表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/132

第50話  片腕の教師

 翌日。

 ようやく授業が始まった。


 固定クラスがないせいか、少しばかり気は楽だな。

 性質の違う人間を適当に集めた固定クラスは面倒事も多いからな。

 

 今日最初の授業は……剣術だ。

 どうせつまらない打ち合いだろうがな。

 もしかしたら、私の知らない型を学べるかもしれない。と、淡い期待を胸に、廊下を歩いている。





 …………つまらん。


 初日は、教授と一対一サシでの勝負だった。

 王国でもトップを張る剣士で、かのガイオス・エラドに匹敵していたと聞いて――言っていたが……。

 

 ガイオスに匹敵? 

 ふんっ。十秒もせずに負けるだろうよ。何十年前のガイオスを見ていたのやら。


 私は当然の如く、勝利を収め…………るのは避けた。

 同級生たちから、できるだけ反感は買いたくなかった。


 そこそこいい勝負になるように振る舞い、教授が剣を振り上げたタイミングで手首のスナップを活用して自分の剣を投げ上げ……負けた。


 手加減というのも難しいものだ。

 魔法なら、使う魔法を制限すればいい。だが、それ以外での勝負となると……。


 ちなみに試合で使ったのは木刀だ。

 魔法で創造したものでも、アルティナでもなく。


 アルティナを使えば、殺してしまいかねない。





 そして戦闘の授業。こんな名前の授業だ、念のため。

 実戦形式の授業だろう。そうでなければ詐欺だ。


 教室はハウスの闘技場のようになっている。


 しかしいつまで経っても、教授は現れなかった。


 まさか、呼びに行かないと怒られる流れか?

 職員室なんか、どこにあるのか知らないぞ。


 教授の外見も知らないし、探しようがない。

 教授連中も実力者だし、授業中に安易に魔法を使うことはできない。


 この状況、どうしたものかね。

 

「レスク、どうする?」

「ん~~…………来たようだ」


 王女が私に尋ねたのと同時に、闘技場の真ん中に〈転移テレポーテーション〉の気配が現れた。

 

「やあ、遅れてすまない。片腕だと、どうしても準備に時間が掛かってしまってね」


 …………私はその男を知っていた。


 知り合いに片腕は……たった一人しかいない。


 レイ・マイン聖騎士。

 遺跡調査で起こった悪魔との戦いで右腕を失い、聖騎士を辞めた男だ。


 元とはいえ、引退して一年も経っていない。

 教師としては最高だろう。引退したて、ほやほやだからな。


「やあ初めまして、後輩の皆さん。見ての通り、右腕を失い、聖騎士を引退した元聖騎士。レイ・マインだ」


 腰に剣を差してはいるが……利き腕は右だったはずだ。

 利き腕を失っても、剣を扱えるのか?


 呪いも残っているようだし。

 チッ! 呪い……厄介な代物だ。術者を殺しても消えないとは。


「……生徒会のメンバーもいるようだし、まずはその実力を見せてもらおうか。どちらか、私と戦わないか?」

「レスク……私が行く」

「どうぞ」


 後ろに座っていた王女がそう言い、闘技場へ降りた。


「王女様か……手加減は致しませんよ」

「構わない。ここでは一生徒……」


 レイと王女が距離を取る。

 王女は腰に差した杖を抜き、レイは左手で剣を抜いた。


「では、コインが落ちたら開始ということで」


 レイは剣を素早く手放し、コインを投げ…………コインが落ちた。


「――〈火球ファイアー・ボール〉」

「――〈水剣アクア・ソード〉」


 王女が〈火球ファイアー・ボール〉を放ち、レイが即座に空中の剣を広い、剣……だけでなく、腕全体に水を纏う。


「――〈斬撃スラッシュ〉」


 レイが〈斬撃スラッシュ〉を放つ。〈水剣アクア・ソード〉の効果で、水を纏っている。


 みんなの予想では、レイの斬撃が勝つと思っていただろう。

 しかし、私の眼には違う結果が見える。


 ――相殺だ。


 王女の〈火球ファイアー・ボール〉は大分精錬されている。一言で言えば、無駄が少ないのだ。


 対して、レイは手を抜いている。

 左腕のせいで剣閃が鈍くなっているのもあるだろうが、それ以前に魔法が汚い。


 そして私の予想通り、ぶつかった二つの魔法は……消滅した。

 レイは水の密度を高めていたようだ。予想より多めに水蒸気が発生する。


 目くらましか。

 王女は水蒸気を大きく迂回するように回っている。

 レイは水蒸気の中に飛び込んだ。


 ああ、これはレイのが一枚上手だったな。

 踏んできた場数の差……経験値の差だ。仕方ない。


 次の瞬間、レイが王女に飛びかかり、王女は床に背中を打ち付けた。

 起き上がろうとした王女の首筋には、すでにレイの剣先が突きつけられており、王女の剣はレイが踏んで固定している。

 勝負あったな。


「勝負ありですね」

「……そう」


 王女は起き上がり、杖を腰に差し、レイは剣を鞘に収めた。


「では、もう一人の……名は?」

「……レスク・エヴァンテール」

「……へぇ」


 やっぱりこうなったか。


「お手合わせ願う」

「……お手柔らかに」


 ここは手を抜く。

 とは言え、抜き過ぎるのもよくない。

 そうだな……ある程度(・・・・)の魔法と〈ワン〉かな。


 初級、中級であれば、使っても問題あるまい。

 

 私は剣を抜いた。

 ライアル鉱石を核に創造クリエイトした剣だ。


 私とレイは互いに近づき、小声で会話する。


「あの紅い剣は使わないのか?」

「使ったら……どうなるかわかるな?」

「ふっ……左腕も失いたくないしな」


 私たちは距離を取り、剣を構える。


「レスク。本気でいいんだな?」

「構わない。今の本気を、私に見せてくれ」


 レスクと私の間柄だ。敬語はいらない。

 

 レイが投げたコインが…………落ちる。

 私とレイは距離を詰め…………剣を交えた。


「やはり左腕だとパワーが落ちるようだな」

「ふんっ! ……それで、お前の立ち位置はどうなっている?」

「私はあくまで一生徒だ。AAランクアドベンチャラーはここにはいない」

「なるほど、理解した」


 私はレイが剣に力を込めるタイミングに合わせ、後ろに跳んだ。


 私は鈴の音を解放した。

 これでいつでも、鈴が鳴れば魔法を放てるようになる。



 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ