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第47話  受験には手加減が必要

 第一の試練が終わり、私たちは森の外に転移した。


 ふむ……。

 ざっと、半分まで減ったか?

 ま、私たちもいろんなライバルを狩りまくったからな。


「続いて、試験を行う! 真っ直ぐ南西へ向かえ!」


 南西……。

 私は鈴を鳴らし、〈遠視クレアボヤンス〉を発動させ、南西にある物を確認した。


 ……グラウンドか。

 そして、複数の風船が浮かんでいる。見た限りでも三百。風船……風船? なんで?

 

 そして、道中の物陰にも複数の人影……武装しているな。


 受験は武器持参。使用する武器は予め出しておくのがルールだ。

 私は〈創造クリエイト〉済みの剣を一本、持参している。

 アルティナの出番は……ないだろう。相手があの悪魔(ディヴィアル)ぐらいでないとな。

 出したら出したで、暗器扱いとして即不合格になるんだけど。


 ここは先陣を切ってしまいたいが……あまり目立つのは得策ではない。

 不思議に思った誰かが、私のことを調べてはまずい。


 私が帝国の第二皇子であることは、遺伝子を解析しない限り、バレないだろう。

 エヴァンテールの姓を貰っている以上、悪い噂は立てられるべきではない。


 ここは……プライドの高い高位貴族の子供か、その取り巻きに任せよう。

 幸い、第一試練で同じだったアモス・レサーレンという男と取り巻き五人が先頭を歩いている。

 第一試練がスムーズに進んで、調子に乗ったな、あいつ。


 私は真ん中辺りをゆっくり歩けばいいだろう。


「あ、あの……」


 背後からか弱い声が掛かる。

 第一試練で同じチームだった少女だ。


「どうした」

「そ、その……さ、先ほどはお世話になりました!」


 ああ、なるほど。

 私は確かに貴族姓を持つ。まだはみ出し者だがな。


 少女は、平民としての礼儀を守っているのだろう。

 しかし……この少女、なかなかどうして。


 ……魔法の才能がない。


 この少女には、魔法の才能がない。絶望的なレベルでな。先ほどの試練で、この眼で確認したから間違いない。

 しかし、才能は別にある。


 ――武術だ。


 筋肉の配列が綺麗だ。未発達だがな。

 それでいて、私と同じレベルの『柔』の筋肉。


「名は?」

「名……ミハ・イージス……です。その、先ほどはご迷惑をお掛けし、申し訳ありませんでした……」


 第一試練の最中、ミハは魔法の発動に失敗した。

 私が何とか抑え込んだから、暴発と周りへの被害は避けたが……。一歩間違えれば、彼女が重傷を負っていた。


 おそらく、体内の魔力回路がおかしい。

 医学ではどうすることもできない問題だ。


「そうか。……酷なことを言うが、お前には体術の才があるが、魔法の才はない。魔法の使用は禁止した方がいい。でないと……死ぬぞ」

「え…………」


 私はそう言い残し、その場を後にした。

 

 ミハが魔法の発動に失敗したのは、万が一の確率――偶然ではない。

 彼女は、そこら辺の感覚が欠如している。

 これ以上の魔法の酷使は、彼女の体を内側から破壊しかねない。

 そう思ったが故の通告だった。




 しかし、彼女のその後を確かめることはできなくなる。

 少女は、次の第二試練に辿り着く前の奇襲で攻撃を受け、落ちることになる。

 私の通告を受け止めてくれていればいいのだが……。





 道中の奇襲では、二割ほどが脱落した。

 何もしないわけにはいかないので、最低限、私の周りにいた者たちは守ったが……。


 刃が胴体、首、頭に触れた瞬間に〈転移テレポーテーション〉が発動するとはな。

 所詮は試験、と油断していた者も多かった。


 しかし今の奇襲で、受験者は大きく二グループに分かれた。


 戦闘の心得があるか、ないか。

 多少なりとも心得がある者は先頭付近を歩き、ない者は後ろの方で固まっている。


 そして、グラウンドに到達した。

 風船の数は増えておらず、二百ほどのままだ。


「これより第二試練『風船破壊』を始める! ルールはシンプル、十秒以内で破壊した風船の数が得点となる」


 やはりそういうことだったか。

 シンプルでいいな。得点は三百点満点か。

 それとも、割った風船の数÷秒数か?


 得点は、第一試練の会場に到達した際に渡されたペンダントに刻まれている。


 どちらでもいい。

 一瞬ですべてを破壊してしまえば済む話だ。


「順番に行う! 一列に並べ!」





 私の順番が回って来た。

 風船は破裂しても、次の順番が回って来たらすぐに再生した。

 

「それでは……始め!」


 これまでの受験者たちは剣技や魔法で風船を破壊していた。

 手段は問われないらしい。


 風船は脆く、デコピン程度の威力で破壊できる。

 簡単な魔法で問題はない。


 ――パァァンッ!!


 私は連続で手を叩き、〈衝撃ショック〉の魔法を二重に発動させる。二回目は、少し強化しておいた。

 私を中心に半径十メートルほどの大気を揺らし、すべての風船を破壊する。

 

「終わったぞ」

「「…………一瞬で……」」


 私は踵を返し、次の試験会場へ移動した。

 少々驚かしすぎたか?

 まあいい。間違いなく高得点だろう。


 しかし、聞こえてしまった。


 私が詠唱をしていないことを指摘する声。

 私が魔法威力を増強させるマジックアイテムを保持しているのでは、と噂する声。

 まあ、何を噂しようが、そいつらの勝手だ。


 勝手に想像した世界で生きていろ!


 と言いたくなる衝動を抑え、会場を後にした。


 



 その後、三つの試練を行い……面接となった。


 面接会場まで転移で送られたが……まさか、学園長直々とはな。

 ぱっと見、よぼよぼ爺さんだと思ったが……強いな。


 波長を誤魔化しているが、まだまだだな。

 本来の波長が薄く見えている。……それとも、これすらわざとか?


「レスク・エヴァンテール。エヴィデンス伯爵の分家の証、エヴァンテールの姓を受け取りし者、か……」

「はい」


 爺さんは高みから見下ろしてきている。

 そして、それなりに私のことを調べたようだ。


「第二の試練。あれはどうやったのじゃ?」

「ただ〈衝撃ショック〉の魔法を二重で発動させたまでです」

「……ふむぅ。まあよい。合格発表は明日だ。では、行くといい」


 早いな。


 途端、私に〈転移テレポーテーション〉が掛けられた。

 行き先は学園の外か。このまま帰れということか。


 学園生活中の詠唱については……まあ一応、詠唱だけはしておくか?



 

 

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