第121話 オークション側
――ズンッ!
鈍い音を響かせて、男は自ら命を絶った。
「なんなのさ、あいつは」
「被害は周囲の家が……四、五軒か。思ったより軽かったな」
男の自爆の威力は、私の〈障壁〉が大半を吸収した。
結果的に〈障壁〉が破壊されたことから、それなりの威力はあったのだろうな。
「はぁ、被害報告が面倒だな。容疑者死亡、おまけに木端微塵」
「あ、でも、会場の入り口は無事さ」
「巻き込まないよう、戦いながら離れてたからな」
あいつは軽かったからな。
少し蹴るだけで通路を一本、突き進んだ。
……そうだ、住民の安否確認をせねば。
っと、こいつをどうすべきか……。
「ラブ、お前はどうする?」
「どうするもなにも、まだ本題を話してないさ」
ふむ、そう言えばそうだったな。
だが……優先順位をハッキリさせないとな。
「ま、それはまたあとだ。とりあえず、私は住人の救助をせねばならない」
被害にあった家屋はばらばらだ。中に人がいたら、一刻も早く安否確認しないとな。
先ほどの音で、住民に不安を与えたか。仕方ない。誘導もせねば。
「――お休みのところ、お騒がせして申し訳ありません。事情があり、街中で戦闘が行われました。しかし、もう心配ありません。私、レスク・エヴァンテールが捕縛致しました。続けて、お休みください」
ふう……。こんなものだろう。
さて、瓦礫の山を片付けに行くとするか。
「ラブ、お前はもう帰って寝ていろ。お前はここにいなかったことにする」
「でも本題がまださ……」
「明日の昼、ハウスに来い。そこで話は聞いてやる」
「わかったさ」
話は聞くが、受けるかどうかは別。
それに、ハウスで話をすれば、依頼料を取れるかもしれない。
「それじゃ、適当な場所に転移させるぞ」
「……転移まほ――」
言い切る前に、〈転送〉を発動させ、ラブを適当な場所に転移させる。
さて、後始末をせねばな。
そろそろ眠いし、急ぐとしよう。何時間寝れるかな。
▼
翌日。
昨夜私は、瓦礫と化した建物に埋もれた人々を救出、回復させた。
立地の悪い場所だったし、人も少なかったのが不幸中の幸いだった。
その後、騒ぎを聞きつけたハウスが何人かのアドベンチャラーを寄越してきた。
そいつらに事情を説明し、夜だったということもあり、事態は日が変わる頃には収集がついていた。
ハウスの職員はにわかには信じがたいと言った様子だったが、私がAAランクアドベンチャラーであることが幸いし、話はすぐにまとまった。
おまけに、私の特異な立ち位置と、今現在置かれている状況も知れ渡っているようだったからな。
貴族たちからの信頼を勝ち取らないといけないこの状況で、そのような馬鹿な真似はしないだろう、と思ったのだろう。
まあ事実、正解だ。
小さな罪も犯せない。
少しの悪評も立てられない。
そんな完全超人を演じなければならない状況にあるのが、私だ。
それにたまたま、私とあの男の戦闘を、窓から覗き見していた者が二人いたようで、それが裏付けとなった。
そいつらはもれなく瓦礫の下にいたがな。
おっと、ようやく来たようだ。
「ラブ、昨日はよく眠れたか?」
私はハウスの入り口を潜って来た少女に声を掛けた。
――そう、少女だった。
仮面は着けておらず、その素顔が露わになっていた。童顔なだけの女性か?
ピンク色のボブの髪は変わらないが。
重要な、年がまるでわからない。
魔法で姿を変えている、隠している様子はない。
私の質問を受け、ラブは頷いた。
「さて、談話室を押さえてある。話はそこで聞こう」
「うん、よろしくさ」
話し方は変わらず、と。素であの喋り方だったのか。
私たちはハウスに備え付けられている談話室へ移動した。
ここなら一目は気にしないでいいし、盗聴される恐れもない。
「さて、話してもらおうか」
私は適当なソファに深く腰かけ、向かいに座るように促した。
ラブはソファに、若干前のめりで座った。
そして、口を開いた。
「あっちの依頼は、とあるアイテムの回収さ」
「アイテムの回収? お前やはり、昨日のマジックアイテムハンターと関わりが……」
「いや、あいつらが狙うのは特殊なマジックアイテムばかりで、どれを狙ってくるのかはまるでわからないのさ」
すべてのマジックアイテムを狙うわけではない……か。
しかしそこには、何かしらのルール……共通点があるはずだ。通り魔のように活動をしている集団じゃなさそうだったしな。
「ふむ……。そのアイテムの回収をするのはいいが、狙われるかもしれない、と」
「そうさ」
「アイテムを回収したあとはどうする? 売りさばくのか?」
「いや、今回のはあっちらオークションで保護するさ。あっちらは、悪用されたらまずいマジックアイテムを管理、保護もしているのさ」
ふむ……。
昨日のこともあるため、先入観でラブ側が正義の集団のように見えるが、客観的に見れば、やっていることはどちらも同じだ。
これもラブの策略かもしれない。
嘘は吐いている……というより、何か悪いことを考えている人特有の波長は見当たらない。
まあ、ラブがそもそも騙されている可能性と、それを悪行と考えていない可能性もある。
死は救い、だとほざいて人を殺すどこぞの神とかな。
「それで、どうさ? あっちらに協力してくれるさ? もちろん、リターンはそれなりに用意するさ」
ふむ……。
まだまだ判断材料が足りない。
「回収するアイテムの効果は?」
「……悪魔を召喚するアイテムさ。……これでも、商売人の端くれ、嘘は吐かないさ」
ほう、悪魔召喚のアイテムか。
確かにそれは要保護だな。
――行くしかあるまい。
「わかった、行こう。だが、騙していると感じたそのときは……」
「わかってるさ」
「出発はいつだ?」
「早ければ、明日の朝にでも……」
早いな。いいことだ。
「わかった。では明日、ハウス前で」
「長くても二週間程度の長旅になるさ。準備はしっかり頼むさ」
「わかっている。それじゃ、依頼料についてなんだが……終わったあとで頼む」
「……わかったさ」
これで、ラブは依頼者、私はアドベンチャラーの立場を確立することができた。
ひとまずは安心だな。