第49話 自己紹介 in生徒会
生徒会長は手を叩き、小首を僅かに傾げた。
「私は生徒会長、アリス・ウーゼンティシス。三年よ。気安くアリスって呼んで構わないわ。よろしくね!」
毛先が若干カールしている、艶のある茶髪。紫水晶のような紫紺の瞳。透き通るような白い肌。
お姉さんって感じだ。生徒会長としてはうってつけな人材だろう。
話し方や余裕のある態度から、器の大きさが見える。
「副会長、テオ・ゲゼシス。三年です」
「同じく副会長、ファンゼル・ゲゼシス。同じく三年」
テオとファンゼルは双子か。波長がよく似ている。
両者とも、青い髪に蒼い瞳を持っている。
テオはよく梳かされている髪を肩口まで伸ばしていた。
それに対しファンゼルの髪は短く整え、逆立っている。
髪型が他人に与える第一印象は大きい。
髪型さえ除けば、あとは同じだ。クローンなのではないかと疑いたくなるほどだ。
「生徒会書記ぃ、ノルデル・チャングゼン……二年ですぅ。よ、よろしくぅ……」
濃紺の艶のある長髪に、怪しい金色の瞳。
前髪で顔の大部分を隠している。メンヘラそのものだ。
「会計のアーン・ミーネと……」
「同じく、セルマ・シャリ! 私は二年で!」
「私は三年です」
アーンは眼鏡を掛けた、黒髪黒目の長身細身の女性だ。
それに対してセルマは、短く整えた赤髪と吊り目の女せ…………少女?だ。
「風紀委員長……ティーン・マガルコフ」
「風紀員、セバス・アルゴリエっす」
「同じく風紀員、クォーツ・セクリエイト」
ティーン・マガルコフ……黒く長い髪を後ろで纏めている、高身長の青年。
一言で言えば……イケメンだ。ファンクラブがあってもおかしくない。
糸目……開いているのか、怪しい。
先ほど、私たちに地図を渡してくれたのはこの人だ。
セバス・アルゴリエ。
ぼさぼさの金髪に眼鏡。あれはマジックアイテムか?
性能は……見た感じ、ホルスの仮面の下位互換か。
クォーツ・セクリエイト。
薄紅色の髪と瞳の女性だ。長い髪をポニーテールにしている。
生徒会は出揃ったな。
と言うか何も、わざわざ学年を言わなくてもわかる。
ネクタイの色は変わっていないわけだしな。
三年は緑、二年は青、そして私たち一年は赤。
私たちを除いて生徒会は、三年が五人と二年が四人。男が四人、女が五人。
ウーゼンティシス生徒会長、ゲゼシス副生徒会長(×2)、ミーネ会計、マガルコフ風紀長が三年生。
チャングゼン書記、シャリ会計、アルゴリエ風紀員、セクリエイト風紀員が二年生。
「それで、庶務のみんなにも挨拶してもらおうかしら?」
なるほど、次は私たちの番か。
「マイス・リスガイ……です。よろしく……」
「レスク・エヴァンテールです。よろしくお願いします」
「ローズ・アンゼリオです! よ、よろしくお願いします!」
マイス・リスガイ。
この国の王女で、濃い赤色の瞳と漆黒の髪が、白い肌によく映える。
ただ、少々寡黙な一面があるようだ。
「はい、よろしくね。何か質問はある?」
「はい」
王女が手を挙げた。
「何かしら、マイスさん」
「なぜ私たちが生徒会に?」
ナイス質問!
「答えは至って単純よ。…………強いから」
「来年以降は?」
「それは貴方たちの成績次第よ。もちろん、性格面も考慮されるわ」
なるほど、やはりか。
でないと、受験直後の生徒たちから選べるはずがない。
面接でリーダーシップの有無を確かめられた。
他の試験では実力を確かめられた。
総合的に優秀な上位三人が選ばれたということか。
私が選ばれないわけがないはずだ。
隠しているが、アドベンチャラーランクはAAだし。
六千年以上の刻を過ごし、私は成熟しきっている。
選ばれたのは必然。
千歩譲っても選ばれていただろう。
「庶務は……言ってしまえば、雑用ね」
だろうな。
「ってなわけで、風紀委員長から最初の任務です」
「一年生諸君。俺たちと一緒に校内の見回りだ。入学式から一週間は馬鹿をやる者が多いからな」
「僕たちはそれを、力づくでも鎮めるのが目的っす」
アルゴリエが袖を捲って力こぶを作り、ぱしぱしと叩く。
仕草のわりに、そんなに大きい力こぶじゃないな。
…………あ。
「早速のようですね」
「? レスクくん、どうしたのかな?」
マガルコフ風紀長が尋ねてくる。
気付いていないのも無理はないか。
魔法の反応がした。
おそらく、距離的に寮付近だ。
「レスクくんは〈転移〉の魔法が使えるのかしら?」
「はい。今すぐにでも行きましょうか?」
「ぜひそうしてほしいのだけれど……監督が一緒にいないと」
「なら、俺がついて行こう」
「では――〈全体転移〉」
私はマガルコフ風紀長を連れて寮の前に転移する。
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案の定というか、そこでは喧嘩が起きていた。
「おい! 調子に乗ってんなよ!」
「一年坊主の癖してよぉ!」
「歳を食っただけで低能な輩を、先輩とは思わないし、敬わない」
「んだとお!?」
口論しながらも、魔法の軽い撃ち合いが続いている。
あの一年、なかなかやるな……。
私は鈴の音で〈超重力〉を発動させ、生徒たちを押さえつける。
波長が五つの上級魔法だ。
「お……おもっ」
「せ、生徒会……っ!?」
「このぉ」
マガルコフ風紀委員長の存在もあり、事態は休息に落ち着いた。
……が、禍根は残ったままだろう。
見ていた者たちの嫉妬や不安の感情が、いくつも私に向けられていた。
やはり目立ち過ぎたか。