第63話 課外授業withファンクラブ
遂にやってきた課外授業。
ちなみに今回は、分身体ではなく、本体である私が出席している。
戦力は多いにこしたことはないからな。……何より、面白そうだし。
生徒会の証として、制服が黒色である私は、この白服の集団の中ではよく目立つ。
少し宙に浮くだけで、即座に配下たちが集合してくる。
課外授業は学年ごとに目的地が違うから、全員はここにいない。
「よく来てくれた」
「「とんでもございません!!」」
「装備は……うむ、ちゃんと整えているようだな。私が殿を。生徒会であるマイス王女とロイズが先頭を歩く。横は、お前たちに警戒していてもらいたい。アドベンチャラーたちもいる場所だ。気楽にな?」
AAランクアドベンチャラー、レスク・エヴァンテールは参加していない。……名前が同じだからな。
それに、王都のハウスにはまだ行っていない。誘われすらしないだろう。
ライアル鉱石は剣の核に使用していない分が残っている。
普段は分身体の核に取られているから、ここまで残っているのは久しぶりだ。
装備としては、赤い宝石のブレスレットと、糸を出せるようになる指輪を着用している。
防御関連能力、魔法の耐久性を上昇させる漆黒のローブ、魔術書はブレスレットの中だ。
魔術書に関しては、魔法の威力こそ消費魔力以上という最高に効率的だが……基本は初級、中級の魔法で十分なんだよな。
本を奪われるリスクを考慮すると……なかなか出せない。
「まあ、警戒は絶やさずにな。何かあればアドベンチャラー……最悪の場合、私が駆けつける。……わかったな?」
「「――はい!!」」
駆けつけると言ったが、正確には走るんじゃなくて転移するんだけどな。
それに何かあれば、アドベンチャラーが信号弾を上げることになっている。
前、両横、後ろ。四方向から警戒され、なおかつ、全員が戦闘の心得を少なからず持っている集団。
襲う連中はそう多くない。
襲ってくるとすれば、綿密に計画を立て、それを実行できる腕利き集団のみ。
ま、犯行予告が届いているわけだが。
「――出発だ!」
引率の教授として、レイも付いていることだ。
マイス王女と同じく、前方で警戒している。王女の身の安全は保障されるだろう。
レイにも、王女から目を離すなと伝えてある。王女だからな。
「では早速、持ち場に着け! 誰も死ぬな!! 命を第一に考えろ!!」
「「――かしこまりました! レスク様!!」」
伊達に指導者を何度も経験していない。
リーダーシップなどお手の物だ。まあ、断定形と命令形で話せば誰でも――ある程度の信頼と実績がある者に限る――できることだ。
▼
――チリン……
涼しい鈴の音が鳴り、シャドウハウンドが跡形もなく吹き飛ぶ。
やれやれ……これで何体目だ。
魔法で使役されている気配はなかった。しかし……飼いならされていたか、誘導されたか。
ここまでシャドウハウンドばかり登場してくれば、どんな馬鹿でも疑問を抱く。
王女とレイの方――前方には、未だ襲撃なしか。
私のいる後方、私のファンやアドベンチャラーのいる横側は襲撃が絶えない。
シャドウハウンドは隠密に長けた魔獣で、かなり近づくか、遮蔽物のないところに出てくるまで気づけない。
今回雇われたアドベンチャラーたちですら、な。
あいつらは常に抜身の武器を纏っているから、反射で迎撃に成功している。今のところ問題はなさそうだ。
しかし、さっさと直接手を下しにくればいいものを……。
敵の目的は、襲撃犯を撃退した学園……中でも生徒会であることぐらい、察しがついているだろう。
しかしこのやり方は……弱小組織のやることだ。
襲撃者たちの実力が見えるというものだ。
だが、余りにも見えすぎている。
……一周回って、実はかなり大きい組織なんじゃ……?
まあいい。とりあえずは目の前に集中しよう。
そう言えば、課外授業とは聞いているが……行き先はどこなんだ?
教授やアドベンチャラーたちは知っているのだろうが……。
――!!
見つけたぞ、人の反応。
進行方向より三時の方向、ここからおおよそ三百メートルの森の中に、数はおおよそ二十。
九時の方向にも同様の反応。
挟み撃ちか。しかし、二年と三年の状況はわからない。
ま、向こうのが生徒一人一人の質が高いし、同じ程度の数、力量なら問題ないだろう。
二手か……。うん、そうだな。〈分身体〉は最大二体まで生成可能だ。ちょうどいい。
私は誰にも気づかれないよう、ライアル鉱石の塊を二つ、背後に落とした。
時間差で〈分身体〉が発動するようにしておいた。
あとは……ふむ、ちょうどいい。
近くの木に止まっていた二匹の鳥――番だろうか――を〈魅了〉で使役する。
鳥たちに一つずつ、核となるライアル鉱石を拾わせ、上空で待機させておく。
さて、我がファンたちよ……どう動くか。
他学年のファンたちには、生徒会メンバーの指示に従うように指示してある。
彼女らがどう動くかは、生徒会メンバーの采配次第だ。
…………ん?
上空に微かに魔法の気配…………使役された鳥か。
猛禽類……眼がいい。監視されているのか。
ちょうどいい。さっさと排除してしまおう。
反魔法を当て、使役を解除させる。
鳥はどこかへ飛んで行った。
……ようやく動き出したか。
▼
……ようやく目的地に到着か。
学園を出発してから徒歩で二時間か。魔獣が出ても、休憩以外の要因では止まることはなかった。早く着いた方じゃないのか?
出るのが早い時間だったが。
ふむ……洞窟か?
何か書いてあるな。
レイが解説を始める。
レイって……新任教師だよな? 実力主義……単にレイが優秀だったのか?
「ここが今回の目的地、『クサラス洞窟』だ。発見からおおよそ二百年が経過したが、強い魔獣や罠は発見されなかった」
いわゆる、“初心者用ダンジョン”だな。
たまに隠し通路が出現し、最難関ダンジョンに変貌するものもあるが……私は見たことがない。
耳にしたことは幾度かあるが……どれも過去に起きたものを耳にした程度だ。
「内部はかなり広く、地下は四層まで確認されている。これより自由にチームを組み、ここの他に確認されている、計六つの入り口から同時に入り、タイムを競う! では、これより十分時間を取る! 最低三人、最大十人でチームを組め!」
レイ……今年からの新任だよな? 引率姿が板についている。
さすがは元聖騎士、元生徒……。優秀だな。