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第12話  アドベンチャラー・ハウス

「ようこそ、当ハウスへ。どういったご用件でしょう?」


 受付カウンターには三人の受付嬢がおり、そのうちの二人は応対中だ。

 私たちは空いている受付嬢のもとへ足を運んだ。


 ふむ、しかし……。

 中はかなり綺麗にされているようだ。

 ワーグナーの屋敷のエントランスと比べても、優劣はつけられそうにない。

 こちらの管理はきちんと行き届いているんだな。


 ……だが、こちらの管理は……。

 ハウスの職員の質は高い。しかし、質が悪いのは……アドベンチャラーたちだ。


 身のこなしから、鍛錬の不足と質の悪さが。

 装備品から、所持者の心持ちの低さ、懐の薄さが。

 手に持っている物から、普段の生活態度と品格の悪さが。


 力だけはあるようだが……。

 だめだ。弱い。

 あいつらにとっちゃ、木の棒ですら宝の持ち腐れだ。

 

 この世界の戦闘組織と言うから、期待していたのだが……がっかりだ。


「登録にきた。私、ガイオス・エラド並びに、ワーグナー・エヴィデンス様の推薦だ。よしなに頼む」

「かしこまりました」


 ガイオス……AAクラスのアドベンチャラーと、この都市を治める貴族からの推薦という言葉に、周囲のアドベンチャラーたちがざわめく。

 ……第一印象は最悪だな。嫉妬の感情が渦巻いている。

 ガイオスは、私の素顔が晒されることで今後の生活に不自由が出ることを心配して、私に仮面を着けさせたのか……。


 まあ、こいつら程度の実力なら微塵も問題は起きないだろう。どうせ、暴力に訴えるだけの野蛮な連中だしな。

 扉の前にいた酔っ払いがたくさんいるなら、さすがにしんどかったが……。

 中にいるのは、しょうもない連中ばかりだ。問題ない。まったく。


「それでは、闘技場へご案内いたします。エラド様もご同行なされますか?」

「ああ、そうさせてもらおう」





 私たちはアドベンチャラー・ハウスの奥……隣に建てられている闘技場に案内された。


 闘技場は円形で、高さは四階建てほど――アドベンチャラー・ハウスと同じぐらいの高さだ。

 上から見ると二重の円形で、外円と内円の間に観客席。内円の内に整備された地面――闘技場だ。

 地面には長方形状に白線が引かれている。魔法で地面そのものに刻まれているようだ。


 そこの真ん中で、一人の男が細剣レイピアを振るっていた。


 あとは、それを眺めるアドベンチャラーたちか。

 先ほどのアドベンチャラーたちよりは強そうだ。まともそうだし。


「支部ちょ――」

「――君か。彼は私が直々に相手する」


 支部長と呼ばれた男は動作を止め、私に細剣レイピアの剣先を向けてきた。

 

 礼儀知らずなやつだ。

 受付嬢の言葉を遮り、私に剣を向けるとは。


 ……まあいい。


 私たちは受付嬢の案内に続き、闘技場に下り、支部長の前に立った。


「あ、あの……では、私は……」

「ああ、君は審判をしてくれ。すまないな、今回は特別なんだ」

「は! かしこまりました」


 観客席にいた、厳つい顔の男が審判に回った。

 この男が本来の試験官だったのだろう。


 今回は特別……AAランクアドベンチャラーと領主の推薦だから、だろうな。

 ガイオスは剣術指南役も兼ねているし、影響力は大きいのかもな。


「さて、と。まずは仮面を取ってくれ。写真を撮らせてもらう」


 私が指示に従って仮面を外した瞬間、パシャッという音と光が走った。

 私が屋敷に来たときにもやられたな。なるほど、これが写真か。科学世界にはあったが、魔法世界ではあまり見なかった。

 面白いな、この世界は。やはり異常イレギュラーだ。


「写真は三年ごとに更新だ。忘れるな。忘れるとランク降格となる。さて、名前は?」

「レスク・エヴァンテール」

「レスク……エヴァンテール(・・・・・・・)か。まさか、エヴィデンス様がなぁ。……さて、あとはランク決めだ。さあ、その剣を構えて。魔法は?」


 ……話がとんとん拍子すぎる。

 他人に対する気遣いが足りていないのではないか? 本当に支部長か?


「……魔法()使える」

「そうか。なら、私もそうしよう」


 私と支部長は、闘技場で向かい合った。


 私は買ってもらったばかりの紅い剣を抜き、支部長は細剣レイピアを抜いた。

 

 この男は……少なくとも(・・・・・)ガイオス級に強い。

 しかし……私はガイオスの本当の強さを……底を知らない。波長こそ見えるが、その本気を知らない。

 だから、彼は物差しにすらならない。してはいけない。


 魔法は、現時点で水と風。火は……基礎を飛ばして、爆発を。

 基礎を飛ばしては、汎用性に難が出てくるのだが……。まあ、爆発も基礎の内か。


 他にもいろいろな魔法を覚えた……発見した。


 波長を組み合わせることで、中級以上――波長二つ以上の魔法をも習得できるのだが……その材料がまだ少ないからな。

 材料をたくさん揃えてから一気に調理した方が……楽しいだろう?


 そしておそらく、この男も魔法が使える。その波長を真似すれば、私もすぐに使えるようになるだろう。

 波長がいくつでも問題ない。

 

「その剣も精霊が宿っているのか? ……面白い」


 そう言うが、支部長の細剣レイピアも薄く、緑色に光っている。これが精霊剣か。

 私の剣に宿っているのは元・人だ。私の見てきた中でも、上級の精霊に位置する。……精霊に分類していいのならな。


 支部長の、剣を持っている腕の方の袖が揺れている。魔法ではない。

 ……なるほど、風の精霊か。

 しかしアルティナと比べると、どうしても弱く見えてしまうが……そこまで弱い精霊というわけではない。

 力を上手く剣に抑え込んでいるのだろう。

 油断はできない。


「両者、準備はよろしいでしょうか?」


 私と支部長は互いに武器を構え、うなずく。


「それでは――開始!!」

 

 




 


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