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第115話  おばけ

 王女の才能はどれを取ってもぴか一だが、霊力に関してはずば抜けている。


 王女は今、その霊力を自覚することに成功した。才能の蕾が、冬眠から目覚めた。

 花を咲かせることができるかどうかは……王女の霊力を扱う才能に懸かっている。


 だが、問題ないだろう。


 現に、霊力を自覚した途端に霊力を噴射し、一体の霊を消滅させることに成功している。

 最初は身に纏う――利き手に纏わせる程度で合格だと思っていたのだが……まさか一気にこの段階――霊力の対外放出まで来るとはな……。




 王女は剣を抜き、刀身に霊力を這わせた。

 宿すまではいかずとも、表面を覆う程度だが……この程度の霊相手、それだけで十分だろう。


「王女、霊力の扱い方は気や魔力と一緒でいい。感覚が違うから難しいと思うかもしれないが、一度感覚を掴めば簡単だ」

「うん……」


 王女は右腕に霊力を集中させ、試行錯誤しているようだ。

 剣に移動させるつもりか。


 持っている量が多いからな。逆に難しいだろう。

 細かく、繊細に動かす方法を掴めなければ……いつの日か、暴発する可能性がある。そうなれば、大問題だ。


 王女は気を習得して間もない。習得と呼んでいいかは、要議論だがな。

 しかし今は、霊力を習得するのに、これ以上ないほど良いタイミングだ。


「はぁあっ!」


 王女は剣を振るい、一体の霊が真っ二つ。そして消滅。


 霊と言っても、灰色の煙のような不定形。眼のような赤い光が二つあるだけだ。

 霊と呼んでいいのか悩んでいたところだ。


「レスク……これって、本当に霊?」

「ああ、私も悩んでいたところだ……。魔獣だったりするのか?」

「さあ? 初めて見るから……」


 ただ……見た目以外の特徴は、完全に霊のそれだ。

 幽霊船にいたあれらは、アルグレットの血で以下略。つまりは特殊ケース。


 でもな……アルティナがいるしな。

 とりあえず、霊(仮)とでもしとくか? 

 ……そこらで見る霊はどれもアルティナのようで、人となんら変わりない姿をしているからな。

 こいつらは、念が強すぎる霊……といったところか?


「まあ、とりあえずは霊ってことでいいんじゃないか? 新種の魔獣なんて味気ないしな」

「……そう……ね!」


 王女はもう一度剣を振るい、それに合わせて二体の霊が消滅した。


 ふむ……徐々に、剣の内部に霊力が浸透している。

 もしかして、物に霊力は宿りにくいのか?


 私のこれは魔法で作り出したもの……つまるところ、魔法とも言える代物。

 霊力は魔力と親和する。


 対し、王女の剣は――もちろん、高くて良い物だが――、一般的に売られている普通の剣。

 鉱石を叩き、形を変えてできた……つまるところ、物質。


 霊力は物質との親和性がほとんどない?

 ……いや、もしかして……。


 王女の剣は、さすがは王族でということもあり、かなり上等な代物だ。

 上等な鉱石に、腕利きの職人。


 ――としては十分か?




 精霊剣は、剣に精霊が宿ることで生まれる。

 神剣は、剣に神が…………神が宿ることで生まれる。


 ――なら霊剣は?

 霊が宿る、とばかり思っていたが……まさか、霊力が剣と親和することで生まれるのか?


 それとも、どちらも正しいのか?

 まあいい。この仮説が正しいか否かは……この霊たちがすべて消滅した頃には明らかになっているだろう。

 どちらも正解かもしれないが、後者の真偽は、すぐに明らかとなる。


「王女。そいつらに〈防護膜プロテクション〉を破るほどの攻撃力はない。斬ることと霊力だけに意識を割くんだ」

「……うん」


 王女は手当たり次第に剣を振ることをやめ、その場で立ち止まり、眼を閉じた。

 王女の霊力が研ぎ澄まされているのを感じる。すごいな。


 ……綺麗だ。


 霊たちが手(?)を鉤爪のような形にし、王女に襲い掛かるが……〈防護膜プロテクション〉がそれを防ぐ。


 霊体は防ぎません……なんてことになったらどうしようかと思ったが……。

 ちゃんと防いでくれるようで何より。

 …………なんだ、王女の霊力が混ざっているのか。


 ……だが、粗が目立つ。霊の攻撃に合わせて〈防護膜プロテクション〉上を王女の霊力が移動し、攻撃を防いでいるってところか。

 無意識の防衛反応……か?


「すぅ…………はぁ…………」


 王女が呼吸を一つするたびに、霊力が目に見えて研ぎ澄まされていく。


 なるほど……これが霊圧か……ッ!

 王女の霊力が強く、強くなっていくにつれ、表現しようのない圧力が周囲を覆う。


 霊たちが必死に王女に攻撃を仕掛けるが、王女の防御は突破できず、傷一つつけられない。

 王女の霊力のおかげで、霊たちは私たちには目もくれない。


「『――〈白雷千閃はくらいせんせん〉』」


 王女の声の裏に、何か別の声が聞こえた。


 だがその瞬間、王女の腕が……肩口から霞んだ。

 私の動体視力でもかろうじて追えたレベルのスピードだ。


 そして、辺りを真っ白な霊力の稲妻が駆け抜け、すべての……そう、この街のすべての霊の気配が消滅した。

 霊感のない人間でも感知できそうなほど濃密な霊力だった。


 ――純粋な霊力のみによる攻撃


「う……」

「――マイス!」


 倒れ込む王女を、私は抱え込んだ。


「レスク……私は…………」

「ああ、おめでとう。お前はやはり最高の霊力を持っていた」

「よかった……」


 なるほど、霊力の急激な消費による疲労か。

 確かに大分減ったな。……だが、それ以上の収穫がここにある。


 霊力を帯びた影響か、刀身は薄青く染まっている。

 以前、課外授業中に襲ってきたチンピラたちの持っていた霊剣とはわけが違う。


「――肝試しも無事終了しました。それではみなさん、ウェルダルでの良い日々を! また明日、太陽が昇ったときに」


 …………終わったのか。全然歩いていないぞ。


「やれやれ、本物のお化けと戦う肝試しがあるか」

「ふふ……会長に文句つける?」

「ふっ……そうしたいのはやまやまだがな。証拠がないんじゃあな。報酬は諦めるしかないかな」

「そうね……ふふっ」


 笑いが漏れ、一度溢れたソレは止めどなく流れ出した。

 収穫も多かった。特に王女の成長は特筆すべき点だ。


 


 ……チッ!

 霊はやはり、今後の研究のために、一体でも生け捕りにすべきだったか。

 武器に霊が宿ることで霊剣が生まれる説を証明するチャンスだった。



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