第37話 邪魔者?
再封印の手は残されていない。
直接勝負で勝つしかない。
悪魔ディヴィアル。
人型はしているが、全身が闇のように黒く、鼻も口もない。顔には、眼らしき二つの穴しか凹凸はない。
今は、その両手の指が〈鉄爪〉の効果によって、鉄以上の硬度と化している。
そして背中からは、体と同じ色の漆黒の翼が一対。
〈鉄爪〉は、魔獣のように、硬い爪を持つ生き物特有の魔法――刻印魔法かと思っていた。
だがディヴィアルのものは、刻印魔法ではないようだ。波長が見えている時点でな。
しかし、魔獣だけでなく、人型の悪魔にまで使えるとはな。……となると、私も使えるのかな?
ディヴィアルに翼が生えたことによって、空中での身動きも可能。
私の〈空中歩行〉を魔力消費なしで使えるようなものでしかないが、大ダメージを与えられる手が消えた。
身動きの取れない空中で、破壊力のある魔法を撃ちこみまくる。この手が消えた。
その分、被弾面積が増えたが……敏捷性がそれすら些末な問題にしてしまっている。
「ほな、こっちももう本気で行かせてもらいまっせぇ、兄さん?」
なぜ私を見る。
なぜ私だけを見る。
「では、私たちも本気で行こう。ウィグ」
「はい」
レイとウィグはそれぞれの武器――剣と槍を前に掲げた。
すると、武器から強烈な圧が生まれた。
波長は何も見えない。刻印魔法か。
何をするつもりかと思ったが。まだ奥の手があったってわけか。
「聖騎士とは……この〈武器解放〉の付与された武器を扱い、自分の意志で発動させることができる者」
ふむ、〈武器解放〉か。
これは武器屋の親父が扱えたため、一度見させてもらったときに覚えた。
波長は三つ。
しかし武器に付与しても、武器自身が耐えきれるとは限らない。
それどころか、大抵は耐え切れずに崩壊する。
私やアレオ・ピァンスの持つ、精霊の宿った武器には掛からない。その前に弾かれるのだ。
「何より、私たちの武器は特別製。魔法を発動させると、私たちも強くなる」
なるほど、確かに。
二人の波長は強くなっている。
そして、武器は見た目こそ変わらないが、何か毛色が変わった。
鋭利さも桁違いに増しただろう。
二人の武器は特別製と言っていた。
たしかに、〈武器解放〉にしては、強化度が高い。
芯に何か特別な素材を使用しているのだろうか。
「なんやなんや? 期待させてくれるやんか」
「――軽口を叩けるのも……」
「それまでです!」
興奮するディヴィアルの両横にレイとウィグが立ち、武器を振り下ろす。
本当に一瞬の出来事だった。
「――なんや、期待外れやの」
しかし、ディヴィアルは動きに対応していた。余裕すら感じられる。
まあ、私でも反応できるな。
しかし、今のは魔法も気もない――純粋な肉体能力によるものだった。
……肉体強化系の魔法、意識下で気を使用する術を持っているのかは謎だ。
「――〈斬撃〉」
「――〈突〉」
二人はディヴィアルに向かって、可視化した斬撃と刺突の魔法を連続で放つ。
「言うたやろ、期待外れや……って」
今は私の出る幕ではない。
手を出していい場面ではない。
そして二人は一度、攻撃の嵐を止めた。
そして、それぞれの武器を今一度、大きく構え直した。
「「――破っ!!」」
二人は武器をディヴィアルに突き出した。
ガシッと、ディヴィアルが二人の武器を片手で掴む。
〈鉄爪〉により、ディヴィアルの手は……指は、鉄以上の硬度だ。
刃物を手で掴んでも、大きな傷はつかないだろうな。掴み方にもよるだろうが。
にしても、その掛け声は決まりか?
二人揃って同じ掛け声……。
「遊びはここまでや」
途端、悪魔の纏うオーラが強くなった。
波長は変わらない。やはり手を抜いていたのか。
それでそこそこのダメージを負っていては世話ないな。
「聖騎士の兄さんと姉さん。確かに、強くはなったのは目に見えんねんけど、悪魔を舐めんことや。素の強さが違うんやで」
「ぬ……抜けん!!」
ウィグとレイが必死の抵抗を見せるが、剣と槍はびくともしない。
「あんたらはもう用済みや。そこの兄さんと戦う上で、あんたらは邪魔や。あの兄さんを倒した後で楽しんだる。それまで寝とき」
ディヴィアルは二人の武器を握ったまま、自分を軸に回転する。
レイとウィグは抵抗……声を上げることすら許されず、それぞれ壁に激突した。
二人は後頭部を強くぶつけたことにより、失神。
手加減が上手いな。
「さて、これで邪魔ものはおらんなったな。心置きなく戦いましょうや、兄さん」
「邪魔もの……? 貴重な戦力だ。私が不利になっただけではないか」
「まさか。何を言ってはるんですか? 兄さんが本気を出す上で、他のやつらは邪魔やろ?」
ふむ……。言われてみれば確かにそうだ。
しかし、味方が邪魔なら、邪魔と感じないようにすればいいだけの話だ。
――ただそれだけ。
まあしかし、これで心置きなく戦えるのは間違いない。
既に、レイとウィグを守るように〈障壁〉を張ってある。
「さあ、行きましょ!!」
ディヴィアルは強く地を蹴り、私の眼前に急接近した。
ディヴィアルは既に、右手で手刀を作り、大きく振りかぶっていた。指の部分は鉄以上の硬度だ。
私は剣を水平に構え、その手刀を受け止める。
ガキンッ! と甲高い音が周囲に大きく響く。
「さあ! 兄さんも本気、出しいや!」
悪魔は咆える。