第123話 最北端の遺跡探索
ラブと遺跡を目指して旅を始めて六日。
ようやく海が見えてきた。もちろん、死人のような男を見張っている〈千里眼〉で、だがな。
だが、大して高度は高くない。すぐに青が見えるだろう。
「そろそろ海だが……遺跡のような建造物は見えなかったぞ。どこにある?」
「遺跡は海沿いの崖にあるのさ」
なるほど、そう来たか。
しかし、男はまだ遠くでこちらを見張っている。
使い魔も、よくこの旅を無傷で耐えきったものだ。幾度か魔獣に襲われかけていたが、ギリギリで男の下へ帰還し、危機を回避していた。
よく訓練された証だ。
いや、徐々に距離を詰めてきているが……何かを待っているように見える。
おそらく、これ以上は詰めて来ない。
ふむ……。
周囲(最大距離にして半径十キロほど)を探ったが、他に人影は見られない。
一応、人数が追加になっても安全に通れるように、魔獣との戦闘痕を若干派手に残したというのに。余計なお世話だったか?
まあ、それなりに強い魔獣が数体ほど襲い掛かってきたからな。
どちらにしろ、それなりの戦闘痕は残る。
綺麗に毛皮を残したまま殺すのに苦労した。
だがそのかいあって、上品質の毛皮が手に入った。
これらを街の服屋で服にしてもらおう。そんなサービスがあるのかは知らんが。
「……で、崖に捕まって降りていくのか?」
「いや、実は隠し通路が見つかってるのさ。そっちから入るさ」
ふむ……。
どちらかと言うと、崖の入り口の方が隠し通路のような気がする。
ウーゼンティシス家のシークレットビーチみたいだな。
「えーーっと……たしかここら辺……」
ラブは地面に膝をついて、手で地面を探っている。
私が〈地面探知〉を使えば早いんだが、まあいいだろう……。
私は片目を見張りに当てているし、そもそも用心棒だし。
「…………あ、あったさ」
ラブは地面を掘り返した。
海沿いだからか、草が少ないおかげで、素手でも地面は掘りやすい。
ラブが掘った地面から、何やら模様の彫られた平らな石が現れた。
「これが入り口か?」
「そうさ」
「ただの、模様の彫られた石のようだが……」
入り口って言うより、壁だな。ここを突き破って侵入……じゃないよな、さすがに。
「えっと、こうするのさ」
ラブは模様の一部を指でなぞった。
全部をなぞるわけじゃないんだな。これもトラップの一つか。思ったよりも厳重な警備なんだな。
――ガコン
次の瞬間、石の模様が淡く光った。
そして石は消え、下へ続く階段が現れた。
「さ、行くさ」
ラブは既に、手に地図を持っている。
チラッと見たが、そこそこ複雑な造りをしているようだ。だが、目的地までは意外と近いようだ。
地図の脇には数枚の写真が貼られている。あとで見せてもらおう。
しかし、あいつはまだやって来ない。
使い魔も未だ上空を飛び続けているし……私たちがブツを持って出てきた瞬間に襲ってくるといったところか?
馬鹿だなぁ。
私はラブに続いて、階段を降りて行った。
▼
ラブは地図のおかげで、迷いなく進んでいる。
所々、侵入者撃退用の自動人形が設置されているとラブが言っていたが、ラブはそれらを綺麗に避けるようなルートを進んでいる。
ゴーレムを倒しても、手に入るのは土の塊ぐらいのものだ。
ああ、核に使われていた魔鉱も手に入るな。どうせパプリエル鉱石だろうけど。
「……この通路の先のゴーレムとの戦闘だけは避けられそうにないさ」
「よし、任せろ」
「気を付けるさ。ここを調査した人たちは一度も戦わずに逃げたらしいのさ。強さは未知数さ」
「任せておけ。強さはある程度計ってやる」
そうだな。魔法を波長別、属性別に使い分けて一歩ずつ探って行こう。
余裕がなかったら本気で相手するが。
あのハンターたちを相手にする余力は残しておきたいしな。
「それじゃ、ちょいと行ってくる」
私は曲がり角を飛び出し、通路を全速力で駆けて行った。
通路の先の行き止まり――扉の前には、四つの、様々な武器を持った全身鎧が立っていた。武器は大剣、槍、大盾、弓。
弓を持っているゴーレムは…………矢はどうしているんだ?
…………ああ、武器は四つとも魔法が込められているな。ゴーレムの魔力で見えにくくなっていてすぐに気付けなかった。
核は……腹のあたりだな。
その部分だけ魔力が若干濃く、強い。
ふむ……。
見た感じの強さでは……大山脈の西側の洞窟に出現したバケモノぐらいか。
ほら、あの……三つ目と四本の腕、緑色の肌、三本の尾を持ち、耳元まで裂けた口とびっしり並んだ細かい歯の謎生物。
あいつは三つの心臓――核を破壊した瞬間、跡形もなく消えたから、実際の強さはわからなかった。
私はライアル鉱石を取り出し、〈武器創造〉で剣を作った。
魔法で一方的に攻撃するから剣を使うことはないのだが……まあ、万が一だ。
そして、私の気配を察知したゴーレムたちが、ギギギ……と鈍い音を立てて動き出した。
そして各々が武器を強く握り、その兜のスリットから、怪しい光が漏れ出る。