔はなんだったのか。

 王女はすっくと立ち上がった。顔の色は元通りだ。


「レスク、ここは何階なの?」


 ローズが尋ねてくるが……私にもわからん。


「わからん。進んでみるしかないだろう」

「そうね。とりあえず一本道だし」


 王女の言う通り、しばらく一本道だし、罠や他の隠し通路も見当たらない。





 穴の底が何階だったのか、わかった。


 通路の先にあった壁を破壊し、その先には、また別の通路があった。

 その通路に出てすぐ右を見ると、そこには大きな部屋があった。その部屋の前には『ゴール』と書かれた看板が立てられていた。


「――レスク様!?」


 声がした方を振り返る。やはりファンクラブだった。

 人の気配とファンクラブ(非公式)の数が同じだったため、もしや、と思ったが……やはりそうだったか。


 何人か怪我をしているが、脱落者はゼロ。

 罠はあったのだろうか。もしかして、意外と時間がなくて、仕掛ける暇がなかったのかもな。


「ふむ……。合格だ……と言いたいが、ゴールせねばな。ここはまだゴールではない」

「「――はい!!」」

「……手慣れてるね、レスク」


 耳元で王女が感心したような声を出す。

 

 王女はファンクラブは(今のところ)ないが、王女を慕う男は多い。

 王女が物静かな性格であることも災いし、告白という行動に移す生徒も多い。


「素直なやつらで助かってるよ。お前も入るか? なんてな」


 冗談交じりで……九割九分、冗談だった。


「考えておく」


 しかし、その言葉を発する王女の顔は……真剣そのものだった。

 最後の部分を聞いていなかったのか?


 王女が私のファンになったとなれば……極刑かな。

 

 一応、生まれは隣国ティシザス帝国第二皇子だが……今はエヴァンテールというはみ出し貴族だ。

 いや、はみ出し貴族と言うより、貴族(仮)のがいいかもしれないな。


 なんとしても、王女が血迷って私のファンクラブに入ることだけは阻止せねば!

 そのためには……一刻も早くファンクラブを公式にせねばな。


「ここが最下層ゴール?」

「そうらしいな。しかし、中に強力な気配……ゴーレムか?」


 中から濃密な気配……人ではない。

 そしてこれは試験だ。……教授たちの用意したボスゴーレムだろう。

 こいつらでは一筋縄ではいかない。


「入ろう」

「うん」

「お前たちも来い」

「「――はい!!」」

 

 私たちは部屋に入った。

 かなり広いな。戦闘スペースとしては十分。


 ところで……


「……シンシルス……何しれっとファンクラブと一緒にいるんだ?」

「…………レスク様のご友人を放っておけなかったので……」


 ああ、なるほど。 

 こいつ、ぼっちだったんだな。


 友達は…………いないことはなかったはずだ。

 

「仲間は罠に嵌って、僕以外全滅したよ……」


 そういうことか。

 シンシルスが罠に掛からなかったのは偶然か。


 そして一人で彷徨う中ファンクラブチームに遭遇し、迎え入れられた、と。

 私がシンシルスと一緒にいるところは、多くの人が見ている。当然、ファンクラブが見ていないはずがない。


 罠か……。

 学園側の罠か、襲撃者たちの罠か。どっちだろうか。





 ディヴィアルと戦った部屋よりは狭いが……この人数で戦うには十分な広さだ。

 人数が多いからどうなることかと思ったが……全然、余裕だな。


 部屋の真ん中には、全長五メートルはあろうかという人型の銅像が鎮座していた。

 表面には何の汚れもない……やはり、教授のお手製か。


 核は……ライアル鉱石ではないな。当たり前か。

 まあ所詮、学園の一年生が相手にする程度の相手だ。そんな強いはずがない。


 ……私が出る幕ではない。


 途端、ゴーレムが動き出した。

 その眼に赤い光が宿り、身に纏う魔力も濃くなった。一マイクロメートルと二マイクロメートルの違いでしかないがな。


 私がいなくとも、こいつらだけで戦えるだろう。


「よし、やってやれ!」

「「――はい!!」」


 そろそろ、表も頃合いか。



 


 クサラス洞窟入り口に、多数の不穏な影が集まっていた。


「今頃、やつは最下層にいるはずだ。……行くぞ」

かしら……今から行って追いつきますかね?」

「安心しろ、この洞窟には誰も知られていないショートカットが存在する。そこを通れば……地上一階から最下層まで一発だ!」

「頭……本当に罠を張らなくてよかったんですかい?」

「普通なら仕掛けるところだろうが、敢えて仕掛けないことによって、やつらの集中は勝手に集中力を消費してくれるだろうよ。クックック……」


 不穏な影たちは洞窟へ突入しようと一歩を――


「「――待て」」

「な!? ――お前は!!」


 そんな影たちの前に、突如、二つの影が降り立った。




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