第64話 初級ダンジョン:クサラス洞窟
チームでの初心者用ダンジョン攻略か。
まあ、ボッチを心配する必要はない。が…………
「「レスク様! 是非お供させてください!!」」
やはりファンクラブ(まだ非公式)たちがやってきた。
しかし、共に攻略するつもりはない。
こうなることを予想し、体のいい都合を考えてある。
「落ち着け。お前たちを公式ファンクラブにする試練を、今から課す」
全員じゃないから少しばかりこれでいいのか、と思わなくもないが、口実は何でもいい。
ちなみに私の喋り方だが、支配者然とした喋り方の方が受けがいいようだった。
これからもこれでいこうと思う。
「私は別で、時間を置いて攻略を開始する。私が到着後十分以内に、誰か一人でも到着できたら……公式ファンクラブとして認めよう」
「……できなかったら…………?」
「非公認のままだ」
ごくり、と唾を飲む音が多数聞こえた。
非公式だ公式だと言うが……違いはまったくない。私が勝手に言っているだけで。
まあ、扱いやすくなるからいいか。としか考えていない。
「レスク様は誰と……?」
「生徒会メンバーと回る予定だ」
王女とローズ。
両手に華とはこのことをいうのだろう。傍から見ればそうだろう、きっと。
それどころではない状況だけどな。
ふむ……。まだ遠く離れたところにいるが、殺気が感じられる。
〈遠視〉で両陣営とも確認したが、すでに武器は抜かれている。
――ここで迎え撃つ
おそらく、洞窟内にはやつらが仕掛けた罠がある。まだ離れた場所で待機しているのがその根拠だ。
本体は生徒会メンバーとともに攻略。
分身体二体で、それぞれを殲滅。
「励めよ」
「「はい! レスク様!!」」
うん、ここまで単純な人(多数)は久しぶりだ。
純粋なのはいいことだ。うん。
▼
「「レスク」」
ローズと王女が私を呼ぶ。
「準備はできた?」
「ああ、大丈夫だ。問題ない」
他の生徒たちが突入してから十分が経過した。
私たち生徒会チームはハンデのため、十分遅れでのスタートだ。
まあ、本来はそんな制度はない。私の我が儘だ。
「さあ、行くか」
私たちは剣を抜き、洞窟に足を踏み入れた。
〈闇視〉の効果で、昼間の草原の如く見渡すことができる。
ローズは〈闇視〉の付与された仮面を身に着けている。
仮面は顔の上半分を覆うだけのものだ。華美でなく、それでいて上品さを兼ね備えている。
さすがは王族……かなり高価な一品だ。見た感じ、だがな。
ローズは私同様、〈闇視〉の魔法を習得しているようだ。
かなり優秀なんだな。第一印象が悪かっただけか。
▼
私が本気となれば、ゴールまで一発なんだが……それでは面白くないし、ファンたちとの賭けが成り立たない。
迷宮を攻略できる魔法を習得できれば早かったのだがな。
使用用途が限定される上に、効果は絶大な魔法だ。こういう魔法は、決まって習得が難しい。
まあ、〈地面探知〉やこの鈴があれば、大抵の罠は破れる。
最短ルートの攻略はできないがな。
まあでも、これもまた迷宮攻略の楽しみだ。
「レスク、分かれ道……」
一歩先を歩いていた王女が分かれ道を前に、声を掛けてきた。
どちらかが正解か……。
目の前には壁があり、横から二本の道が伸びている。……間が気になるな。
私は周囲に展開していた〈地面探知〉を、二本の通路の間の壁に集中させた。
……〈地面探知〉を徐々に奥へ奥へ……と伸ばす。
――!!
やはり……予感的中だ!
しかしかなり厚いな……。だが、破れないこともない。
私は剣を抜き、肩の高さで水平に、剣先を壁に向けて腰を深く落とした。
剣に魔力を注ぎ、中に気を込める。
照準を合わせるため、左手を広げて、親指と人差し指の間を剣に沿うように置く。
アルティナでなくても、この程度の岩盤……貫けぬ私ではない。
「二人とも、少し避けていろ……。――〈点〉」
深く引き絞った剣を……解放する。
壁に小さな穴が開いた。
壁を破りたかったわけではない。言い訳でもなんでもなく。
小さくとも、一本の道があれば……〈土操作〉がより効率的になる。
そのために開けた穴だ。
壁に手を当て、ぺちぺちと叩いて〈土操作〉を発動させる。
中に開いた穴へ魔力を通し、内部に〈土操作〉を巡らせる。
そして……
――壁が流動し、徐々に大穴を作り出す。
二つの通路を仕切る壁に開いた大穴の向こうに、新たな通路が広がっているのが見えた。
「これは……」
「よく気づいたね、レスク」
「さあ、行ってみようか」
念の為言っておく。
私はこの通路の先に何があるのかは知らない。見つけたから道を開いただけだ。
▼
私たちは、現れた道の先を進み続けていた。
まったく人の気配がしないことから、まだ裏ルートの道中だと思うのだが、定かではない。
念の為、あの壁はまた塞いでおいた。
あくまで入り口と出口を塞いだだけの応急措置で、少し強めに殴れば崩れる。
「何もいないね」
と言いつつ、襲ってきたブラックバッドを真っ二つに切り裂いたローズだ。
……だが確かに、言い得て妙かもしれない。
軽く剣を振るえば襲ってくる魔獣は切り裂かれ、軽く魔法を放てば襲ってくる魔獣は消滅する。
それにしても、ここはブラックバッドしかいないのか?
あの遺跡にいたシャドウハウンドの亜種でも出てこないかな。
「ふむ……。少し先に、地下へ続く階段があるな」
その階段に意識を集中させて詳しい構造を見てみたが……。
階段……と言えるものではなかった。
……縦穴だ。
まあ、私自身は〈空中歩行〉で降り、ローズと王女は〈浮遊〉で下ろせばいいか。