第128話 オークション側の思惑
一度、昨日の状況を整理しよう。
ホルスの仮面を狙う、ホルスと同シリーズの仮面であるハトホルの仮面を身に着けた、ハトホル。
ハトホルの敵勢力かと思っていた死人のような顔の連中は、なぜかハトホルと協力関係であることが判明した。
つまり初めから、ハトホルの自作自演だったというわけだ。
となると、オークション勢力が再び謎となる。白か黒か。
…………ってわけで、本日。
私はアドベンチャラー数名を(もちろん、それなりにまともで強めな連中を多めに)伴い、オークションに押し入っていた。
ハウスに事情を話し、AAランクアドベンチャラーという肩書を盛大に利用した結果だ。
もちろん、ここまで迅速に事を進めることができたのは、こっそり忍ばせていた映像記録マジックアイテムを支部長に見せたからこそだ。
なぜこんなに用意周到なのか。理由は簡単だ。
初めから、ハトホル――ラブには不信感があったから、念のためにと思い、ハウスに依頼して取り寄せておいたのだ。
それをこっそり忍ばせておいた。盗撮だが、仕方ないと思ってもらおう。結果オーライだったしな。
多くの貴族が利用する、アンウェン地下オークション。
そこへの調査ともなると、多くの貴族から圧力がかかるが、幸いにも、ここの領主であるメニタ男爵から許可が下りたため、こうした半ば強行突破が可能となった。
AAランクアドベンチャラーの称号と、シンシルスとの友好関係が功を奏したな。
オークションの本拠地は、当たり前だが、オークション会場。
政府公認済みの会社だから、諸々の情報は、ある場所にはきちんと保管されている。アドベンチャラーハウスとその他諸々の顕現で開示させた。
従業員が何人かいるはずだ。
私たちは、メニタ男爵の教えてくれた通路を通り、オークション会場へ乗り込んだ。
扉に手をかけるが、鍵がかかっており、開かない。
今は一刻を争う。
確認を取るのに時間を稼がれては、重要な証拠を隠されてしまうことがある。だから、即座に突入、調査する。
調査の基本だ。
「……少し離れて」
私は他のアドベンチャラーたちを下がらせた。
一応、扉がただの扉――弁償可能であることを確認しておく。
そして創造した剣で、扉と壁の隙間を切り裂いた。
剣を鞘に戻し、私は扉を軽く押した。
扉は、一切の抵抗なく開いた……倒れた。
「なっ……」
「賊か!」
「――調査令状だ」
私は手に持った紙をかざした。
ハウス、並びにメニタ男爵から出された礼状だ。
そこに圧された印は、どちらも正真正銘、本物だ。
「代表者を呼んでもらおう」
「わ、わかりました。すぐに呼んできます」
「私がついていきます」
「頼んだ」
アドベンチャラーの一人が、代表者を呼びに行った男についていった。
下手に証拠隠滅でもさせられては困るからな。
わずか数分後、一人の女性が二人に連れられてやってきた。
……若い。そして、それなりに強い。
さすがは謎の多いオークションの代表者、と言うべきか。
「初めまして。私は、当オークションの管理者をしております、ガンマ・レイザンドと申します。本日はどのようなご用件で?」
「これは丁寧に。私はAAランクアドベンチャラー、レスク・エヴァンテールと申します。……まずはこの映像をご覧ください」
私は、ガンマ・レイザンドに例の映像を見せた。
映像が先日の戦闘シーンに入ったところで、ガンマの顔色が悪くなった。
「この仮面は……ッ」
「知らないわけがないでしょう? その仮面はオークションの司会者が着用しているもの」
「ええ。ですが、これは映像を見た限りだと……本物のようですね。まさか、あのときの……。…………ようやく!」
ガンマはニヒルな笑みを浮かべた。
それに合わせ、魔力も少々漏れ、殺気も漏れている。
「エヴァンテール殿、こいつの居場所を突き止めればいいんですね?」
「ええ、そうですが……」
「ではこの一件、私どもにお任せを。この女は、オークションが全力を持って突き止め、捕獲してみせます」
「捕獲…………いや、まてまて。勝手に話を完結させるな。私たちにもわかるように話してくれ」
話がトントン拍子で、まるで伝わらない。
まあ、何となく話の調子で状況は読めなくもないが、聞いておいて損はないだろう。
「ええ…………申し訳ありません」
ガンマは元の営業スマイルに戻り、私たちの方へ向き直った。
「十年ほど前の話です。当時、私はマジックアイテムの管理主任でした。そんなある日、一人の賊に入られ、その仮面が盗まれました。それは、オークションである貴族に競り落とされたばかりの品でした。賊の手がかりは、何も……」
なるほどな……。
盗まれたのがハトホルの仮面。それをラブが盗んだ、と。
きっと、オークションに参加していたが、落とせなかった。だから盗んだ。
ハトホルの仮面を身に着けているのなら、その賊と少なからず関係性はある。
オークション側が協力的な姿勢を見せていることに道理が通る。
「なるほど。しかし、警備主任だったガンマ殿がなぜそのような不祥事を許しながらクビにならず、おまけに代表者にまで?」
おかしな話だ。
賊に入られた時点で、警備主任には少なくない責任がのしかかる。
おまけにそれは、購入済み。購入したのは貴族。場合によっては、首が飛びかねない。
「当時、熱を出して寝込んでいたもので……。おかげで、私に責任は一切負わされることはありませんでした。代理として警備に当たっていた者たちは、解雇を余儀なくされましたが……」
「……結局のところ、クビで済んだ、と……」
「ええ。これも、エヴィデンス伯のご厚意のおかげです」
まあ確かに、下っ端貴族の大半は下手にプライドが高いからな。
……それ以前に、物を盗まれた時点で、貴族のメンツに泥を塗られたも同然。罰は免れない。
その罰がクビ、か。適切な判断だろう。さすがはワーグナー。
しかし、なるほどな。
物を盗まれたことで、オークション側のメンツは丸潰れ。
何なら、消滅の危機すら見えていた。
仲間も失った。
オークション側がハトホルを狙うのも当然だ。