第62話 ファン交流
あの後、マガルコフ風紀委員長のファンクラブに連れて行ってもらった。
礼儀正しい一団だった。それに加えて、非常に統率の取れた一団。……まるで軍隊だった。
で、私も同じ……までとは行かずとも、似たようなことができるかもしれない。
そう思った私は放課後、私の(非公認)ファンクラブが活動を行っている教室へ向かった。
この学園には特別棟があり、そこには大量の空き教室がある。
学園に許可を貰えば、自由に使える教室だ。大抵のファンクラブはそこにある。私のも例外なく。
私は教室の扉をノックし、開けた。
「失礼」
「「…………っ!!」」
私が扉を開けた瞬間、教室内にいた女生徒たちが私の方を向き、息を飲んだ。
数拍置き…………
――バタンッ!
一斉に倒れた。
幸い、お菓子やジュースを広げての談笑中だったため、ジュースがこぼれたりお菓子に顔を突っ込んだりした程度で済んだ。
まあ、非公式だしな。何もグッズはない。…………はずだった。
部屋には私を模した人形やイラストポスターが散乱していた。
描きかけ、作りかけの作品も多い。なかなか上手いな。
まあ、写真がないだけマシだと思おう。
マガルコフ風紀委員長の部屋には写真集があったからな。
……この世界のカメラは、そこそこ高価で希少なはずなんだけどな。
やれやれ、全員を床に転がしたが……どうしたものか。
冷水でも……ダメか。素直に頬を叩けば起きるか?
ぺちぺちと手ごろな頬を軽く叩く。
「ん……――はっ!」
起きたか。
魔法によって眠らされたのならともかく、勝手に気絶したんじゃあな……すぐに目を覚ますのも当然か。
これで目を覚まさなかったら……諦めて、日を改めていたな。
「起きたか」
「レッ……れれれれっれ……レスク様ぁッ!?」
「んん……?」
「なにぃ? どうしたの?」
起きた女生徒の叫び声で、他の生徒たちも起き上がる。
「「レッ……れれれれっれ……レスク様ぁッ!?」」
起き上がった生徒たちは私の顔を見るなり後ずさりし、壁に激突した。
全員、見た目こそ違うが……〈分身体〉か? 息がピッタリ過ぎる。
まずはいつも通り、気さくに。
「やあ、お邪魔させてもらってるよ」
「お、お邪魔だなんて……そそ、そんな!!」
「……本日はどういったご用件で?」
ほう。一人だけ冷静なやつが……壁の本棚の角に頭をぶつけたのか。
……血が出ているな。深くやったな。やれやれ……。
「――〈回復〉」
私はまず、彼女の傷を治した。
結果的に話が早くなったのはいいことだが……ドジだなぁ。
だが、痛みを感じている素振りはなかった。そこは評価すべき点だな。
「それでレレレレスク様、どういったご用件で?」
レが三つ多い。動揺しすぎだろ。
「ああ、君たちは私のファンクラブなのだろう? そこで……お前たちにしかできない頼みがあってな」
「「はい! なんなりとお申し付けください!!」」
うむ、息が合っていてよいことだ。
先ほどの、事故で冷静さを取り戻した女生徒も、完全にみんなの輪に入ってしまっている。
こいつを頭に据えれば楽に管理できると思ったのだが……。
「近々、課外授業があるのは知っているな?」
「「寡聞にして存じ上げません!!」」
「「はい!!」」
知らないことは、堂々と言い切ることではない。
まあ、さすがに上級生――二年や三年たちは知っていた。
知らないやつらにもわかるよう、説明しておくとしよう。
「…………近々、課外授業があって、そこで護衛の任を預かってな。そこで、私のファンクラブを語るお前たちに協力を求めたい。それが、今日私がここに来た理由だ」
「「いえ、レスク様がそうお命じなされば、私たちは喜んで従います!!」」
やはり分身体じゃないのか、こいつら?
「そうか。……感謝する。さて、では全員……課外授業の際、私の配下に入るということでいいんだな――」
「「――はい!」」
話が早い。返事も速い。
「では、当日にまた指示を出す。……何か質問はあるか? あるなら今の内だぞ」
「あの……」
「どうした」
「はい。先ほど、『ファンクラブを語る』とおっしゃっていましたが……この一件を見事片付けた暁には、ファンクラブとして認めて頂けますか?」
ふっ……。
冷静さを若干失っていて、気付かれないと思っていたが、気付いていたようでよかった。
「――もちろんだ!」
そこに持っていくために発した言葉だからな。
「「――キャーーーーーーーーー!!!」」
そんなにはしゃぐことか?
マガルコフ風紀委員長のファンクラブは……風紀委員長公認だし、生徒会長も公認している。
二人は自身のファンクラブを公認する代わりに、配下としていいように使っているのだが……まあいいだろう。
WinーWinの関係を築いているようだしな。
私も同じような関係を築けるようにせねばな。
まずは、ファンたちと心を通わせねばな。……まずは名前からか。
この場にいるのは(私を除いて)十五名。
覚えられるか。家名まで覚える必要はないか。
「ではまず……名前を教えてくれ」
私は一人一人を指差し、名前を名乗らせた。
「フロリゲンです」
「オーキシンです」
「ブラシノ……」
「ステロイド……」
「エチレンです」
「アブシシン……」
「ジベレリンです」
「ジャスモンです」
「サリチルです」
「サイト……」
「カイニン……」
「クリプトです」
「フォトトロ……」
「フィト……です」
「インドールです」
以上十五名、配下を獲得した。
……覚えた……はずだ。きっと……いや、絶対覚えた。
これだけ大量の……そして、忘れてはいけない名前を覚えるのは初めての試みだからな。
十五人の配下を獲得。貴重な戦力だ。
本体も、王都を大方探索し尽くした。アドベンチャラーとしての活動は、まだ時期尚早だろう。
ここにいる私以外の一年生は十人にも満たないが、問題ない。
いざとなれば〈分身体〉を使う。