第120話 マジックアイテムハンター
「お前の要件はなんだ?」
私がそう問いかけると、私の仮面――ホルスの仮面と同シリーズの仮面、ハトホルの仮面を身に着けたこいつ(性別不明)は、にやりと笑みを浮かべた。
頬の動きだけで、笑顔だけは判別できる。
こいつは、オークション会場で司会として立ち回っていたはずだ。
私はオークションを途中で抜け出したが、出た先で声を掛けられた。別人か?
「……その通りさ。さすがはAAランクアドベンチャラー、【学園最強】レスク・エヴァンテールさね」
「ほう……私を知っているのか」
ふむ。私も有名になったものだが……アドベンチャラーとして活動していたときはホルスの仮面を着用していたしな。
国王の情報統制も解けたし、知る人は、学園の生徒である私がAAランクアドベンチャラーであると知っている……というわけか?
「あっちのことはラブとでも呼べばいいさ。あっちは当分、お前をレスクと呼ぶさ」
「本名は公開しないのか?」
「しないさ。あっちはあくまで、地下オークションの司会。裏社会の人間さ……」
「……まあ、好きにするといい」
……当分、と言ったな。
もしかして、最悪にまずいことをこれから言われるんじゃ……。
「――見つけたぞ、盗人」
そのとき、暗がりから第三者の声がした。
通行人かと思っていたのだが、そういうことだったか。
「おい。やはりお前、その仮面……」
「あいつらの勝手な思い込みさ……」
…………仮面が火種で間違いないようだな。
「その仮面、返してもらうぞ」
ふむ……この男、なかなか強い。
男は左右の壁を蹴り、私たちの上へ移動した。
素晴らしい身体能力だな。
「……その仮面、ホルスだな。……貰うぞ」
ふむ……そう来るか。
このままおさらばしようと思ったのだがな。割と本気で。
「お断りだ」
男の踵落としを躱し、男の顔面に掌底を食らわせた。
「――ふがっ」
…………軽い?
攻撃を受けたと同時に、体(特に頭)を攻撃と同じ方向に動かしたのか。
男は結果的に吹き飛んだが、吹き飛ぶ手前、私の仮面に手を伸ばしたのが見えた。
どこまでも貪欲な……。
「おいラブ。こいつらはなんだ?」
「マジックアイテムハンター。正直、あっちにもよくわかんないのさ……。でも、なぜか魔法は使わないのさ」
ふむ……。
――道理でこいつから魔法の気配が感じられないわけか。
「――『魔法よ、去れ』」
これは……っ!!
「魔法が……」
魔力を外に出すことができない……。
体内で自己完結させることはできるが……なぜか外にだけは出せない。
「お前たちお得意の魔法は、これで使えないぞ」
「あっそ。でも、これで勝った……なんて思わないことだな」
私は〈閃撃〉を一瞬だけ発動させ、慣性の法則を利用し、男との距離を詰める。
大して距離がないから一瞬にしただけだ。
体内完結の魔法だから発動させることができたようだ。
それに、〈防護膜〉が壊されたせいで、速度を出し過ぎると体を守られない。
完全に魔力を排除する空間だな。
私はそのまま、男に回し蹴りを食らわせた。
「くっ……。魔力を遮断してもこの力……只者じゃないな?」
「あ~~、魔法がすべてではないというだけだ。世界を知らなすぎだ」
私は、壁に体を預ける男の頭を掴み、持ち上げた。
気と霊気で体を強化しているだけのことだ。私に大して力はないが、強化すればこれぐらいのこと、私でも容易い。
しかし……なんだ、こいつ。
…………軽すぎる。
強化されているとは言え、まるで子供の体重だ。
それに、手応えもおかしかった。見た目は成人男性なのに、まるで子供を殴っているような感覚だった。
傷も浅そうだ。
なんなんだ、この男?
それに加えて、魔法が使えない。
この空間が、空気中に魔力が存在することを拒んでいるようだ。
だが、こんな壊れ能力だ。――どこかに限界値がある。
……強引に破れなくもない。
感覚だが、波長六個分の魔法を放とうとすれば……砕ける。代わりに、その魔法はキャンセルされるだろうがな。
拒んでいる、と言ったが、一定空間内に存在する魔力を吸収しているのだろう。
魔力を消すというのは、エネルギーを消すというのと同義。つまり、難しい。
エネルギー保存の法則に背く。
「くっ……ははっは。ホルスは私の手に負えないか……」
人を物の名前で呼ぶな。失礼なやつだな。
「増援でも呼ぶつもりか? 一応、お前は暴行の現行犯。状況から、お前を独房にぶち込んでもいいかもしれないな、とは思っているぞ?」
私は剣を抜き、男の喉元に当てる。
背後の月が反射した光のおかげで、ようやく男の素顔が明らかになった。
印象としては、『死人』。
だが脈はあるのか、頬が微かに紅い。
ただ、血の気がないだけか。そういう顔なのかな。
「逃走・闘争不可。ここまで」
「何を……。……ッ!!」
こいつの腹の中に感じる気配。……気か。
だが、今にも爆発しそうだ。いや…………自爆するつもりだと見て間違いない。
範囲は……不明。
転移……魔法使用不可。だが、こいつが爆発の兆候を見せた瞬間……死の間際になら……。
――カッ!!
と、周囲が眩い光で包まれた瞬間、私は〈全体転移〉と、男を中心に〈障壁〉を展開した。