第132話 親への誕プレ探し
私――レスク・エヴァンテールは、気持ちを一新し、王都内を物色していた。
この夏休みの最重要目的である、育ての親であるワーグナー・エヴィデンスとガイオス・エラドの誕生日プレゼントを探すこと。
たまたま、夏休みの初っ端にいい素材が手に入ったから、それを利用するかたちで何かしらのオーダーメイド品を作ろうかと思い、他の素材を探していたんだが……。
珍品を期待してアンウェンの地下オークションに行けば、ハトホルの仮面の持ち主とその一派に絡まれ……。なんなら、今も狙われている。
その件は意外と根が深く、オークションとも手を組むこととなった。
私としては、降りかかる火の粉を払うだけで良かったのだが……。
結局、火の粉どころか、火そのものを叩くこととなってしまった。正直、面倒。
だがまあ……うん、ついでか。
それでプレゼントに関してだが…………会長に相談した。奥の手だった。
貴族のご令嬢ともなれば何かいい物を知っているのではないか、と思ってのことだった。
それで会長曰く、「すでに持っていたとしても、精一杯選んだものなら、普通の親は喜んでくれる」だそうだ。
親としても子としても祖父としても過ごしたことはあるが、二人への恩が大きいせいで、その感覚をすっかり忘れていた。
会長には感謝だな。
エルゲレンの鱗に拘る必要もなくなった。
そんなこんなで、私は王都内のとある店屋の近くで、クスレール・ヴェアンテの姿である人を待っていた。
本来なら、レスク・エヴァンテールとして、ホルスの仮面を着けてぶらぶらと歩きたいところなんだが、今日はゆっくりしたい。
私の方へ真っ直ぐ向かってくる
「お待たせ」
「仕事は順調か? ……アルグレット」
「なんとかね」
そう、待ち合わせをしていたのは、悪魔アルグレット。
…………と
「お待たせ」
――王女だ。
「……よく一人で出て来れたな」
「王都内なら大丈夫」
どうも、会長が王女に、私に相談されたことを話したらしい。
確かに、他言無用とは言っていない。しかし、よりによって王女かぁ。
ちなみに、アルグレットには以前からショッピングに付き合ってほしいと言われていたからな。
ついでだ。……アルグレットがついでな?
王女様は普段、城にいるはずだ。
顔を隠しているとはいえ、城の外で出るにも、護衛が――この王女に必要なのかは知らんが――就くはずだ。
……護衛役。
…………。ふむ…………護衛役は私か?
普段の姿じゃなくて良かった。
ちなみに、この姿ではアドベンチャラー登録していないから、帯剣することができない。
あくまで一般人の格好をしている。
見た目高価そう(実際に少し高い)な服を着て、〈防護膜〉の発する魔力反応を誤魔化している。
少なくとも、王女の盾になることはできる。
「それじゃ、行こうか。おすすめはあるか?」
「ないわ」
と、アルグレット。
王都内を、時間があるときによく探索していると聞いたから、目ざとく何かを見つけているかと思ったが……。
やはり、仕事の方が忙しかったか。
「たしか、うちのメイドたちがよく話しているお店があったはず……」
「それはどんな店だ?」
「――雑貨屋です」
突如、王女の影から別の声がした。
同時に、ごぼっと王女の影が揺らいだ。
「護衛がいないと思ったら、そんなところにいたのか。どんな魔法だ?」
「…………」
「だんまりか。仕方ない」
……波長はかなり薄く、隠されている。
そこに魔法があると思って注意深く見ないとわからない。
だが、あると分かった今、その魔法の正体を見破ることは容易い。
ふむ……案外簡単な魔法のようだ。
波長は二つ……〈潜影〉か。だが精々、人や物の影に潜る――隠れるだけ。
反魔法をぶつければ、出現するのだろう。
「それじゃ、店まで案内をよろしく頼む」
「わかりました」
影の中から、護衛が平坦な口調でそう答える。
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王女の護衛の案内のおかげで辿り着いた店は、どこからどう見ても一軒家のような店構えだった。三階建て……かなり高そうだな。
人も少ない。……穴場だな。
マジックアイテムショップ……ではないのか。店名は……クリスタル・コレクション?
「ここはアクセサリー店で、ここの商品が贈り物として人気なのです。好きな石を選んで、オーダーメイドでアクセサリーを作ってもらうこともできます」
「ほう。何とも、私の理想にピッタリではないか」
私たちは店の扉を潜り、中へ入った。
商品棚は、色とりどりな色の石で溢れていた。とは言え、種類はそこまで多くない。一色辺り、ほぼ一種類。
そもそも、棚の数がそこまで多くない。
建物全体が家というわけではないようだ。店になっているのは一階部分だけか。
なるほど。
それぞれの石に意味が込められているのか。
贈る相手に適した意味を持つ石を選び、それで……そうだな、ブレスレットがいいか。
ふむ……。
やはり、心躍るな。こういう、完全オーダーメイドを作るときというのは。
そうだな……あの、黄色と淡い半透明のやつと灰色……かな。
黄色――シトリンは幸運、人間関係の安定、自身と活力。
淡い透明――カルセドニーは心の安定。
灰色――スモーキークォーツは不安や焦りの鎮静、心を強くする。
二人への贈り物としては、これらがいいだろう。
私はそれらを同じ数ずつ籠に入れ、ついでに黒い石――黒水晶を三つ手に取り、カウンターに立つ若い男性店員の元へ持って行った。
「これでブレスレットを二つ、お願いします。それと、これでネックレスを三つ」
「かしこまりました」
「それと、これを中央に付けてもらうことはできますか?」
私はエルゲレンの鱗を二枚、店員に渡した。
「……できますが、お品物のお渡しは明後日となります。よろしいでしょうか?」
「はい、それでお願いします」
「ではここにお客様のお名前を。お渡しは店頭のみでのお渡しとなっております。一週間を過ぎた場合、取引は中止となります」
はいはいはい、と。
万が一私に何かあっても、分身体を寄越す余裕ぐらいはあるだろう。問題ない。
「それでは、お代金が……三万二千リルになります」
私はブレスレットから一万リル三枚と千リル二枚を取り出し、渡した。
「毎度、ありがとうございました。ネックレスはすぐに出来上がるので、少々お待ちください」
そう言うと、店員は奥へ引っ込んでいった。
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後日、ワーグナー・エヴィデンス、ガイオス・エラドの元に、丁寧に梱包された郵便物が届いた。
付随の手紙には、こう書かれていた。
――誕生日おめでとう。エヴィデンスの血盟、レスク・エヴァンテールより