第122話 北へ
翌日、私はラブとともにアンウェンを旅立った。
長旅ということだが、必要な物資は大体、次元ブレスレットに収納済みだ。快適な野宿をお約束できる。
そもそも、初めてアドベンチャラーとして旅立った日に、ワーグナーから貰っていたしな。飲食物を買う程度で済んだ。
行き先は、北にある、ただの海岸。周囲には村も何もない場所だ。
つまり、そこには遺跡か何かがあるのだろう。
「行き先は発見済みの遺跡さ」
遺跡か。
となると悪魔召喚のアイテムも、大昔の産物ってところだな。
大山脈の西側にあった遺跡には、封印された悪魔がいた。
やはり、王国建国以前にこの辺りにいた人間は、悪魔の召喚術に長けていたのかもしれないな。
悪魔を信仰する宗教が、ここら一帯に広く伝わっていたのかもな。
しかし、遺跡が発見済み、か……。
「発見済みの遺跡だと? そんな場所に悪魔召喚のマジックアイテムが? ガセネタじゃないのか?」
「こちら側からすれば、ガセならガセで構わないのさ。もしそうだとしても、報酬は変わらないさ。依頼内容は護衛で登録してあるさ」
「そうか……」
まあ確かにそうだな。
私はあくまでアドベンチャラーとして依頼を受けた。おまけに、私はAAランク。依頼料は安くない。
うむ、金額通りの働きはするとしよう。
だが、〈閃撃〉は使わない。
ゆっくり歩いていこう。
それにもしかしたら、上質な魔獣の素材が入手できるかもしれない。
そうなったら、エルゲレンの鱗と一緒に、魔法を付与して埋め込んでみよう。
上質な毛皮が取れたら、それで服を作ってもいいかもな。
物理と魔法、両方に耐性のある、金属鎧にも匹敵する防御力を持つ最硬の服の完成だ。
ワーグナーの持つあの服より……王族の持つ服よりも硬い服を作ってみるのも面白そうだ。
そして何より、服の方が鎖帷子よりも軽いしな。
しかしこういう旅でこそ、ホルスの仮面から得た〈生命探知〉と〈熱探知〉が役に立つ。
まあ、森に入ると、どちらを使っても視界がうるさくなるだけなんだが……そこは〈透視〉を合わせて、邪魔な木々を見えなくすれば解決だ。
「遺跡の内部の造りは、もうわかってるのか?」
「発見済みだから大丈夫さ。特殊なルートで入手した地図もあ――」
「――待て。向こうの森の中に一人、こちらを窺っているやつがいる。……適当に話でもするか」
殺意こそ隠しているが、眼が明らかに獣を狙うハンターのそれだ。
もちろん、そいつとの距離は、最低でも百メートルは離れている。
気配察知後に〈千里眼〉で観察し、そいつが私を狙っていることが確定した。
ほう……私の視線に気づくか。
気のせいだと視線を逸らさず、ずっとこちらを見ている。完全に視線を察知しているな。
だが、私はラブと他愛ない話をしている。
加えて、視線の先に私はいない。
第三者――オークション側の新手の勢力の可能性に行きつくだろう。
さて、そろそろ森に入る。
ここに入れば、もうここのような草原は存在しない。ずっと、木、木、木……の視界が続く。
ふむ。ここで落としても、更に強力な追っ手が来るだろう。
それこそ、また自爆されかねない。ああいうのはチームの方針だったりするからな。
となると……
『ラブ、あいつはこのまま放っておこう』
私は〈念話〉を発動させ、ラブと心の中で会話する。
『……わかったさ。でも、大丈夫さ? 寝込みを襲われたり……』
『安心しろ。依頼主には快適な睡眠を約束する。このまま進むぞ。おそらく、やつは遺跡に着くまで手出しはしてこない』
復讐、というのは少々考えにくい。
あいつらの存在意義はあくまで、マジックアイテムハント。
おまけに、昨日のあいつは自爆した。自爆までの決断はかなり早かった。
そんな連中が、自爆した仲間のために復讐?
簡単に命を投げ出すような連中だ。命に対する価値観も当然、安い。仲間の命に対する価値観だけ高い、なんてことはあり得ない。
あれば、組織を潰してやる。
『わかった、任せるさ』
『……ところで、何だが。お前に防衛能力はあるのか?』
『魔法は苦手だけど、それ用のマジックアイテムはいくつか持ってきたさ』
マジックアイテム頼りか。少しばかり不安だな。
まあいいか。案外、馬鹿にできないかもしれない
『具体的にどんなアイテムがある?』
『使い切りが多いから……精々、目眩ましのアイテムが多いさ』
『ああ、十分だ。攻撃用は?』
『えっと、四属性の弾を発射するアイテムしかないさ。あとはランダムボックス』
攻撃向きのマジックアイテムは少ないのか、それとも持ち出し条件が厳しいのか。
しかし、まあ、最低限の防衛手段はあると見てよさそうだ。
目眩ましのアイテムは物によるが、使える。
もちろん、私の眼あってこそだがな。肉眼が見えなくなっても、魔法的眼があれば問題ないしな。
『それだけあれば十分そうだな。なるべく使わせないようにするが……』
『わかったさ。頼りにしてるさ』
『ああ、任せておけ』
あいつは〈千里眼〉で常時見張るとしよう。
いずれ気のせいだと勘違いしてくれたらいいな。
となると……上空から見るのが一番だろう。行き先を把握するためにもな。
できれば、魔獣をけしかけて手札を暴きたいが……どうやって誘導すればいいのかわからない。
おそらく、あいつは使い魔を使って上空から私たちを観察している。……あの鳥がそうだろう。
それにしても、こいつも死人のような顔なのか。
結構過酷な労働環境だったりするのかな。