表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/132

第56話  杭⋙ハンマー

 私は両手を天に掲げ、手のひらを内側に向けた。


「今楽にしてやる」


 私は〈超重力ハイ・グラヴィティ〉を解除し、同時に手を叩いた。


 ――パァァンッ!!


 私は音に合わせ、〈衝撃ショック〉を発動させる。

 私を中心に、少々強化された衝撃波が放射状に走る。


 魔法抵抗力の弱い者は吹き飛び、簡単に場外に落ちるだろう。

 私の見込みでは、ざっと半分は減……


 ……ほう、思ったより耐えられなかったな。


 残ったのは二十人弱か。

 …………一瞬で片を付けるのも味気ないな。


 それに、今のでわかった。

 残った二十人のうち、特に優れているのは八人。この八人は私の〈衝撃ショック〉をいとも容易く耐えきった。

 残りの十二人はなんとか耐えきった形だ。闘技場の淵でなんとか踏ん張っているやつもチラホラ。


「何が……?」

「……〈衝撃ショック〉の魔法だな。かなり強化されていたぜぇ? 魔法操作技術だけはかなりたけえようだな」


 ヤンキー風のリーダーは良い眼をしているようだな。

 すでに一般の〈衝撃ショック〉を凌駕した私の〈衝撃ショック〉を〈衝撃ショック〉であると見抜いた。


 正直、見抜かれるとは思わなかった。

 あとこいつ、絶対貴族じゃない。口調が乱暴すぎる。


 しかし、これぐらいの人数はちょうどいい。


「ふむ……。これぐらいならちょうどいいな。残ったのは二十人か。……何秒ほしい?」

「何が……です?」

「……私がここから一歩も……いや、そうだな……。いいことを思いついた」


 そうだ。

 わざわざ、何もせずに待つ必要はない。


 私は自分を中心に、足で地面に半径約一メートルの円を描いた。


「レイ、ルール変更だ。――私がこの円から出たところで地面に触れたら……私が負けでいい」

「わかった」

「――お前に何のメリットがある!? 舐めてんのか? あ゛ぁ?」


 ヤンキー風の男がだけが口を開くが、他の十九人もそう思っているようだ。

 怒りがビシビシと伝わってくる。


 弱い一般人なら卒倒してもおかしくない。


 一般人なら、な。

 私は一般人ではない。


 この程度の怒り、消えかけのタバコの火も同然。


「その通り!」


 私は嘲笑を浮かべる。挑発だ。


「だらぁっ!!」


 ヤンキー風の男が拳を握り、駆けてくる。


 拳に魔力が凝縮されているのが見える。

 ほう……核に気を使用している。


 しかし、レイの〈ワン〉やウィグの〈ポイント〉の原型とも言うべきものだ。

 魔法でない……ただの魔力の塊の中心に気を込めただけのものだ。

 これが発展して〈ワン〉や〈ポイント〉となるわけだ。


 ……魔力の爆発……〈禁忌大爆発ニュークリア・ブラスト〉に気を使ったらどうなるんだろうな。

 そもそも、そんな隙間……あれにあったかな? なかった気がする……。作れるかな?


 しかし、だ。この一撃には興味がある。

 いつでも打ち消すことはできるが、こいつの才能を……ただ見てみたい。


 それに、残念なことだが……私の〈防護膜プロテクション〉を破ることはできないだろう。

 魔力が、魔法という形を与えられていないせいで不安定だ。おまけに不定形。


「食らえ!」


 私の目の先に拳が突き出され……魔力が爆発した。


 まあ、核に気を使ってはいるが、それは魔力の爆発のベクトルを強化するだけのものでしかない。

 所詮は劣化版か。


 私の〈防護膜プロテクション〉は一プレートも破壊されなかった。


「な! な……なんで……!?」


 全力の一撃を放ってもはずなのに、相手には傷一つついていなかったのだ。

 この反応は当然だな。


「ん? お前程度の魔法じゃ、私には傷一つつけられないってこと。ハンデの正体がわかったか?」

「チッ! ……やれ!!」


 途端、ヤンキー風リーダーが後ろに跳んだ。

 入れ替わり、二十発の〈火球ファイアー・ボール〉が迫る。

 優男風リーダーが二発放ったため、一発多い。


 まあいい。


 私は両手の指を鳴らし、〈火球ファイアー・ボール〉を打ち消し、〈蛇の眼(スネーク・アイ)〉を発動させる。




 この〈蛇の眼(スネーク・アイ)〉は発動条件が厳しい魔法だが、私にとっては造作もない。

 この魔法の効果は、対象の感じる恐怖……その倍増。

 そして発動条件は、彼我の実力差を明確にし、わずかに恐怖を植え付けること。そして、対象と目を合わせること。

 もちろん、見るだけでも発動するにはするが、目が合っていないと、効果が薄くなる。


 こうも連続で大量の魔法を打ち消し、必殺の一撃を無傷でやり過ごせば……大抵の場合、僅かなりとも恐怖心を植え付けられる。


「「…………ッ!!」」

「そこでしばらく大人しくしていろ。まあ、抵抗していても構わないがな。…………さて、もう終わらせたいのだが」

「「ヒッ!!」」


 恐怖のあまり、優男風リーダーを除く十九人が一歩下がる。ヤンキー風……思ったより繊細か?


 そう、〈蛇の眼(スネーク・アイ)〉の副効果。蛇に睨まれた蛙……だろうか。

 まあ、実際は異なるのだがな。


 簡単に言えば、〈蛇の眼(スネーク・アイ)〉を発動させた私と目が合った者は、私の深淵を垣間見ることになる。

 普段は隠しきっている私の本来の波長を感じてしまうのだ。

 そして結果的に、相手に恐怖心を植え付けやすくなる。

 そう、主効果の条件を満たしやすくするのだ。


 優男風リーダーですら、一歩も動けないでいる。

 ……これはもう勝ったな。


「それじゃあ、私の番だな」


 私はパンッ!! と手を鳴らし、最大にまで強化した〈衝撃ショック〉を発動させる。

 もはや、抵抗も何もないだろう。


「勝者、レスク・エヴァンテール」


 途端、辺りに魔法の――〈回復ヒール〉と〈状態異常回復キュアー〉の波長が満ちた。闘技場の効果か。





「レスク……エヴァンテール殿」

「これまでの貴殿に対する失礼な態度。どうか、お許し願いたい」


 そう言って、戦った全員が頭を下げてきたので、寛大な私は許してやることにした。

 百人に謝られるというのは、なかなか新鮮だった。




 尚、この決闘は異例中の異例……授業と授業の間の休憩時間という短い時間で行われていたため、全校生徒が私のことを知ることとなった。


 そして、ファンクラブができたのは後日の話だ。



 





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ