第59話 手加減は一瞬、本気も一瞬
私には、常に〈防護膜〉の魔法が展開されている。
透明なこの魔法は、魔力を直接見ないと見破れない。
しかし見破ったところで、それを突破できねば意味がない。
これを破るには……レイの〈一〉レベルでなくてはな。
そう、意外と脆い。
あの……遺跡で見つけたローブはブレスレットの中だ。
ローブなしだと……そうだな、死神の右手の構成員の使っていた〈滅炎〉だと呆気なく破壊される。
波長にして、四つからプレート一枚……といったところか?
プレートにする前だと……もっと脆かった。修復も難しいしな。
「……来い」
私は右足を引き、斜めに構える。
左手の指先をクイクイと動かし、挑発する。
戦闘態勢のように見えるだろう。
私は普段、腰に剣を差しているが、それは〈武器創造〉で作り出したものにすぎない。
毎晩就寝前に消し、毎朝作り直していた。素材は部屋の鉢の中だ。
「…………上等」
男たちは腰を落とし、十分に溜めを作り…………解放した。
瞬時に、爆発的に。武器を振りかぶった男たちが眼前に迫る。
手慣れている。
アドベンチャラーか? いや、型という感じの型を感じない。
おそらく、数多の修羅場から身に着いたものだろう。
最も実戦的で厄介だが……隙が大きく、多くなる。
男たちは魔力を込めた各々の武器を大きく振りかぶり、同時に、四方八方から私に向けて振るった。
私は微動だにせずに、それらの攻撃を甘んじて受け止めた。
男たちの攻撃は、私が避けたとしても互いを傷つけないような軌道になっていた。
チームワークも完璧……組織さがあるな。
――だがどの攻撃も、私の防御を突破することは敵わなかった。
すべての攻撃が弾かれた。
「散れ。第二の太刀、用意…………破」
一度散った男たちは再び武器を構え直し、再び向かってきた。
先ほどよりもスピードが僅かに上がったようだ。
多数対一の状況において、一方的な戦いを仕掛けようと思えば…………理論上では最も効率的な手段だ。
ただ、落ち着きすぎているな、こいつら。
暗殺集団か? 傭兵団かもな。
どちらにしろ、手を汚すことも厭わない集団であることは間違いない。
そして先ほど同様、四方八方から男たちの攻撃が迫る。
何人かは攻撃に気を少量……微量、混ぜたようだ。――だが、私の防御は突破できない。
魔力の中に作った空間の、十パーセントも満たせていない。
本気を出してやろう、程度だろう。
「どういうことだ……っ!」
「なぜ攻撃が通らない?」
「何かしらのマジックアイテムか?」
「いや、ただの生徒会の服。あいつは……防御魔法を展開しているんだ」
「だからって、攻撃が一太刀も通らないなんてこと――」
――ドズンッ!
瞬間、一人の大柄で、顔に無数の傷を持った強面の男が、ブレスレットから一振りの大剣を取り出した。
こいつがリーダーか? 指示を出している素振りはなかったし、指示を出していたのはどれも別人だ。
それに倣い、六人が同じようにブレスレットから武器を取り出した。
他の連中は……ブレスレットすら持っていないか。
「お前たちは後ろで待機。あとは俺たちでやる」
七人の男たちはそれぞれの武器を構え、深く腰を落とした。
途端、武器の持つ気配が変わった。
武器の気配は四種類に分かれる……。
火、水、土、風……なるほど、精霊武器か。
最も基本的な四元素であるところを見るに、大したことはなさそうだ。
ただ、あの強面男の剣は……今の〈防護膜〉を破壊されかねない。
火と土の元素……。二元素持ちの大剣か。
他の武器でも、何度も攻撃すれば私の〈防護膜〉を破壊できるだろうな。
まあ、僅かに傷が付こうものなら即座に魔力を補充し、耐久力を回復させるがな。
二元素の大剣なら、〈防護膜〉のプレートを破れるだろう。
そのまま私を切り裂くことは敵わないだろうがな。
大剣の攻撃力と私の防御力は……トントン、といったところか。
かなり珍しい品だ。只者じゃないな…………。大きい組織かもしれない。
「これを見ても顔色を変えぬか。よほどの自信家か?」
ふむ……。
生徒会の面々がそろそろ着く頃か。
あと五分ちょいといったところか。
……仕方ない。
もっと遊んでいたかったが……シンシルスとの約束がある。
「ごほん。三秒だけ、他所を向いていろ」
「はあ? 何を……」
――瞬間、すべての精霊武器が割れた。
私の手の中には紅い、神剣アルティナが握られている。
先ほどのシンシルスへの命令の際に〈麻痺〉と〈閃撃〉、〈不可視化〉を発動させた。
〈閃撃〉と〈不可視〉で高速移動しつつ精霊剣を叩き落とし、念のために剣の腹で首筋を叩いた。
〈麻痺〉は抵抗虚しく突破したかと思ったが……まあ、念のためだ。
突破しなかった可能性を考慮しての行動だ。
そして男たちは武器を砕かれ、気絶した。
それを見届けた私は〈閃撃〉と〈不可視〉を解除し、アルティナをブレスレットに納めた。
「さて、こそこそと逃げようとしているが……逃がしはしない。シンシルス」
私はシンシルスに付与した〈隠密〉を解除した。
シンシルスは私の意図を読み取ってか……いや、偶然か。互いに〈不可視〉と〈隠密〉が掛かっていたからな。
さて、生徒会は……もう、すぐそこか。
これは都合がいい。