第55話 出過ぎた杭を叩けば、叩いた方が折れる
『決闘を受理しました。レスク・エヴァンテール殿。対するは……その他大勢百名』
笑。
その他大勢って……ッ……ッ! 笑いが……ッ! 堪えられ…………る。
しかし、喧嘩を振って来た方がおまけ扱いとはな。
『それでは、十秒後に転移を開始します。十……九……八……七……』
カウントダウンが始まる。
おそらく、この間に決闘の立会人となる教授を用意しているのだろう。
現に、このフクロウはすでに〈転移〉の波長を完成させている。
見た感じ、魔法を発動させているのは、体内にあるマジックアイテムだろう。
限りなくフクロウに見えるが、魔法で生み出された存在だ。
私の核がライアル鉱石のように、何かしらのマジックアイテムを核に作られたのだろう。
しかし、だ。
大きな問題が生じた。
――いつ、本体と入れ替わるか。
本体は絶対にこの状況を見て、変わろうとしているだろう。
私は本体と同じ思考回路を持っている。
そうか。
〈転移〉の発動に合わせて分身体を解除し、本体が直接会場に乗り込めばいい。
学園全体を見て、〈転移〉の波長が発生した場所で、闘技場らしき場所に行けばいい。
私がこう考える、ということは、本体もこう考えている……ということ。
『……ゼロ。転移を開始します』
途端、私を含む百一名の生徒が転移させられた。
私は直前で〈転移〉を阻害し、分身体を解除する。
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私は学園全体を視ていた。
すると、〈転移〉の反応が一か所、一瞬の後、もう一か所で発生した。
二番目に発生した反応の方が転移先か。
しかし、こうして見ると……僅かに時間差があったんだな。
上空から見ることで判明した、衝撃の事実。
瞬間移動ではないことがわかった。
さて、〈転移〉の発動に合わせて〈分身体〉を解除し、〈転移〉で闘技場に転移んだ。
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闘技場に私が転移するのと同時に、他に百人と一匹の影が転移してきた。
百人は私の敵。一匹はあのフクロウだ。
そして、立会人らしき教授も遅れて…………なんだ、レイじゃないか。
「私、レイ・マインが決闘を執り仕切る。約百人など、とてもじゃないが……一人ひとりなんて見ていられない。よって、場外を敗北とする」
人数が増えたせいで、ルールが雑になったようだ。
しかし、場外に出さなければならないのか……。面倒だ。
「それでは…………開始!」
この円形の闘技場は、おそらく学園内でも一番大きい。
しかし、百一人もいるとなるとさすがに狭い。
仕方ない。まずは剪定だ。
開始の合図とともに、敵百人が全員、闘技場の端に集まった。
ふむ。思っていたより脳があったようだな。さすがは(一応)貴族か。
しかし、魔術師相手に距離を取るのは愚策だ。
相手には魔法を使えない者もいる。全員が魔術師というわけではない。
私は腰の鈴を鳴らし、〈超重力〉を発動させる。
まずは様子見だ。
生徒たちは不可視の力に上から圧され、地面に膝を着く。
少し軽めにしておいたからな。膝を着く程度で済んでいる。
…………この程度なら、半分は難なく立っていられるかと思ったのだが……。
まさか、立てているのがリーダー格の二人のみとはな。
この魔法は重力を強くする。筋力的、魔法的に強くなければ抵抗は難しい魔法だ。
しかし、魔法を放てないわけではない。
重力魔法も極めれば、魔力すらも圧し潰す。そんな領域の重力魔法は、超級魔法ぐらいだろうか?
超級魔法は発見すら難しいからな。十以上の波長を組み合わせてようやく完成するような魔法だ。
ある程度、波長一つ一つの特徴は理解できているとはいえ、完璧ではない。
それに、理解したからといって、簡単に作れるものでもない。当たれば超ラッキー。
「――放て!!」
「「――〈火槍〉!!」」
優男風リーダーの合図で、五十人弱が一斉に〈火槍〉を放った。
質は申し分ない。
しかし、全員同じ魔法とはいただけないな。私相手には、相性が最悪だぞ?
私は指を鳴らし、その音に〈火槍〉の反魔法を乗せる。
――結果、一瞬ですべての魔法を消すことに成功した。
「――次だ!」
「「――〈火槍〉!!」」
芸のない連中だ。
いや、先ほどのアレが偶然か否かを確かめるため、か?
私は再び指を鳴らし、〈火槍〉をすべて消した。
そしてもう片方の指で鈴を四回鳴らし、〈火槍〉の陰に隠れて放たれていた四つの魔法――〈火弾〉、〈水弾〉、〈土球〉、〈風球〉の魔法も消す。
完全に能無しをいうわけではなかったようだな。
作戦を立てる時間はなかったと思うのだが。
……いつか、という仮定の中で話を進めていた可能性があるか。
しかし、それを成功させる手腕と判断力は評価して然るべきか。
――いや、半分以上は面白半分で参加した連中。
言うなれば、これは寄せ集めの集団。そんな話すらなかったはずだ。
となると……伝言ゲームで情報共有をしていた、と見るべきか。
冷静な判断力。作戦の立案者はどっちだろうか。
「……まずは間引こうか」
馬鹿正直に百人を相手にするのは骨が折れる。
さて、どうやって間引こうか。
現在は〈超重力〉でリーダー格二人以外の動きを封じている。
しかし、〈超重力〉はあくまで重力――上から下への力の強化でしかない。
横向きの力でないと、場外負けにはできない。
ふむ……。
シンプルなこれでいいだろう。
私はゆっくりと両手を天に掲げ……