第53話 マジックアイテム鑑定
私は分身体に授業を受けさせ、その間に私は〈隠密〉で姿を隠し、〈変装〉で顔を変え、学園を出た。
特に、結界などが張られていないことは確認済みだ。
その代わりとして、見張り……が一応いたが、私を見つけることは叶わなかった。
こんなことを何度も繰り返してきたが、未だにバレている気配はない。
さて、どこに行こうか。
とりあえずいつも通り学園を出たが、そろそろ、これといってすることがなくなってきた。
魔法の探究活動をするのが日課だが……波長を見つけるだけなら場所を選ばない。
街中を歩きながらでも問題ない。
しかし、さすがは王都と言うべきか。
いつ来て見ても、人と物で溢れている。
金はアドベンチャラーとして活動していた期間に、がっぽり稼がせてもらった。
あと、盗賊の財産。
そうだな……まずは…………ふぅむ。後の楽しみにとっておきたかったが……。
――魔法具屋に行こう。
魔法具屋は良いものだ。
私に再現できないものだってある。
しかし、マジックアイテムの形、効果、使用用途は、見ていて飽きないものがある。
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マジックアイテムは万国……万世界共通で、見ていて飽きないものがある。
そう、私は思っていた。
精々、魔法具屋は本屋程度の面白さしかない。楽しいには楽しいのだがな。
しかしこの世界の魔法具屋は…………
――想像以上だ!!
なぜ、このような形状なのか。
なぜ、このようなものを作成したのか。
まるでわからないものが多い。
もちろん、使用用途、形状の意味がわかる……通常のマジックアイテムが大半だ。
しかし中には、製作者の意図がまるで読めないものがある。
例えば、これだ。
箱を開けると、ばね付きのおもちゃが飛び出てくるびっくり箱……。
おまけに、ばねの先に取り付けられた顔の口から、ランダムで魔法が飛び出る……。
いくつかある魔法の中から、ランダムに発動させる波長が込められている。
一応覚えたが、使い道はないだろう。
心の中を読む能力を持つ者相手では有効かもしれんが……この私が簡単に読ませるはずがない。
品名はランダム・ボックス。
文字通りの効果だ。面白い。
そして、これもまた面白い品だ。
六指。
指輪型のマジックアイテムで、嵌めると、小指の外に、指が一本増える。
品名を聞くと、装備できる指輪の数が増える――マジックアイテムである指輪は指一本につき一つしか装備できない――と思われるだろう。
しかし残念なことに、このアイテムは指輪の形態を取っている。
そう、着ける意味がない。
製作者の意図、使用用途がまるでわからない。
遊び半分で作ったとしか思えない。
生み出された指は……実体化した魔力が指の形を取っているもの。
つまり、魔法ですらない。
いや、厳密には魔法の一種だ。そこに波長がないことを除けば、な。
……これ以上の深堀りはやめておこう。
漠然とした感覚でしか捉えられない代物だ。
私が店を出ようと腰を上げた瞬間、背後から
「お客さん、お目当ての品は見つかりましたかい?」
ふむ。長いこと品定めをしていたせいで、店員に目を付けられていたようだ。
おまけに、見ていたのはおもちゃ。私の外見はどう見ても成人男性。
確かに怪しい。
それと、この店員……。かなりできる。
アドベンチャラーランクに換算すると……Bといったところか。
しかし、見た目は丸眼鏡を掛けたひょろがりの青年だ。
……指が細長い。ところどころ、汚れが染み付いている。何かしらの生産職か。
しかし、いいタイミングだ。
「ちょうど呼ぼうと思っていた」
「はい、どういったご用件で?」
「これらの使用用途と製作者を知りたい」
「使用用途ですかい? ただの子供騙しですよ。製作者は私です。ここだけの一品ですよ? 記念にどうですか?」
…………製作者だったか。
なるほどな。
本当に遊び半分で作った品のようだ。嘘を吐いているようには見えない。
使用用途も思いつかない。
魔法での再現は不可能ではない。もちろん、アイテムの持つデメリットを消した状態での再現だ。
いるかいらないか……いらない。
「気が向いたらまた来よう。それでは失礼する」
「またいらしてくださいねえ、お客さん」
ヘラヘラした口調。不快感はあまりないが、どことなく、会社の愉快な上司感がする。
ちなみに、この店はもうすでに用済みだ。
面白かったが、有能ではない。
…………だが、あの店そのものと店主には興味が湧いた。
店の下から微かに魔力の波を感じた。
しかも一見は、一般人からすれば万引き自由の、警備ガラガラの店だろう。
しかしよく眼を凝らせば…………使い魔であろう、蛇や鼠たちが目を光らせていた。
地下の魔力の波の正体はわからない。
反応だけは見えたが、細かい波は見えなかった。
使役の魔法なら、似たものを私も使えるし、気付いたはずだ。
さて、一度分身体の様子を確認しておこうか。
その場に私がいた場合に取るであろう行動を取る。それが分身体だ。
完全に人格を分けている今、記憶は同調されていない。
分身体に本体の記憶を継承させるには、一度魔法を消し、再度魔法を発動させる必要がある。
分身体は、よほどの緊急事態でもない限り、私に連絡を寄越すことはない。
自分の力で解決できる場合、勝手に解決してしまうが……正直、学校という場所で、そんな簡単に解決できない問題が発生するわけがない。
学校でのトラブルと言えば、ネチネチネチネチと陰湿に長続きするものだ。
手を変え品を変え、ネチネチネチネチと……。
しかし厄介なことに……
――学園生活の根底に作用する。
なぜ今、私がこのようなことを考えてるのか。
理由はたった一つしかない。
私の分身体が、絶賛、ガラの悪い連中に囲まれ中なのだ。