第46話 AAランクアドベンチャラーだけど、受験します
そしてやってきた一週間後。
私は前日の内に王都に到着し、ワーグナーが押さえてくれていた宿で一泊した。
ワーグナーには本当に感謝しかない。なかなか良い宿だった。
そして、王都内に建てられた学園の門の前で、私は立っている。
学園……総じて学校には、何度も行っている。
意味するものは同じ。若者の養育機関だ。
形、名称こそ違えど、どこの世界にも存在するものだ。
魔法を再現できるほどの科学が発展した世界は、何度も経験した。
そこでも学校に行った。物理法則も理解したが……魔法に応用できる範囲は少ない。
計算して求めた値も重要だが、感覚で理解できるのなら、それが一番いい。一番信用できるからな。
そんなだから、学校で習う授業は、その世界独特の法則や実践でないと面白くない。
二度目以降は……習う気になれない。飽きる。
まあ、受けなきゃ単位がもらえないから受けないといけないんだけどさ。
しかし、コミュニケーション……人脈の形成という視点において、学校は最高だ。
暇つぶしの方法はいくらでもあるし、問題にはならない。
人脈形成のため、行くとしよう。
私は決意を新たに、学園の門を潜った。
私と同じように、入るのを躊躇う人もチラホラ。
抱いている感情はまったく違うのだがな。
…………あれは
私は視界の隅に、既視感のある人影を見つけた。
桃色の髪。…………あのドジっ娘だ。波長も同じだし、間違いない。
声はかけない。
今の私は仮面を被ったAAランクアドベンチャラーではなく、一受験者だ。
名前も名乗らなかったわけだし、このまま素知らぬ振りでいいだろう。
私の視線に気づいたのか、こちらを向いてきた。視線を察知するか。
しかし私は、ローズの波長が僅かな不安と動揺を見せたのを事前に察知し、素知らぬ顔で前を向き、その場から足早に去っていた。
コンマ数秒の差でしかないが、それだけで十分だった。
学園は広い。
しかし、目的地ははっきりしている。
学園の奥にある森。
森の前には、すでに多くの受験者たちが立っていた。
時たま見える強い波長は……教師陣だろう。それっぽく、紛れ込んでいるようだが……波長を隠しきれていない。
……いや、隠すつもりがないのか。
何人かは実力ある受験者だろうが。
▼
一時間後、ようやく最初の試験が始まった。
「第一の試練『チームサバイバル』!」
チームサバイバルか。
文字通り、チーム戦で行うサバイバルか。私一人で……というわけにはいかないようだ。
「森に入れば自動的にチーム分けが行われる。腕に巻かれた布の色が同じ者がチームメイトだ。さあ、入れ」
学園の入学試験――受験では、死者は出ないと聞いている。
しかし、それを過信している愚か者も多いと聞いていたが……予想以上だった。慢心している波長が多い。
しかし、何はともあれだ。
さっさと入ろ。
躊躇している人も多いが……ここで立ち止まっていては始まらない。
いざ物事が始まれば、緊張も和らぐというのに。早く入る方が得ということだ。
私が入ったことで、後に続く人が増えた。
きっかけ作りだ。
入ると〈転移〉が発動する。
ここら一帯に張られているようだ。
しかし、これが第一の試練の扉だ。拒絶はできない。
私は〈転移〉を受けいれた。
▼
私たちは森の一角に転移した。
周囲に魔獣はおろか、人すらいないようだ。
樹齢何年だ、この木々は……。
転移前に見えた木々の何倍もある直径。かなり奥の方に転移させられたらしい。
いや、そもそもここは、あの学園の森なのか?
……今考えることではないな。
やがて一分もしないうちに三人、私の周りに転移してきた。
なるほど、メンバーは私を含めた四人か。
そして、四枚の布が送られてきた。
これを腕に巻けばいいのか。〈転移〉の魔法が込められている。
これ以上は危険だと試験官に認識された場合、発動するのだろう。
「俺の役に立て」
一人が剣を抜き、こちらに剣先を向けてきた。
高価な布の衣服……。剣もよく精錬されており、魔力も宿っている。
どこぞの高位貴族の子か。
その傲慢な態度に、実力は伴っていない。
威圧的な態度の取り方だけは上手だがな。
まあ、この会場に集まった他の受験生よりは多少強いが……覇権争いには負けるだろうなぁ。以外と、誰かの腰巾着になってそうだ。
横には太り気味の少年が偉そうに立っている。
取り巻きか。どこの世界も変わらないな。
「ここにおわすはレサーレン次期伯爵家が嫡男、アモス様であられる!」
次期伯爵……つまりは子爵家か。回りくどい言い方をする。
ここは、私が上手く丸め込むとしようか。こういう奴の取り扱いには、ちょっとばかしコツがいる。
世渡り上手な人なら、得意事だろう。
「――この第一試練。一定時間生き残ればクリア。倒したチーム数、魔獣数によって加点」
「なんだ、そのルールは?」
「布の裏に書いてある。なら、レサーレン殿の目的を果たすのであれば……他チームを狩ればよい。違いますかな?」
「……いや、正しい。であれば、他チームを狩る。移動しよう」
アモスの言葉で、私たちは移動を開始した。
アモスとその取り巻き。もう一人は……平民の少女だ。
二人の、少女を見る目がときどき怪しい。思春期だなぁ……。
▼
三十分が経過した。
狩ったチームの数は四つ。
私が〈気絶〉で全滅させると、布の魔法が発動し、私たちのチームに加点された。
気を失っていては、魔獣に襲われかねない。
「――これにて第一の試練『チームサバイバル』を終了する!」
途端、〈転移〉が発動した。
正直、予想以上に骨のない試練だった。
そう言えば、自己紹介してなかったな。あいつが名前を名乗るだけ名乗って終わり。
やっぱり、あいつは支配者の器じゃない。