第51話 教師と生徒、友
私は鈴の音を解放する。
これで、いつでも魔法を放てる。
私は〈超重力〉を発動させる。
「ぐ……ぐぅ!」
ほう……。立つか。
なるほど。魔力を体の内外に張り巡らせて、魔法抵抗力を高めているのか。
その前に、姿勢が上手い。……読んでいたな。
このまま身動きを取れなくし、攻撃を加えてもいいのだが……それでは味気ない。
私は学園内で、自分に制限を掛けている。
魔法の波長は最大五つまで。
波長が五つの魔法では〈超重力〉しか使わない。……現時点では。
アルティナも使わない。
できれば〈閃撃〉も避けたい。これは私の固有魔法だしな。
それでも教授に勝利してしまうのであれば……仕方ないと思ってもらおう。
弱い教授が悪い。
私は〈超重力〉を解除する。
制限時間があると、周りに虚偽情報を与える。
見えない負荷から解放されたレイは剣を鞘に収め、構える。
……なるほど。撃ち合いか。
ふむ……。少々、気の量を抑えようか。
レイと同じくらいでいいか。
「「――〈一〉」」
私とレイは〈斬撃〉に気を込め――〈一〉を放つ。
二つの〈一〉がぶつかり、相殺され……辺りに衝撃が走る。
生徒たちの身の安全は…………〈障壁〉が張られていたか。
まあ、そこまで軟弱ではないか。たかが余波だ。
〈一〉はレイの家に代々伝わる技のようだが……そんなもの、知る人は少ない。
「――〈火雨〉 ――〈火槍〉」
私は〈火雨〉に〈火槍〉を掛け合わせた。
降るのは火の雨ではなく……火の槍だ。
槍が降っても、なんて比喩言葉があるが……私は本当に降らすぞ。
「――〈転移〉」
レイが即座に〈転移〉を発動し、私の背後に回る。
想定内だ。
私は背後に現れた〈転移〉の波長に反魔法を当て、〈転移〉の発動を阻害する。
レイは転移できず、火の槍に包まれた。
なに、死にさえしなければ私が回復するさ。
一応、加減しているしな。
「ぐあああああああああああああああ」
私はレイの転移を遅延させたことがある。
前は初見だったせいで反魔法の構築に時間が掛かったが、今回はそうではない。
火の雨が止む……止ませた。
ふむ……。想定のダメージに達したようだ。
私は腰の鈴を鳴らし、〈回復〉を発動させた。
「くっ」
「今回はちゃんと治るぞ」
「ああ……ありがとう。私の負けだ」
レイが敗北宣言をした。
しかし、観客の私を見る目は……完全に二種類に分かれた。
尊敬と嫉妬。
多いのは前者だ。想定外だった。
やはり、相手との力量差がありすぎると、争うことを止め、崇めるというのは人間の本質か。どこの世界でも変わらないな。
これでも手加減はしているが……それはレイも同じだ。
聖騎士時代の装備も失い、利き腕も失った。本気も出していないようだったしな。
「さて、気を取り直して授業を始めます。生徒会の二人、どうもありがとう」
私と王女は元の席に戻った。
しかし、レイは今年が初任のようだが……妙に手慣れている。
……そうか、聖騎士は学園を卒業してなるものだったな。
この学園のOBなら、教授……手本を見てきたわけだ。
「私は先ほども言った通り、元聖騎士だ。だが、利き腕である右腕を悪魔との戦闘で失い、引退した。そこを学園長に拾われ、今に至るわけだ」
レイはそこで剣を抜き、天に翳した。
僅かに気を込めている。
「私の授業は常に実戦……命の覚悟をしていてほしい。回復術師がいても、魔法が間に合うかもわからないし、私のように呪いを受け、再生できないかもしれない」
回復術師……私のことを指しているのか、私をちらりと見た。
確かに先ほど〈回復〉を使ったが。
「まずは第一段階。基本魔法〈斬撃〉または〈突〉を習得してもらう」
私はもう使える。
「魔術師でも剣や槍などの基本武器はある程度使えるようになってもらう」
レイの腕に嵌めたブレスレットから、刃のない剣や槍が大量に出てきた。
なるほど。準備に時間が掛かったと言う割には、武器しか携帯していなかった。
寝坊の言い訳かと思っていたが、ブレスレットに収めていたのか。
この授業も、最初の内は面白くなさそうだ。
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ふむ……。
どの授業も習う必要を微塵も感じられないな。
ただ、まあ……単位だけは落とすわけにはいかないな。
暇つぶしの術も考えねばな。
私は自室で〈分身体〉を発動させる。
〈創造〉の魔法と同じく、核にライアル鉱石を使用しているが、ゴーレムとは全く異なる。
その魔法名の通り、生成されるのは第二の私だ。
記憶も性格もすべてが共有される。
もちろん、自身が分身体であるという認識が最奥にあるがな。
これをやっておかないと、自分と喧嘩に……否、殺し合いに発展しかねない。
万が一に備え、私自身の外見も変化させておこう。
私は〈変装〉を発動し、自分の顔を作り変える。
とは言え、骨や筋肉に干渉するのは……痛いからやらない。
整形の痛みはどう足掻いても痛い。腕を斬られるより痛いと思う。
髪を白く伸ばし、瞳の色を紺色に変えただけだ。
これだけで、ぱっと見は最早別人だろう。
「さて、ではあとは……おっと」
レイから〈念話〉だ。
『レスク。良ければ私と一緒に授業に出ないか?』
『その権利がお前にあるのか?』
『ある』
ふむ……。
この変装がばれるのかどうか、試してみようか。バレないと思うが、念のためにな。
『ふむ……お試しで一度、やろうか』
『感謝する』
明日は教授の立場か。
当日に行って驚かせてやろうか。